物価の高止りが続き、国民は悲鳴を上げている。財務省解体デモが話題を集めるのも無理のない話だろうか。まずは総務省の小売物価統計調査から見てみよう。10年前の2015年1月、東京都23区内でコシヒカリ5キロは2311円で売られていた。ところが今年1月、コシヒカリ5キロは4185円に値上がりしており、1・8倍の上昇になる。では価格高騰が大きく報じられたキャベツはどうだろうか。
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15年1月のキャベツは1キロ229円。それが今年1月は上旬で564円、下旬で555円に達した。何と2・4倍の値上がりであり、コメの上昇率より高い。
庶民的な魚というイメージの強いアジ、イワシ、サケも値上がりした。小売物価統計調査は100グラムの価格を記載しており、今年1月下旬の価格で比較してみよう。
上昇率が高い順に並べると、サケは289円が540円と1・8倍、アジは118円が160円と1・3倍、イワシは100円が114円で1・1倍だった。
小売物価統計調査は中食や外食も調査対象になっている。唐揚げ弁当は412円が534円に上昇して1・3倍。500円玉1枚の“ワンコイン”で買えなくなったことが分かる。
外食は、まず牛丼に注目したい。デフレ期には低価格路線で庶民の救世主と目されていたのは記憶に新しい。15年1月は376円とリーズナブルな価格だったが、今年1月には493円に値上がりしており、1・3倍の上昇を示した。
ファミリー層に人気の回転寿司も、1皿132円が197円になってしまった。10皿を食べると1320円が1970円に上がった。これだと1人のランチでも負担に感じる人がいるだろうし、まして家族連れとなると相当な出費になる。
以上を踏まえて、次は全国消費者物価指数を見てみよう。
総務省は2月21日、1月分の結果について報道資料を発表した。それによると前年同月と比較して最も上昇したのは生鮮野菜で36・0%。やはり筆頭はキャベツで192・5%の値上がりとなった。
また肉類では豚肉が6・6%の伸びを示した。キャベツと豚肉が欠かせないお好み焼き屋やトンカツ屋は大変だろう。
光熱費は電気代の高止りが庶民の生活を圧迫しているが、1月はガス代が追い打ちをかけた。特に都市ガスは9・6%の値上がりを示し、ガソリンと灯油の値上げも物価指数を上昇させたと総務省は分析している。担当記者が言う。
「物価上昇が始まったのは2021年の後半からです。スーパーへ家族3人分の買い物に行くと、10年前なら2000円台から3000円台で済んだものが、今では4000円台後半から5000円台になります。さらに負担増を実感するのが消費税です。2000円の買い物なら税金は200円で合計2200円ですが、5000円だと5500円に膨れ上がります。家計簿を付ける際にレシートを見て、消費税が家計を圧迫していると実感する人は少なくないのではないでしょうか」
経済ジャーナリストの荻原博子さんは「今の物価高は先が全く読めないという点が最大の特徴でしょう」と指摘する。
「人手不足など国内の要因も認められますが、海外の要因も大きな影響を与えています。もともと資源や穀物の争奪戦が世界中で展開されていましたが、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻してインフレは決定的になりました。全世界からモノを輸入している日本の企業は為替リスクを回避するため、1年や半年という長期契約で購入しています。にもかかわらず、価格上昇が続いているわけです。今後も物価は高止まりすると覚悟したほうがいいでしょうし、最悪の場合はさらに上昇するかもしれません。為替レートが劇的な円高にでもならない限り、物価下落の可能性は低いでしょう」
どうやら今後も庶民は物価高に苦しめられるようだ。何か処方箋はないのかと考えてしまうが、荻原さんは「あります」と言う。
「物価高対策に関しては、国民民主党の主張が全面的に正しいでしょう。年収103万円の壁を178万円まで引き上げるという政策案と、ガソリン税の暫定税率を廃止するという政策案です。物価高で国民は財布のヒモを締めており、買い控えに悩まされている小売店は少なくありません。壁の引き上げが実施されれば多くの人の手取りが増えます。また日本では自家用車がないと生活できない地域のほうが多いのです。後者が実現すればガソリン代が安くなりますから、食費や光熱費で圧迫されている地方の家庭は、ほっと一息つけるでしょう」
ちなみに自民党と公明党は壁の160万円の引き上げと、対象を年収850万円以下とする対案を示した。一部の専門家は「自公案は低所得者対策の要素が強い」と指摘している。
国民民主の案に年収制限は存在しない。広範な国民に生活の余裕を生む可能性があり、消費意欲の復活が期待できる。
「物価が高くなると、消費税の税収も増えます。日本の税収は6年連続で史上最高を更新しています。国民が物価高で苦しむ中、政府は税収の伸びを享受するというのはいびつな状態でしょう。国民民主党が壁の見直しを提案すると、与党の自民党も財務省も『財源がない』と強く反発しました。ところが防衛費を増額する時は自民党も財務省も反対を唱えません。完全なダブルスタンダードであるのは明白で、国民民主の案を実現することは不可能ではないのです」(同・荻原さん)
デイリー新潮編集部