ここに6枚の写真がある。いずれも3月中旬――開幕の約1ヵ月前の大阪・関西万博会場の内部を写したものだ。
タイプAと呼ばれる各国が独自に建設するパビリオン(ブラジルは当初タイプAだったが、現在は日本が建設を代行するタイプXに移行)で、足場が組まれたままだったり、周囲が未舗装だったりと、完成からは程遠いのが一目で分かる。
開幕は4月13日である。万博会場でパビリオン建設に携わっている作業員の一人は「絶対に間に合わない」と苦笑いする。
「だって47ヵ国が出展するタイプAのパビリオンが、3月10日時点でわずか8棟しか完成していないんですよ? 来場者の目に触れる部分だけ間に合わせて、開催期間中も工事を進めて仕上げるつもりでしょう。運営もさすがに焦ったのか、2月から三交代制の24時間態勢での突貫工事が始まりました」
万博会場の夢洲は埋め立てでできた人工島で、かねてより液状化や土壌汚染、地盤沈下の問題が指摘されていたが、なぜここまで工事が遅れているのか。
「去年2月頃になってもまだ地盤改良の工事をしていましたからね。しかも、4月から建設業界に時間外労働の上限規制が導入された。タイプAの施工スケジュールがタイトで間に合わせるのが難しいと分かって、人手も資金力もある多くの大手ゼネコンが引き受けなかったんですよ。
結果、タイプAのほとんどのパビリオンを地元の中小の工務店や建設会社が請け負うことになった。私のところは比較的人手が足りていますが、″安い日当しか出せないので作業員が集まらない″と嘆く業者もいます。パビリオンによっては母国から呼び寄せた外国人技術者や作業員もいて、以前はヘルメットを着用しない人もいた。国ごとで安全に対する意識は異なりますから。
タイプAのパビリオンは、参加する国がそれぞれ建設します。工事を請け負う会社は『不況で円安の日本より潤沢な予算がある』と期待しがちですが、実際は現地の中間業者による中抜きが横行していて予算はカツカツ。そのうえ、資材が高騰していて儲けが少ないのも、大手が狷┐欧伸甍谿でしょうね」(同前)
いったい大阪で何が起きているのか。3月中旬、記者は万博会場に飛んだ。
今年1月に開業したばかりの最寄り駅・夢洲駅の改札を出てエスカレーターで地上に上がると、すぐ目の前に万博会場が広がる。平日の午前中にもかかわらず、付近には外国人観光客や未完成の会場をスマホに収める老夫婦、子供連れの家族の姿があったが、会場の周囲はネットフェンスで覆われ、関係者以外、中に入ることはできない。
遠目に、″万博のシンボル″とされる世界最大級の木製リングがチラッと見えた。こちらは大林組、竹中工務店、清水建設など大手ゼネコンによる共同企業体が建設。開幕前に完成したものの、盛り土が海水に浸食されるというトラブルに見舞われた。
会場内からは絶え間なく工事音が聞こえ、関係車両や作業員が使う出入り口では、ダンプカーやシャトルバス、白いヘルメットを被った男性たちが忙しく行き交っていた。会場から一区間先のコスモスクエア駅付近のコインパーキングでさえ、昼間から工事関係者の車両で満車となっている。
前出の作業員はこうも嘆いた。
「急ぐあまり、『工事がストップするから、小さなケガぐらいだったら報告するな』とお達しが出ている現場もあるそうです。労務管理もヘッタクレもありません」
開幕までにパビリオンの工事は完成するのか。24時間態勢での突貫工事は事実なのか。大阪・関西万博を主催する『2025年日本国際博覧会協会』は以下のように回答した。
「一部のパビリオンにおいて、24時間作業を実施する旨の申出書が提出されています。各建設工事にあたっては、適切に労務管理がなされていると認識しています。タイプAについては、完了証明証を交付したパビリオンが、42棟中12棟となります(3月14日時点)。各パビリオンの独創的な外観や魅力的な展示を実現できるよう、開幕へ向けて、引き続き参加国をサポートしていきます」
開幕の日は刻一刻と近づいている。
『FRIDAY』2025年4月4・11日合併号より