沖縄県の与那国島で昨年10月、陸上自衛隊のオスプレイ(91705号機=1機103億円)が離陸時に事故を起こした。2月12日、防衛省はその修理費が5億6000万円にのぼることを明らかにした。日本はなぜ、ここまで事故を起こし多大な防衛費を浪費するオスプレイを使い続けるのか。
【画像】日本が次にアメリカに買わされそうな輸送機とは…
沖縄県の与那国島で昨年10月、離陸時に事故を起こした陸上自衛隊のオスプレイの修理費は、初期見積もりで5億6000万円にのぼることがわかった。この金額は米軍の基準で被害総額が250万ドル(約3億7750万円)以上の重大事故を示す「クラスA」にあたる。「クラスA」の事故が起きたのは、自衛隊にオスプレイが配備された2020年7月以降、初めてとなる。
民間業者に依託した機体の海上輸送には2億2000万円かかっており、これを被害総額に含めれば事故総額は7億8000万円にもなる。相次ぐ墜落事故で欠陥機との評価がすっかり定着した米軍のオスプレイは、自衛隊でもとんだやっかい者だった。
防衛省が修理費を明らかにしたのは2月12日、衆院第二議員会館で開かれた市民団体『オスプレイと飛行訓練に反対する東日本連絡会 』と防衛省・外務省との交渉の席だった。連絡会からの質問状に回答する形で会合が進み、最後に与那国からの輸送費について金額の確認を求めた際、防衛省の担当者から修理費について説明があった。
初めて飛び出した5億6000万円という巨額の修理費について、出席した金子豊貴男元相模原市議は「びっくりした。それまで何を聞いても『運用上の都合』といってゼロ回答が続く中で具体的な数字が出てきた。あまりの金額に与那国で機体を解体して、廃棄すればよいのにと思った」と話す。
陸上幕僚監部広報室は「千葉県の木更津駐屯地で機体を点検しているところ。正確な修理費はまだ出ていない」とし、「クラスA」の重大事故に該当するかどうか、「現段階ではわからない」としている。
事故は昨年10月27日、日米共同統合演習「キーン・ソード25」の中で起きた。木更津駐屯地から与那国駐屯地に飛来していたオスプレイが離陸直後にバランスを崩し、左翼先端にあるナセル(エンジンを収容する円筒部分)が地面と接触して損傷したのだ。
機体はそのまま駐屯地グランウンドに留め置かれ、3週間後の11月14日になってようやく、陸上幕僚監部がエンジンの出力を上げるスイッチを入れ忘れた操縦士の人為的ミスが原因と発表した。
オスプレイは機体重量に対してローター(プロペラ)が短いことから、一時的にエンジン出力を100%以上にする必要があるという。他の航空機やヘリコプターと比べ、100%以上の出力が欠かせないこと自体が異常だ。
機体が左右に揺れた結果、左翼のナセル下部を損傷したが、そもそもナセルが地面に近いという構造自体に難がある。スイッチひとつの入れ忘れが、5億6000万円の修理費を負担するほどの事故になったのは、構造的な問題と言うほかない。
与那国に留め置かれた事故機は昨年12月19日、主翼を畳んだ状態で塩害を避けるためのシートにくるまれ、時速2キロで久部良漁港まで運ばれた。その後、台船に載せられた機体は同29日木更津駐屯地に到着、岸壁からクレーンで陸揚げされた。
海上輸送を請け負ったのは沖縄の海運会社「OTK」で受注額は前述したように2億2000万円だった。陸幕広報室によると、現在も機体の調査と点検が続いており、修理にいつまでかかるか答えられないという。
陸海空の自衛隊が保有する中で、オスプレイほど効率の悪い航空機はない。昨年は2回目となる飛行停止があった。昨年11月に米国内で墜落につながりかねない事故があり、一昨年11月、鹿児島県の屋久島沖で墜落し、乗員8人全員が死亡した米空軍オスプレイの事故との類似点が見つかった。
そのため、米軍はオスプレイの飛行停止を決めたのだが、陸上自衛隊も米軍に歩調を合わせて、保有する全17機の飛行を見合わせたのだ。
ちなみに、1回目の飛行停止は屋久島沖の事故の直後のこと。米軍がオスプレイの飛行を停止したことを受け、自衛隊も追従し、その飛行停止は3か月にも及んだ。
オスプレイは米国での開発段階から事故が相次ぎ、これまでに米軍機は15回の墜落事故で米兵65人が死亡している。海軍、海兵隊、空軍の3軍で400機以上のオスプレイを運用しているが、人為的なミスを除けば、屋久島沖の事故につながったナセル内の金属片発生、ローターとエンジンをつなぐクラッチの不具合、猛烈な下降気流が跳ね返って起きる失速など、構造上の問題が目白押しだ。
昨年11月に米国内で起きた事故では、大統領専用ヘリコプター「マリーンワン」の随伴機だったオスプレイが右エンジンから出火し、緊急着陸している。米政府がオスプレイを安全な機体と考えていれば、随伴機ではなく、大統領専用機として活用しているはずだ。
事故多発を受け、オスプレイはイスラエルなど購入を検討した国はあるものの、実際には1機も売れず、米国は2026年に生産ラインを閉鎖する予定だ。開発した米国以外で唯一、購入したのが日本だ。それも政治案件として導入された。
航空機を含む武器類は本来、ユーザーである自衛隊が選定するが、10年先の安全保障環境を見通して策定する「陸上自衛隊長期防衛見積り」にオスプレイの名前はなかった。オスプレイの2倍以上の人員や物資を空輸できるCH47大型ヘリコプターを55機も保有していたからだ。
なのに、日本がオスプレイを導入することになったのは、米海兵隊が沖縄配備を進めた2012年当時、沖縄から上がった強い配備反対の声に対し、民主党政権の玄葉光一郎外相が「安全性を訴えるため、自衛隊も保有すべきだ」と提案、森本敏防衛相が同調して調査費を計上、これを安倍晋三政権が引き継ぎいで導入を決断したことによる。「沖縄の民意」より「米軍の意向」を優先した政治判断である。
その結果は見てきた通りだが、オスプレイの効率の悪さを示すデータはまだまだ他にもある。陸上自衛隊版オスプレイが訓練に登場する機会は毎年、数えるほどしかない。防衛省は2022年11月、暫定配備先の木更津駐屯地から東京都の立川駐屯地へ訓練としてオスプレイが「月数回飛来する」と発表したものの、実際に飛来したのは翌年2月、3月、4月の各1回の合計3回だけだった。以後、オスプレイは1機も立川駐屯地に飛来していない。まさに「動かざること山のごとし」だ。
2023年8月には静岡県沖を飛行していた陸自オスプレイの機内で予防着陸を促すランプが点灯、航空自衛隊静浜基地に緊急着陸するということもあった。調べたところ、ナセル内に金属片が発生しており、飛行を続けていれば、屋久島沖で墜落した米空軍オスプレイと同じ事態になりかねなかった。修理が終わり、オスプレイが木更津駐屯地へ戻ったのは同年10月になっていた。
政府は災害派遣での活用を喧伝するが、整地された場所にしか離着陸できず、地面が荒れた被災地での運用には向かない。熊本地震では安倍政権の要請で米海兵隊のオスプレイ2機が運動公園に降りたが、能登半島地震では飛行停止になっていたこともあり、1機の飛来もなかった。
軍部が暴走した先の大戦の反省から、日本は政治が軍事を統制するシビリアン・コントロールを採用している。しかし、武器の選定にまで口を出し、危険で効率の悪いオスプレイを導入したのは明らかにシビリアン・コントロールのはき違えだ。
今年2月にあった日米首脳会談では日本側の予想に反してトランプ大統領から具体的な要求はなかった。石破茂首相が対米投資を1兆ドル(約151兆円)に増やし、懸案だった日本製鉄によるUSスチールの買収も投資と言い換える朝貢外交に徹したこともあって、波風が立つことなく終わった。
だが、首脳会談後の共同声明には、岸田文雄政権で決めた防衛費を2027年度までに倍増する強化策が書かれ、続いて「米国は(略)2027年度より後も抜本的に防衛力を強化していくことに対する日本のコミットメントを歓迎した」とある。さらなる防衛費の増加を日本側が米側に約束したと読み取れる。
米軍はオスプレイの欠点を克服したとされる垂直離着陸輸送機「V280バロー」を開発し、陸軍や海兵隊で導入を開始する。
次には共同声明の約束通り、日本がトランプ氏から「V280バローを買え」と迫られ、またまた政治主導による米製兵器の調達が行なわれるのだろうか。
取材・文/半田滋 サムネイル写真/共同通信