「鮨に手をつけるタイミング」で出世するかわかる…名店の大将が見た「仕事もプライベートもデキる人」の特徴

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※本稿は渡部朋仁『カウンター越しに学んだ富裕層の成功思考』(サンライズパブリッシング)の一部を再編集したものです。
くつろいだ時間を一緒に過ごしながらも、決してダラダラしないのが成功している人たちの共通点。デキる人ほど、短時間で勝負を決めていくという印象があります。
まずは鮨を楽しみながら、仕事の話は抜きで釣りやゴルフといった趣味の話、うまい店の話などでお互いリラックスします。そこに、私のような鮨屋の大将が加わることもあるわけですが、あくまでも和やかに。
ビジネス面を考えれば、決裁権があるような重要なポジションにある人が会うわけですから、おそらく商談の最終段階です。そこまでにある程度の時間をかけていて、関係性も深まっている頃。
きっと、ビジネスにおいて関係性をつくることを正しく重要視できる人たちでしょう。だからこそ成功しているのだと思います。商談の最終段階には、ちょうどお互いのキャラクターなども見えてきて、鮨屋で和やかに話ができるようになっているのです。
だからといって、友だちとも違う。親しげな雰囲気を保ちながら、ビジネスを意識することは決して忘れていないはずです。だから、ダラダラすることはない。どんなに長くても2時間。2時間以内に席を立つケースがほとんどだと思います。
その決して長くない時間の中で、話が十分にはずんでから、まるでついでか何かのようにビジネスの話を付け足しているようです。もちろん、相手もそのタイミングでビジネスの話が来ることはわかっている。だからこそ、結果はどうであれビジネスの話もダラダラと長引くことはない。
そんなふうに、ビジネス会食とはいえプライベートで楽しむ空間をまずつくり、そこにビジネスをはさみ込めるスマートさがあるのが成功者なのだといつも感じます。
つまり、(ビジネス会食+プライベート)÷2で鮨屋を利用されているわけです。
私はビジネスの話にはもちろん加わりませんし、詮索することもありません。ただ、お得意さまが次に来店された時に、「この間はありがとう。うまくいったよ」とおっしゃってくれることが多いので、鮨屋で最後のひと押しをする商談は、ほぼほぼうまくいくのだと思っています。
お得意さまのビジネスの成功に、少しでもお役に立てる場になれることは、私たち鮨屋にとっても大きな喜びです。さらにうれしいのは、お得意さまが連れて来られたお客さまから、「次、また来てもいいかな」「自分もこの店にお客さまをお連れしたいんだけど」と、声をかけていただけることが多いこと。
決して長くない時間ですが、カウンター越しに空間を共有することで、この店が商談に使うのに信頼できるのかどうかを判断されているのだと思います。そしてこちらも、お客さまが店を使いたいシチュエーションを即座に理解していると自負しています。
お客さまと鮨屋という関係で、おこがましいかもしれませんが、わかり合える。ありがたいことに、そういうお得意さまたちにごひいきにしていただけるからこそ、こちらも利用していただくにふさわしい店であろうと気を引き締める毎日です。
鮨屋を使って商談をする時に、いっさいガツガツしたところを見せない。それが、成功する人たちの共通点です。
だから、彼らの鮨屋の使い方は「(ビジネス会食+プライベート)÷2」ではあるのですが、ビジネス会食とプライベートの割合が2:8くらいかもしれません。そうすると、2で割ったとしてもプライベートの割合がやはり高くなります。
もちろん、鮨屋を商談の場として使ってくださるお客さまもさまざまなので、すべての人がビジネスの話を最後の方にさりげなく滑り込ませることができるわけではありません。時おり、自分はまったく鮨に手を付けることなく、仕事の話に夢中になってしまっている人を見かけることもあります。
しかしそういう場合には、商談相手の人は楽しそうではありません。せっかく鮨屋に来てカウンターに腰を下ろしたのに、もう仕事の話か。内心は、そんな気分になっているのではないでしょうか。
営業スタイルがよくわかる例としては、少し前の製薬会社のMRの方々が思い浮かびます。最近は時代が変わったのか、あまり見なくなりましたが、以前はMRの方々が営業相手である医師を連れて来られることが多く、よく目にしていました。
鮨屋でのふるまいで、私にはそれぞれのMRがどう評価されるかがよくわかったものです。まず、食べることよりも仕事の話が気になってしまうタイプ。必死さが目立ち、医師の方から「まあまあ、まず食べようよ」とたしなめられることもあります。どんな業界にも苦労はあると思いますが、今も昔も医薬品の営業は熾烈を極めます。MRが自分の成績のために必死になっていたのは、ある意味では当然のこと。それでも、その必死さが見えてしまうとどうでしょうか。
営業を受ける医師の方の「まあまあ、まず食べようよ」という言葉に、ポジティブな要素はあまり感じられません。
一方で、「先生、まずはうまい鮨を食べてください。この店、好きなんですよ。ぜひ先生にも食べていただきたくて」と食べる楽しみを提供し、酒をすすめるのも上手なMR。鮨や酒についての話題は、うまくこちらに頼ってくれて、仕事よりも先に食べさせ、飲ませて、いい気分になってもらうことを優先するタイプの人もいました。
それも、「気分を良くさせれば、仕事がうまくいくだろう」といった下心のようなものはいっさい感じさせず、食べる時には自分自身も心から一緒に楽しむ。そこが重要です。自分が楽しんでこそ、相手も楽しめる。それをよくわかっていて、仕事の話で水を差すようなことはしません。かえって医師の方から「あの薬の話をしたいんじゃないの?」と話題を向けられるようなことも。
そこまで待てる余裕があるのです。そして、酒を飲んだとしても決して酔うことはありません。
そういうデキる人は、あっという間に出世していくイメージがありました。そして、サラリーマンとしてはかなり成功したと言える地位や役職を手に入れるわけです。
なぜ余裕があるのか。それは、鮨屋で商談をする時に限らず、常に仕事第一であくせくすることがないからだと思います。
スマートにうまく仕事をすすめる人は、もちろん仕事に全力を尽くすことは前提ですが、仕事以外の自分の世界を持っている人が多いです。つまり、自分の人生において、仕事もプライベートもバランスよく力を入れているのだと思います。
多趣味で、仕事関係に限らずいろいろな人と交流を持っていて、いろいろな場所へ足を運び、いろいろなものを食べている。つまり、経験が豊富なのです。
だから、自分のお客さまと鮨屋のカウンターで肩を並べた時に、相手に合わせてさまざまな会話の引き出しを持っています。どんな相手とでも話がはずみ、押しの強さを感じさせないのに必要な話はキッチリとする。仕事ができる人に限って、仕事に人生を捧げているわけではないと感じます。
もちろん、仕事への取り組みは熱心です。それでも、あくまでも自分が主導して仕事をし、プライベートにもバランスよく心を向けているのです。決して、仕事に主導権を渡して振り回され、自分を失うことがありません。
そういう人は、結果的に視野も広くなるので、人として付き合った場合にもおもしろい。
接待される側は、たとえばMRの営業相手が医師であるように、より成功者であることが多いもの。すでに成功している人は、相手が自分の側の人間なのか、そうでないのかを敏感に感じ取ります。
だから、余裕があり仕事にばかり汲々としていない余裕を感じる相手には、心を許す。結果的にそれが、商談成立に結びつきもしますよね。
逆に、自分の側の人間ではないとか、違う価値観で生きていると思われれば、仕事においてもなかなか共感し合えないためにいい結果を得にくいのかもしれません。
鮨を握る職人として当然のことですが、お客さまに最適な状態でお出しすることを心がけています。
あまり人に聞かれたくない話をされる政界、財界、インフラ関係のお客さまは個室で召し上がりますが、個室にお出しする際には箸で食べていただくのを前提に、箸ではさんでもくずれないよう固めに握るのが鉄則です。
しかし、一般的に1対1で来店をされるお客さまは、カウンターで召し上がります。やはり、鮨はカウンターで食べるのが一番うまい。私の店では特に、口に入れたらほろりと口の中でほどけるような鮨を考えていて、崩れてもいいほどやわらかく握ります。
デキるビジネスマンは、こちらの意図もわかってくれていて、鮨を出されたらすぐに口に入れてくださいます。鮨も生きているので、いつまでも皿の上に置かれたままではどんどん鮨本来のよさを失い、うまくなくなってしまうことも十分理解されているのです。
カウンターで、握りたての鮨を味わえるからこその鮨屋です。なかなか口に運ばないのなら、鮨屋で接待する意味がありません。
鮨屋に慣れているからこそ、接待でお客さまを連れて来られる。同様に、おそらく高級な鮨屋に慣れているであろう接待相手の方も、スマートにエスコートされることで安心感を得ているはずです。
いくら商談の場でも、せっかくのうまい鮨を食べられるなら、うまいうちに味わう。その共通の価値観がある人たちだからこそ、仕事もうまくいくのだと感じています。
———-渡部 朋仁(わたなべ・ともひと)鮨職人1972年、北海道生まれ。東京の有名日本料理店や老舗の鮨店で修行したのち、2003年地元の北海道中標津町に戻って、鮨わたなべを開業。2018年には鮨わたなべ札幌店をオープン。北海道の食材を江戸前の技法を用い“わたなべ流蝦夷前鮨”で日本中の美食家をうならせている。———-
(鮨職人 渡部 朋仁)

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