どう生きていけというのか…72歳夫が亡くなり「年金6万円」で暮らす68歳妻、生活困窮で食事は1日1回、1年で10キロ減少。それでも「生活保護」は断固拒否のワケ

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老後の生活のベースとなる公的年金。夫婦ともに基礎年金だけという場合、配偶者が亡くなると収入は半減。生活に困窮するというケースも珍しくありません。そこで考えられる選択肢のひとつに生活保護がありますが、「絶対に申請はしない」という人も。その背景になにがあるのでしょうか。
夫婦とともに金物店を営んでいたという増田和子さん(仮名・68歳)。店があったのは駅前の商店街で、以前は大変にぎわっていたといいます。しかし駅から離れた郊外に大型のショッピングセンターができてからは衰退の一途を辿り、近年はお店を開けているだけ……という状況が続いていました。
【商店街の現況】■商店街の景況について繁栄している…1.3%繁栄の兆しがある…3.0%ままである(横ばいである)…24.3%衰退の恐れがある…30.7%衰退している…36.5%※無回答…4.2%■商店街の来訪者・減った…4.6%・変わらない…18.8%・増えた…68.8%※無回答…7.8%出所:中小企業庁『令和3年度商店街実態調査』
【商店街の現況】
■商店街の景況について
繁栄している…1.3%
繁栄の兆しがある…3.0%
ままである(横ばいである)…24.3%
衰退の恐れがある…30.7%
衰退している…36.5%
※無回答…4.2%
■商店街の来訪者
・減った…4.6%
・変わらない…18.8%
・増えた…68.8%
※無回答…7.8%
出所:中小企業庁『令和3年度商店街実態調査』
――もう店を閉めるしかないか
そんな話をしていたとき、夫ががんに罹患し闘病生活を2年ほど続けたのち、72歳で他界。長年、苦楽を共にしてきた夫の死去で大きな喪失感に襲われましたが、すぐにこれからの生活について不安に襲われたといいます。
元々商売がうまくいってなかったため預貯金は心許ない程度しかありませんでしたが、そこに来て亡き夫の医療費により預貯金は大きく減少。資産といえるのは預貯金80万円程度だけ。住まいは持ち家ではなく賃貸であるうえ、生活費は自身の基礎年金月6万7,808円(令和6年度)だけ。生活が苦しかったとはいえ、万一の備えが不十分だったことを悔やんでいます。
【死亡時の遺族の生活に対する不安】・遺族年金等の公的保証だけでは不十分…44.1%・遺族の日常生活資金が不足する…43.5・配偶者の老後の生活資金が不足する…36.7・子どもの教育資金が不足する…23.4・葬儀費用がたくさんかかる…14.0・住宅ローンや家賃の資金が不足する…11.9%出所:公益財団法人生命保険文化センター『2022年度 生活保障に関する調査』
【死亡時の遺族の生活に対する不安】
・遺族年金等の公的保証だけでは不十分…44.1%
・遺族の日常生活資金が不足する…43.5
・配偶者の老後の生活資金が不足する…36.7
・子どもの教育資金が不足する…23.4
・葬儀費用がたくさんかかる…14.0
・住宅ローンや家賃の資金が不足する…11.9%
出所:公益財団法人生命保険文化センター『2022年度 生活保障に関する調査』
月6万円強の年金で生活を続けるのは大変です。そこにきて昨今の物価高で生活はさらに困窮します。
――どうやって生きていけばいいのかと途方に暮れるしかありません
節約するにしてもできることは限られています。簡単にできる節約はまずは食費。増田さん、食事の量、回数を減らし、最近は1日1回というのが習慣化。その1回でたくさん食べるわけではなく、その1回の食事も質素なもの。どちらかというとふくよかだった増田さんは、1年ほどで明らかにげっそり。貯金も底をつきそうだといいます。
――この1年で10キロ以上、痩せました。キレイになってモテちゃうかもしませんね(笑)
陽気に振る舞うものの、周囲が心配するほどの痩せっぷり。生活に困窮しているのは明らかでした。民生委員の女性からも生活保護を勧められたといいます。しかし増田さんは絶対に生活保護を受けるのは嫌だと断固拒否。
――東京で暮らす子どもたちには絶対心配をかけたくない。孫たちはこれからお金がかかるころだし、住宅ローンもあって大変なんだから
生活保護は、日本国憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」に基づいて設立された制度。また制度を活用するためには「生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提」とされています。
資産の活用とは、預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等があれば売却等し生活費に充てるということ。能力の活用というのは、働けるなら働いてくださいということ。あらゆるものの活用とは、年金や手当など他の制度で給付を受けることができる場合はまずはそれらを活用するということ。さらに親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けることが前提となっています。
そのため、家族に知られたくないと生活保護の申請を拒否する人は少なくありません。ここでいわれている親族とは原則3親等内の親族のこと。生活保護を申請すると、3親等内の親族に「申請者を扶養することが可能かどうか」を確認するための扶養照会が行われます。どんなに「家族に心配をかけたくない」と思っていても、扶養照会で「うちの親が生活保護を申請している」とバレてしまうというわけです。
この扶養照会は原則行われますが、親族内でトラブルを抱えている場合は、扶養照会が行われないケースもあります。また扶養照会があったからといって、「親が困っている。助けてあげなさい」としつこく聞かれることもありません。同一世帯であれば子どもの収入は関係しますが、別世帯であれば生活保護申請に大きな影響はないと考えていいでしょう。
結局、周囲の説得もあり、生活保護を申請することに。増田さんの住む町の最低生活費は月9万7,000円ほど。年金との差額、月3万円弱を受け取れるようになりました。「これで食事の回数を増やすことができるわ」と嬉しそうです。
[参考資料]
中小企業庁『令和3年度商店街実態調査』
公益財団法人生命保険文化センター『2022年度 生活保障に関する調査』

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