「フロスをするか死を選ぶか」…毒素が全身に回る「歯周病の恐ろしさ」とフロスの「驚愕すべき効果」

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〈FLOSS or DIE〉
これは’97年にアメリカの歯周病学会が発表したスローガンで、直訳で「フロスをするか死を選ぶか」という意味だ。
なかなか衝撃的なフレーズではあるが、それほど歯周病が恐ろしい病気であり、その予防にはフロスが適しているという主張が強く伝わる。
歯周病のメカニズムについて、日本大学歯学部名誉教授の落合邦康氏はこう解説する。
「歯周病は、根本的に虫歯とは違う病気です。虫歯になると虫歯菌がエナメル質など歯の硬組織を溶かします。ただ、エナメル質には血管が通っていないので虫歯菌が全身に回ることは滅多にありません。
一方で歯周病は、歯周病菌が歯肉組織に入って炎症を引き起こす病気です。その際、炎症部位の歯肉組織細胞や免疫細胞がサイトカインという炎症物質を産生する。歯肉組織には血管が走っているので、この炎症物質が血液に乗って全身に回ってしまいます。
これが糖尿病や誤嚥性肺炎、心臓疾患を引き起こすリスク因子として論文でも認められています。他には咽頭がんや膵臓がん、大腸がんなども、歯周病菌による炎症物質の発生がリスク因子になると考えられています」
歯周病の原因となる歯周病菌は、主に歯垢(プラーク)に含まれている。そのため、歯周病の予防や対策には歯垢を取り除くことが重要だ。
歯垢は、歯と歯ぐきの間にある溝(歯周ポケット)や、歯と歯の間にくっつく。歯周ポケットの歯垢は、歯みがきである程度は取り除くことができるが、歯と歯の間にある歯垢をきれいに除去することは難しい。この歯間こそ、フロスが活躍する場所なのだ。
訪問歯科医師で医療法人「彩優会」理事長の伊東材佑氏は、こう解説する。
「歯垢の除去率は歯ブラシだけだと約6割、フロスを併用すると約9割くらい取れると言われています。逆に言えば、フロスを使わないと歯周病菌はいつまでも残ってしまうのです。また、脳には『血液脳関門』という病原体や有害な物質を止めるバリア機能があります。ところが、歯周病菌の毒素はそこを通り抜けるので、アルツハイマー型認知症のリスクも高まります」
決して〈FLOSS or DIE〉が誇張表現ではないことがわかるだろう。「歯間ケア」を怠ると、寝たきりになってもおかしくはないのだ。
「これまで虫歯になったことのない人でも、フロスなどのケアを怠れば歯周病になる可能性は高いと言えます。特に40歳を過ぎると、歯肉が縮んで歯と歯肉の隙間(歯肉溝)に歯垢がたまり、細菌が歯肉に入り込みやすくなります。
同時に、加齢による免疫力低下で歯周病菌の影響を受けやすくなる。『歯肉溝に歯垢が溜まりやすくなる』『免疫が落ちる』のダブルパンチで、炎症を起こしやすく、疾患のリスクも高まってしまうのです」(前出・落合氏)
「週刊現代」2025年3月29日号より
フロスは歯みがきの「前」か「後」か…プロが明かす「歯間ケア」の秘術とは

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