夫婦喧嘩は子どもの心に悪影響を与え、経済的な影響にも波及する可能性があります。親の不仲による子どもの不安や情緒不安定は、学力や集中力、社会性の発達に影響を及ぼし、将来の経済的自立を困難にしてしまうかもしれません。良好な夫婦関係を築くことは、子どもの健全な成長を促し、ひいては社会全体の経済的安定にも貢献するといえるでしょう。精神科医さわ氏の著書『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)より、みていきます。
両親の不仲は、子どもの存在価値を揺るがしかねないものです。もちろん、子ども自身が親に暴力を振るわれていれば、さまざまな心理的問題を抱える可能性が高くなりますが、どちらかの親が配偶者にDV(ドメスティックバイオレンス)を行っている家庭でも、子どもの心にネガティブな影響をおよぼすことがあります。
家庭でDVが行われていると、子どもは根源的な不安を抱えることになり、正常な愛着形成ができないのです。こうしたケースは「面前DV」と言われ、心理的虐待のひとつとされています。面前DVには、親が子どもの前で配偶者に暴言を吐いたり、両親が怒鳴り合ったり、感情的になじり合ったりしているのを見ることもふくまれます。そもそも子どもというのは、大人が怒っている姿や大きい声を出している姿を見ると、不安になるものです。
そして両親のけんかを見ている子どもは、本当はそんなことはなくても、「自分のせいで親たちがけんかしているのではないか」とか「自分さえいなかったら、両親は幸せなのかもしれない」などと無意識に思ってしまうのです。実際、そんなふうに言いながら診察室で涙を流す子もいます。
さらに、「自分なんてこの世に存在してはいけない」とか「死にたい」などと言う子もいます。このように、夫婦げんかの多い家庭で育つと、子どもの存在価値が揺るがされて、強い不安や虚無感、さらには希死念慮(死にたいと思う気持ち)を持ってしまうことがあるのです。
でも、親だって完ぺきではありません。一緒に住んでいれば、夫婦げんかをすることもあるでしょう。ただ、夫婦間ではいろいろあったとしても、少なくとも子どもの前では声を荒らげないことが大切です。
人間は、感情的にイライラしてくるとどうしても声が大きくなり、早口でまくし立ててしまいがちですが、親がそのように怒りやストレスを感じている姿を見ることは、まだ親を失ったら生きていけない子どもにとって大きなストレスになるのです。
私の診察室には、不安の強いお子さんも多くやって来ます。たとえば、そういう子の親御さんには、「家の中では人に聞こえるもっとも小さな声で、ゆっくりおだやかに話すようにしてください」と言っています。不安の強い子どもがいる場では、日常的におだやかに話すことを心がけてください。
「たったそれだけで不安がなくなるの?」と思われるかもしれませんが、想像以上の効果があるのです。お子さんがもしなにかに不安を感じていたり、もしくは漠然と不安を感じているときには、試してみてください。
まず、けんかはしないほうがいいですし、けんかは子どもの見ていないところでするようにしたほうがいいでしょう。イラッとして、ついパートナーに怒ってしまいそうになったとき、その姿を見せることは子どもの心に悪影響を与える、ということを思い出してください。
それでも、もし子どもの前で夫婦げんかをしてしまったら、そのあとに仲直りをした姿までを子どもに見せることが大切です。ただ感情的にけんかをして終わりではなくて、仲直りをして関係がもとに戻る姿や、お互いに謝る姿、許し合う姿を見せるのです。それは、子どもが人間関係を学ぶうえでも、とても大切なことです。
児童精神科医のつぶやき夫婦げんかをしたら、仲直りまで子どもに見せましょう
児童精神科医のつぶやき
夫婦げんかをしたら、仲直りまで子どもに見せましょう
精神科医さわ