飲食店内で料理や飲み物などを指定の客席まで運んでくれる「配膳ロボット」。ファミリーレストランなどで見かけることも珍しくなくなりました。店側にとっては便利な存在ですが、一方で悪用されるケースもあるようです。
配膳ロボットが運んでいる食べ物を注文していない客に“横取り”されたというSNSでの投稿がこのほど話題となりました。
投稿者は実際に被害を受けたことがあるといい、一番安いコースを選んだグループがより高価な飲食物を運んでいる配膳ロボットから奪っていったそうです。配膳ロボットは店員と異なり、横取りを防いだり、とがめたりするような機能を備えていないため、悪意のある客への対処はできません。
横取りされた客、対応に追われる店それぞれが困ったであろうことは容易に想像できます。自分たちが注文したものより高価な飲食物を狙っていたのであれば、より悪質な行為といえそうですが、横取りしたらどんな法的責任を負うことになるのでしょうか。冨本和男弁護士に聞きました。
──飲食店内の配膳ロボットから飲食物を“横取り”する行為は犯罪になりますか
刑事事件として扱われることはないと思いますが、「窃盗罪」に当たると考えます。窃盗罪は、他人の財物を窃取した場合に成立します。
配膳ロボットが運んでいる食べ物は注文客に提供されるまでは、店側が占有しているといえ、横取り客から見て「他人(店側)の財物」です。
「窃取」とは、占有者の意思に反して財物を自分または第三者の占有下に移す行為をいいます。配膳ロボットが運んでいる食べ物を注文していない客が横取りすることは、占有者である店側の意思に反しますので、窃取に当たります。
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
──自分が注文した飲食物だと勘違いして、誤って配膳ロボットからとってしまった場合はどうでしょうか
その場合、窃盗罪の故意が認められないので、故意犯である窃盗罪は成立しません。「故意」とは、犯罪事実の認識・認容です。要するにわざとやった場合です。
──自分が注文した飲食物と同じものだからと、自分のテーブルへ運ばれているものをとってしまった場合はどうでしょうか
その場合でも、占有者(店側)の意思に反していることに変わりはありませんので、「窃取」したことになり、窃盗罪が成立します。
──横取りされた店側も別途対応に追われそうです
そうですね、横取りが発生すれば、「威力業務妨害罪」にも当たる場合もあるかと思います。
威力業務妨害罪は威力を用いて人の業務を妨害した場合に成立する犯罪で、保護法益は人の業務活動です。
「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を用いることです。要は、人が作業を続けようとしているのに躊躇を覚える行為です。
配膳ロボットが運んでいる食べ物を横取りした場合、店側には「何が起きた?どうしたらいいんだ?」と躊躇することになるかと思いますし、正規に注文した客に再度料理を提供する必要に迫られるなど、対応を余儀なくされるなど業務に支障が出るでしょうから、「威力」を用いて店側の業務を妨害したと言えるのではないかと考えます。
威力業務妨害罪に当たる場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
──横取り行為の民事上の責任はどうでしょうか。
横取り客は、横取り(不法行為)により、横取りした分の飲食代について店に損害を与えていますので、損害賠償責任を負うと考えます。
誤って配膳ロボットからとってしまった場合でも、そのまま飲食してしまえば、その分の飲食代の支払いについて了承したものとして、支払い義務が発生します。
自分が注文した飲食物と同じ物だからとってしまった場合については、さらに自分が注文した飲食物が提供されることはない(=本来先に提供されるべきだった注文客に配膳される)と思いますので、自分が飲食した分の食事代を支払って終わりになるかと考えます。
【取材協力弁護士】冨本 和男(とみもと・かずお)弁護士債務整理・離婚等の一般民事事件の他刑事事件(示談交渉、保釈請求、公判弁護)も多く扱っている。事務所名:法律事務所あすか事務所URL:http://www.aska-law.jp