昨年11月の兵庫県知事選に立候補したNHK党の立花孝志党首が斎藤元彦知事の疑惑を調べる県議会調査特別委員会(百条委)での秘密会の隠し撮り音声や、怪文書を入手していた問題で、漏洩元の維新3県議が2月23日、記者会見した。陳謝はしたものの不合理な説明をくり返し、”真偽不明の情報を伝えることは問題ではない”との本音も隠さなかった。頭を抱える維新は1人を除名処分にする方針だという。
〈画像〉奥谷委員長と岸口副委員長の2ショット
2月25日中に除名処分が出ると伝えられているのは増山誠県議。他に、岸口実県議が離党勧告を受ける見通しで、白井孝明県議は処分が継続協議される方向だ。
「年長の岸口氏は百条委副委員長を務めていましたが、知事選2日目の昨年11月1日に立花氏と会い、百条委で疑惑追及の先頭に立った竹内英明元県議らが斎藤氏をハメた“黒幕”だったなどと書いた怪文書を渡しました。
百条委メンバーだった増山氏は秘密会だった昨年10月25日の証人尋問を隠れて録音。この音声データと、怪文書に近い内容の岸口氏の備忘録を立花氏に手渡しました。
音声ファイルには、片山安孝元副知事が、斎藤知事の疑惑を告発しその後自死した元西播磨県民局長・Aさんの県公用パソコンの中から“クーデター計画”や不倫を連想させる文書が出てきたと話している内容がありました。
ただクーデター計画なるものはAさんを調べた県人事課も相手にしなかったシロモノで、不倫を連想させる文書も日記なのか空想なのかも分からない内容です。また、白井氏は、立花氏に情報提供をしようと電話で連絡をとっていました」(地元記者)
立花氏は岸口氏と会った経緯について、片山元副知事の代理人からの連絡を受け出向くと岸口氏が現れたとし、岸口氏は片山氏の名代だと説明してきた。
「立花氏は怪文書を“片山元副知事側”からの情報と捉えたとし、増山氏や白井氏とのやりとりも加え、告発者Aさんや竹内元県議らを非難する内容を街頭演説で話し、SNSでも発信しました。
『斎藤氏は悪くない』と印象づけるこの2馬力手法が斎藤氏の再選に大きく貢献したとみられています。それだけでなく、立花氏の言動に触発された人たちのSNSやリアルでの誹謗中傷にさらされた竹内氏は県議を辞職し1月に自死しました」(同記者)
維新は選挙で斎藤氏とも立花氏とも違う候補を推していた。その選挙のさなかに県議団長を務めていた岸口氏がなぜ対立候補の立花氏と会うのか。
会見で岸口氏は、片山氏の関与は知らないと主張し、「(立花氏には)民間人である方からお声がけをいただいて会いに行ったのです」と説明。
その理由を問うと「そこは説明がつかないところでありますけども、誘いを受けて、その通りお会いしたということです」と不合理な説明を繰り返した。
怪文書は面会場所のホテルで見知らぬ人物が同行者のX氏に届けにきたと主張。「内容が事実かどうか分からない」「どなたが、どういうつもりで書いたか分からない」という文書を立花氏に渡したというのだ。
岸口氏は党の事情聴取に対しても、「仲介に当たった民間人Xさんとの関係上、軽率について行ってしまった」と供述するだけで面会の全体像は全く明らかになっていない。
一方、党の処分を待つとして神妙な態度だった岸口氏と対照的に、除名が確実視され会見当日に党に離党届を出していた増山氏は饒舌にしゃべり続けた。
「録音データを外部に流出させたことはルール違反でございます」と陳謝はしたが、音声データなどを立花氏に渡したのは、「公益に資する情報」であり「県民の皆様が知らないまま選挙に突入してしまうという危機感」からだったと行動の正当性を主張。
問題の10月25日の百条委は知事選への影響を避けるため選挙後まで非公開にすることが多数決で決められ、増山氏は非公開に賛成していた。これについては「非公開に賛成したのはそれまでの偏向報道がひどいと感じており、これ以上過熱することを懸念した。しかし新たな重大な事実が証言され県民が知るべき公益に資する情報だと思った」と強弁。
流出させた片山氏の証言の一部はAさんのプライバシー情報だとして選挙後も非公開にされた可能性があったが、すべて立花氏を介して暴露された。これも増山氏は「全体を把握するために必要な情報だと思った」と主張。「有権者がより多くの情報を得て行なわれた選挙の方が正しかった」と独自の見解を開陳した。
ならばなぜ隠れて立花氏に託したのかと聞かれると「百条委の委員として提供すると何らかの責任が生じてくる」と、委員資格は失いたくなかったと正直になる。
ところが一方で、「(Aさんが)不同意性交」をした可能性があると立花氏が選挙中に言い立てたことについて「完全に否定する情報がなく、可能性はあると」とまで言い始めた。被害者がいるとの情報があるのかと質問が出ると「存じ上げていません」と返答。確たる根拠もなくAさんを貶めたと記者からとがめられた。
増山氏らの情報を基にした立花氏の言動の先に竹内元県議が亡くなったことについてどう責任をとるのか、と質問が出ると、「立花氏の情報によって竹内が亡くなったというような因果関係も私としては確信をもっておりません」と竹内氏を呼び捨てに。百条委委員を辞任し離党することが責任の取り方だ、と述べた。
県関係者は「増山氏は『私は今でも立花氏がデマを言っていたとは認識しておりません』とも発言しました。増山氏は参院選でNHK党から出馬しないかと立花氏から打診されており、応じるのでしょう」と冷ややかだ。
3人目の白井氏は、支援者が立花氏に電話番号を伝え連絡を取ったと説明。大した情報は伝えていないと釈明したが、言葉からは真偽不明の情報の拡散は問題がないと考えていることがうかがえる。
冒頭から「まことしやかに噂レベルで騒がれていた問題がクローズアップをされずに、一方的に斎藤知事だけが悪者のような報道をされている現状がフェアではないと私も思っておりました」と発言。斎藤氏を告発したAさんの「噂」を拡散させようと発信力のある立花氏に接近したことを隠そうともしない。
立花氏が問題の怪文書を公表した時には、「噂レベルではありますが、言われていたことは事実で県議会議員の間でも広がっていた噂でございますので『それは実際にあったことですよ』と(立花氏に)お伝えさせていただいた」というのだ。
そこで集英社オンラインは白井氏に、“まことしやかに流れる情報”という程度の話をメディアが報じると思うのか、とたずねた。白井氏は「噂レベルのところがどれだけの信ぴょう性があるか、というとこがあるが、そこが公平に公表されていなかったのか、という気持ちです」と返答。信ぴょう性に疑問がある情報でも伝えるべきだとの考えを改めて公言した。
5時間半の会見の後、維新は3県議を加えた会議を開催。その後会見した日本維新の会の岩谷良平幹事長は深々と頭を下げ、「維新の会として今回の問題を大変重く受け止めている」と謝罪した。
岸口、増山両氏の行動が竹内元県議の死に至った可能性への受け止めを聞かれると「つながっていたのであれば、重大な結果を招いた責任は大きなものがある」とも述べ、増山氏とは違う姿勢を見せた。
増山氏は昨年9月、斎藤氏が失職し県庁を去る時に唯一見送りに来た県議だった。その後の出直し選挙で「ルール無視」(岩谷氏)の暴走をした増山氏らによって、兵庫県政の大混乱は維新全体に飛び火した。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班