自らの性暴力被害を調査し、どう生きたかを記録したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries(ブラック・ボックス・ダイアリーズ)」について、監督を務めた映像ジャーナリストの伊藤詩織さんが20日、声明を発表した。トラウマ(心的外傷)と誹謗(ひぼう)中傷に苦しめられながら9年がかりで製作した映画への思いを「生きて伝えたかった」とつづった。
伊藤さんが元TBS記者、山口敬之氏から性的暴行を受けたのは2015年4月。描きたかったのはレイプ被害そのものではなく、その後の社会の話だったと明かす。
警察はまともに捜査してくれなかったこと、被害を公表したら誹謗中傷や脅迫で日本に住めなくなったこと、10年間、トラウマと共に生きてきたこと、苦しい姿を見せたら、ほかのサバイバーに悪影響になると自分を奮い立たせていたこと。
それでも限界を感じ、自らの命を終わらせようと、行動を起こしたこと-。
「映画には、その全てが描かれています」
そして「どれだけ苦しくて終わりにしたくても、本当は生きて伝えたかったんだ、と確信できたからです」。
謝罪と今後の対応にも言及した。
元代理人弁護士の音声使用の確認や、一部の映像使用の承諾が抜け落ちた人たちへ「心よりお詫(わ)びします」と謝り、「最新バージョンでは、個人が特定できないようにすべて対処します。今後の海外での上映についても、差し替えなどできる限り対応します」と約束している。
本作は世界57の国と地域で上映され、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門に日本人監督として初めてノミネートされるなど高い評価を受けている。一方、伊藤さんの元代理人弁護士らがホテルの防犯カメラ映像を許諾のないまま使用していることなどを問題視し、日本国内での上映が決まっていない。
声明は、防犯カメラ映像の公益性に触れて「ブラックボックスにされた性加害の実態を伝えるためには、この映像がどうしても必要だったのです」と説明し、こう結ばれる。
「私が願うのは、みなさんにこの映画を見ていただき、議論してほしいということ。この映画は、私にとって日本へのラブレターなのです」
伊藤さんはこの日、日本外国特派員協会で会見する予定だったが、体調不良でドクターストップがかかり、会見は延期となった。