「体だけでも欲しいと思われたい」コンプレックスの塊だった19歳女子が“初体験”直後に鏡の前に直行した「予想外の理由」

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「セックスできるチャンスがあったら、断ったことがない。ワクワクするから」
【本人の写真】「セックスできるチャンスを断わったことはない」という22歳だった頃の安彦さん
19歳のマンガ家デビューから、女性の性をテーマにし続けてきた安彦麻理絵さん(55)はそう語る。
「女性の性欲は40代で男性を追い抜く」などさまざまな俗説が飛び交う“老いと性欲”問題や、全然モテなかったという学生時代、そして「1回も断らなかった」という20代について話を聞いた。(全3本の1本目/2本目を読む)
女性の性をテーマにし続けてきたマンガ家の安彦麻理絵さん 文藝春秋 撮影・石川啓次
◆◆◆
――安彦さんが初めて「性欲」を感じたのはいつ頃ですか?
安彦 幼稚園か小1ぐらいの頃かも。仲良しの女の子の家に遊びにいくと、その子がいつも父親のエロ本を持ち出してくるんですよ。でも私は別にイヤじゃなくて、面白がって一緒に見てたんですね。そのうち、男女がハダカでいろんなことをする姿に、何かあやしげなものを感じて。今思うと、あれが性欲のめばえだったのかな。
――では、初体験もわりと早めに?
安彦 それが、高校までは山形にいたんですけど、まったくモテなくて。自分がずっと嫌いでコンプレックスだらけでした。
――何があったんですか。
安彦 私、子どもの頃は転校を繰り返していたんですよ。そのことが、自分の根本の性格にすごく影響してると思います。
うちは父の転勤が多くて、私は小1から小5まで、毎年転校してたんです。そうすると、転校初日に新しい学校の教室に入ったとき、クラス全員が私を一瞬、めちゃくちゃ期待の眼差しで見てくるのがわかって。

――小学生にとって、転校生が来るのは大ニュースですもんね。
安彦 そうなんです。だから「今度の転校生はかわいいか、ブスなのか?」という期待を一身に浴びて、でも「あーあ、ハズレか」の雰囲気になるところまでがセット。これを毎年味わうんです。
運動や勉強が得意なら挽回できたのかもしれないけど、私は運動オンチだったし、成績がいいわけでもなくて。毎年「がっかりされる自分」を経験していたら、本当に自分に自信をなくしちゃったんですよ。
――そのうえ、ようやく学校に慣れた頃にまた転校するのは、小学生にはハードですね。
安彦 そうですね……しかも、小5のときの転校先で、決定的な事件があって。
――どんなことが?
安彦 ある日、男子十数人が私に向かって、声を揃えて「ブッス~~~!!」って言ってきたんですよ。
──それは傷つきますね。
安彦 それまで自分の顔について何も考えてなかったんですけど、その日を境に自分が大嫌いになりました。すべてに自信がなくなって、自分の存在自体がイヤで。
それで思春期になったら、ニキビは出るし痩せないし。高校は女子校に進んだので、男子からますます遠ざかり、彼氏はできなかったんです。楽しみはサブカル雑誌の『宝島』を愛読すること。
こんな状態で、明るい青春なんてないんですよ。地元はつまらないし、早く出たいと思ってました。

――それで、高校卒業後に上京するんですね。
安彦 はい。専門学校に入る口実で、1988年に東京に来ました。それから演劇をやったりマンガを描きつつ、サブカル業界の人たちと知り合って、19歳で初体験をしたんです。
――念願の彼氏ができたんですね。付き合ってから初体験までは慎重に?
安彦 それが真逆で。私、セックスした後に付き合ったんですよ。だから昭和の「恋のABC」の順なんかすっとばして、その日のうちにいきなり全部終わらせました。
――お相手とはどこで知り合ったんですか?
安彦 演劇界隈の当時35、6歳ぐらいの妻帯者。不倫だったんです。

――初体験の相手が妻帯者とは、山形時代からは考えられないですね。
安彦 でも当時、東京の女友達は私より先にどんどん経験したり、男と同棲とかしてるわけですよ。それがモテない私にはうらやましくて。「自分は最悪だ、もうこのまま男と付き合わない人生かも……」と、男性経験がないことにすごく引け目を感じてたんです。
だから、初体験はできるものならすぐにでもと思ってたし、実際その場になったら「私にもチャンス到来!」みたいな(笑)。で、コトが終わったら、速攻で鏡を見にいきました。
――鏡ですか?
安彦 はい。「処女を卒業したら、キレイになったかな?」と。ようやく彼とひとつになれた……みたいな乙女心はなく、「ついにやれた!」「やってもらってありがたいッス」ぐらいの気持ちでしたね。
――初体験の感覚はどうでしたか。
安彦 気持ちいいとかの感覚はなかったと思います。やっぱり、痛いじゃないですか。それでも別にイヤじゃなくて「ひとつ先の段階に行けてよかった」ぐらいの感じでしたね。
――女として1ステージ上がった、みたいな。
安彦 そうですね。鏡を見たのも、処女じゃなくなった自分がどう変わったのか知りたかったんですよね。見たら、いきなり大人にはなってないけど、楽しそうな顔してるなとは思いました。「イキイキしてるな、自分」って。
――19歳で初体験の後、安彦さんは“等身大の女子とセックス”を描くマンガ家として活躍されますが、ご自身の性欲はどうだったのですか。
安彦 性欲のピークは20~30代だったと思います。あれだけこじらせてたのに、一度セックスしたらするのが楽しくなったし、マンガも描けるようになったんですよ。
――セックスしたらマンガが描ける?
安彦 はい。当時の私は、絵を描くのは好きだけど、話をつくれなくて。19歳でマンガ家デビューしたときは、まだ処女だったんです。でもセックスしたら「あ、男と女ってこういうことかも」と、恋愛のエピソードをつくれるようになりました。

――安彦さんの作品では、女性の性欲も赤裸々に描いていますよね。「主人公のOLが、職場の男の同僚のことを考えて自慰する」という話もありました。
安彦 友達の彼氏が私のマンガを読んで、「女の人にも性欲ってあるの?」と言ってたらしくて。私としては逆に「男の人って、女に性欲はないと思ってるの?」と、意外な気持ちでした。
――では、20代の安彦さんは実生活でも奔放な恋愛を?
安彦 奔放かはわからないけど、セックスはチャンスがあったらする。断るという選択肢は私の中になかったです。
当時の私は、男性との関係を「そういう雰囲気」にもっていくのが楽しかったんですよね。目の前の男をいかにムラムラさせるかというのが、面白いゲームみたいで。

――お相手とはどこで出会うんですか?
安彦 酒の場です。私、お酒の席で男の人と2人になったときに、唇を奪うのが大好きだったんですよ。
――自分からいきなりキスを?
安彦 そう。飲んでて、ふとしたときに男性の唇を奪うとしますよね。そうすると男性はだいたい、ビックリするのと同時にちょっとうれしそうなんですよ。私はそれを見るのが楽しくて。
――相手に火をつけてやった、と?
安彦 そんな感じ。相手は「オレ、もしかして男扱いされた?」とスイッチが入るみたいで、私も内心「やった!」と。相手の態度が少しずつ変わるのを観察して、面白いなと思ってました。
ずっと「自分はモテない、周りの女子から置いてけぼり……」と思ってたのが、セックスをしたら「私も男を動かせるんだ!」と楽しくなっちゃったんでしょうね。
――女性にとって「セックス」にはさまざまな意味があると思いますが、安彦さんはセックスをどう捉えていますか。
安彦 私は「楽しいからする」という感覚ですね。セックスは相手とコミュニケーションするもので、すると楽しい、うれしい、ワクワクとか。いまだにワクワクしますもん。
――では、自分から積極的に楽しむタイプ?
安彦 はい。私は自分から伝えたい、与えたいほうです。たとえば「大好きだよ」とか言うと、相手は喜んでくれるじゃないですか。そうすると私もうれしいんですよ。

――自分が性欲の対象になるのがうれしい、という気持ち?
安彦 そうですね……私は、自分に欲情されるって、すごいことだと思っちゃうんですよ。よく「あの男、私の体だけが目当てだったの?」と怒る女性がいるけど、私は「体だけでも欲しいと思われたい」と考えてきたほうなので。
セックスについては、いつも心のどこかに「私を女として見てくれて、ありがとう」みたいな気持ちがあるんですよね。それはたぶん、女性としての自分にずっと自信がなかったので、余計にそう思うのかもです。
――そして、27歳で一度目の結婚をするんですね。
安彦 はい。仕事で知り合って、夫とは仲がよかったんですが……私のせいで離婚したんです。
〈「体中がスッカスカですき間風が吹いてる」離婚後に体重が10kg激減、過食と嘔吐を繰り返し…自身の浮気で独身になった女性が体験した壮絶な“離婚ハイ”とは〉へ続く
(前島 環夏)

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