「医学的根拠ない商品も…」フェムテックイベントが炎上。医師と運営企業を取材した

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「フェムテック」という言葉を知っていますか?
フェムテックとは、「Female」(女性)と「Technology」(テクノロジー)をかけあわせ生まれた造語で、女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決できる製品のことを指します。
内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022(女性版骨太の方針2022)」では「フェムテックの更なる推進」が発表され、また2021年には新語・流行語大賞にノミネートされるなど、近年大きな注目を集めています。
多くの企業が参入し、盛り上がりを見せているこの新たな分野ですが、一方でさまざまな問題も抱えているようです。
最近では、2022年10月14~16日に開催された「Femtech Fes!(フェムテックフェス)」や、10月20~22日に開催された「第1回 Femtech Tokyo(フェムテックトーキョー)」などのフェムテック関連イベントについて、その展示内容が来場者や識者の間で物議を醸しました。
今回はフェムテック関連イベントの出展内容や、フェムテック業界全体が抱える課題について、産婦人科医の重見大介氏に話を聞きました。
◆医学的根拠のない商品も目に付いた
10月に開催されたフェムテックトーキョーでは、約200社の企業が参加し「生理・月経」「妊活・妊よう性」「妊娠期・産後」「プレ更年期・更年期」「すべての女性向け」の5つのエリアで各商品が展開されました。
重見氏は、近年のフェムテック関連イベントにおける出展内容にどのような感想を抱いたのでしょうか。
「まず狭義の意味での『フェムテック』とは、“女性の健康課題を解決するためのテクノロジー”を示します。しかし最近のフェムテック関連イベントでは、それに該当しないような出展物も目につきました。
例えば、『女性器に装着することで、女性ホルモンの分泌を促す』といった商品。これについては、産婦人科医の目線から見て医学的根拠がないものですので、“女性の健康課題を解決する”というフェムテックの定義に当てはまらないものと言えます」(以下、重見氏)
さらに、出展物の配置についても疑問を投げかける。
「特に多かったのが女性器に塗ったり、入れたりして体の調子をよくするといった商品ですが、これらを分類するのであれば、フェムテックというより“フェムケア”(女性の体をケアする)ではないでしょうか。種々のイベントでは、狭義のフェムテックに該当する商品とそうでないフェムケア商品が区別されずに混在している印象を受けました」
◆“医師監修”でも鵜呑みにできない
フェムテック関連イベントを訪れた人々からも、開催期間中より一部の出展物が医学的根拠に乏しいといった声がSNSなどで上がり、各商品を開発する企業側、それらを消費者に紹介する展示会側の姿勢が問われています。
「複雑なのが、私たち専門家が効果を疑問視するような商品の中には、医師が監修しているものもあることです。つまり医師側も『医学的な根拠がない』と内心で思いながらOKを出してしまうパターンもある、ということですね。
その商品を監修している医師の意見が、医学的・科学的に妥当性があるかというのは、一般の消費者にはわからないところもあると思うので、『医師監修』という商品の謳い文句も一様に鵜呑みできないのです。これは医療業界の問題、また“何がフェムテックなのか”という明確なルール付けがされていない業界全体の問題だと思います」
また、運営側の問題については次のように指摘します。

◆過剰PRでフェムテック本来の意義が見失われるリスクも
重見氏は、エビデンスに乏しいだけでなく、謳い文句が過剰な出展物もあったと指摘します。2025年までには500億ドル(約5兆円)規模になるとも予想されているフェムテック産業。市場が急拡大することでマーケティングに特化しすぎている点も指摘されています。
「『フェムテック』はデンマークの女性起業家によって使われ始めた言葉とされており、もともとビジネスの分野で発生した言葉なだけに、今のような傾向はある程度仕方のないことだと思います。むしろビジネスとしての拡大の動きがなければ、分野として成長が止まってしまう側面もありますので、必要な面とも言えるでしょう。
しかし過剰な商品PRや、本来の意味からかけ離れてしまった商品が売り出されてしまうと、もともとのフェムテックが持つ意義も見失われてしまう危険性があることも忘れてはなりません。そうしたことを防ぐため、海外では多くの場合に、医療機器承認を目指して開発が進められたり、食品医薬品局の認可があったり、データをしっかりと提示していることが前提とされています」
また重見氏は「本当に女性の課題解決に役に立つ商品であれば、過剰なPRは必要ないはず」と話します。
「テクノロジーを利用し、女性の健康課題を解決してくれるような商品・サービスであれば、過剰なPRをしなくとも消費者に十分訴求できます。そのあたりが日本のフェムテック業界では実行できていないからこそ、現状の問題が生まれてしまっているのではないでしょうか」
◆“痛くない乳がん検査”など革新的なフェムテックも
では、本来のフェムテックが持つ意義にのっとった商品とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
「例えば、痛みを感じずにマンモグラフィー(乳房専用のX線検査)を受けることのできる検査機器の出展を見かけました。患者さんからは、マンモグラフィーの検査をする際に発生する痛みがストレスになっているというお話をよく耳にします。それを取り除くことができ、かつこれまでのマンモグラフィーと同等の精度で検査ができるのであれば、それは非常に革新的なフェムテックであると言えます。こうした製品は、今後も世の中に広まってほしいですね」
最後に、消費者側である私たちが、今後いかにしてフェムテックと向き合うべきかについて聞きました。
「まずは、その商品が効果をデータとして開示しているかどうかを必ず確認してほしいです。なかには信ぴょう性のないデータをPRしている商品もあるので、自社アンケートだけでなく、客観的な調査で結果を出しているかどうかに注目してみる必要があると思います。
もう一つは医療で同じ問題が解決できないか、という視点を持つこと。例えば『生理痛がひどい』という悩みを抱えているとしたら、ピルの処方など、高い効果が見込める治療が病院で、しかも保険診療で受けられます。フェムテックだけに解決策を求めるのではなく、一人ひとりが一番確実で安全な策を探してみてもらいたいです」
◆フェムテック関連イベントの運営側にメール質問
日刊SPA!編集部は、近年開催されたフェムテック関連イベントの一つであるフェムテックトーキョーの運営会社「RX Japan」に質問を送付。下記のような回答を得ました。

Q.「(実際に最新のテクノロジーを活用し、女性の抱える課題の解決に導くような)フェムテック製品と、(膣ケアなど女性の体を“ケア”する)フェムケア製品が混在していた」との意見もありました。会場での出展ブースの配置などはどのように決めたのでしょうか? A.本展は、「フェムテック・フェムケア製品やサービスが一堂に出展する展示会」と定義しており、その旨はHP, 出展募集や来場誘致の資料などにも明記し公開しております。ゆえにフェムケア製品も多数出展しております。また、ブースの配置に関しては、女性のライフステージに合わせた5つのゾーンで構成しております。 Q.出展される製品やサービス、また出展企業については、なにか採用基準などを設けていたのでしょうか? 設けていた場合、どのような採用基準でしょうか。 A.出展商材については、展示会という公の場であるためオープンに募集をさせていただいております。その上で、フェムテック・フェムケアの出展対象とずれているものに関しては、確認の上、出展をお断りしております。 Q.出展される製品やサービスのエビデンスについて、個々に運営側で確認などは行なっていましたか? 行なっていた場合どのように確認しましたか。 A.最初の質問の回答と重複しますが、出展される製品のエビデンスについては出展社様の責任でご出展頂くようアナウンスしております。一方、前述の通り出展に際してご注意いただきたい薬機法に係る広告表現についての啓発セミナーを出展社向けに行うなどの啓発活動を行っており、次回に向けても取り組んでゆく予定です。 Q.主催者側(運営サイド)に産婦人科医などの医療関係者はいましたか? もしくは開催にあたり、(医療分野に限らず)フェムテック関連の専門家の監修、指導などはありましたか。あった場合、どういった方がアサインされていたか教えてください。 A.弊社は見本市の主催企業であり、医療関係者はおりません。企画などに関してアドバイスをいただくことはございました。一方で開催にあたり、本展の協力団体様にご協力を頂き、 出展に際してご注意いただきたい薬機法に係る広告表現についての啓発セミナーを出展社向けに行うなどの対策を行っておりました。 Q.次回開催の予定はありますか? ある場合、今回の開催を踏まえ、どのようなイベントにしたいと考えていますか? A.来年も10月に開催予定です。ご指摘の改善点がある一方、多くのご来場者様、ご出展社様にご評価をいただいており、すでに今回の2倍のペースで次回の出展申し込みを頂戴しております。引き続き「女性がより健やかに活躍できるよう、社会全体がサポートする未来の実現」に貢献する展示会を真摯に開催していきたいと考えております。 また、ご指摘を頂いた事実に関しては、今回も対策を行っておりましたが、より徹底して開催の準備を進めていく所存です。具体的には、
1)薬機法に係る広告表現についての啓発セミナーを出展社向けに行う 2)会場で広告表現に関して問題がある会社には是正を促す 3)出展社からの相談窓口を設ける
などといった対策を外部機関と一緒に検討しております。 本展は、女性のライフステージにおける様々な健康課題を解決できるフェムテック・フェムケア企業が一堂に出展する展示会です。今後もオープンな場であり続け、女性の健康と活躍をサポートする社会の実現に貢献したいと考えています。
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国内では黎明期と言えそうなフェムテック業界。今後の動向を注意深く見守る必要がありそうです。

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