「命の危険を感じた」子どもの命を守る「児童相談所」で働く若者たちから聞かれた厳しい仕事の実態

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児童虐待などが疑われる場合、保護者から子どもを一時的に保護するかどうかなどの判断を行い、子どもを虐待から守っている東京都の練馬児童相談所を取材した。
児童相談所の中の大部屋には、電話とパソコンが並び、70人ほどの職員が働いている。20代くらいの若者の姿が多く見えた。実際、都の児童相談所で働く児童福祉司の平均勤務年数は、半数ほどが2年以下だという。
東京都内における虐待に関する相談件数はこの10年間で5倍以上増え、2万件を超えていて、練馬区だけでも、2023年度は、1300件以上の虐待相談があったという。つまり、1日あたり3~4件の相談を受けていることになる。
保護者から一時的に子供を預かる「一時保護」は練馬区で約180件。2日に一度のペースだ。児童相談所への相談件数は増える一方で、児童福祉司1人が受理する虐待相談は、50件程度にのぼる。
児童福祉司は、新規の相談に対応するほか、担当する児童の保護者、学校等の関係機関や施設などからの日々連絡を受けて対応している。
その1つ1つが子どもの命に関わるだけに、職員にかかる重圧は並大抵のことではない。
さらには、保護者や関係機関から厳しい対応を受けることも少なくない。 実際に次のような事例があったという。
・家庭に踏み込んで保護せざるを得ないときに、子どもを連れていくことに気が付いた保護者が激高し、物を投げつけられ、命の危険を感じた。・保護者が1日に数十回電話をかけて罵声を浴びせ続け、電話を切ると直接相談所に来て受付で喚き散らした。・若い女性の職員が父親から威圧的な言動を繰り返し受けたり、意に沿わない指導を受けると「子育てしたことも無い癖に」と捨て台詞を吐かれたりした。・高圧的な口調で、要求が通らないと激高する。「話がわかんねえ奴らだな」「バカ」「(所長名呼び捨て)を出せって言ってんだろ」等、職員に侮辱的な発言を浴びせた。
児童福祉司たちは、こうした厳しい対応を受けながらも、子どもの命を第一に、なぜ児童相談所が関わっているのか粘り強く丁寧に説明し、支援を受け入れるための働きかけを行っている。
親からの発言の中で、子供への愛情や親の困り事が感じられたときに、それを糸口に話をすると親の態度に変化がみられることがあるという。
児童相談所は、虐待通告があった場合、原則48時間以内に子供の安全確認を実施することとなっている。児童相談所職員は、ペアになって家庭や学校を訪問し、必要な調査を迅速に行っている。
現在東京都には、11か所の児童相談所に児童福祉司499人、児童心理司251人が配置されている(定数)。人材確保が喫緊の課題のなか、東京都では人材確保のためにトレーニングセンターを設置し、職員の育成プログラムを実施している。
児童相談所の職員は、児童福祉司の資格などを持ち、東京都の事務職員と同じ給与体系で働く。
トレーニングセンターでは、実際起きた事例をもとに実戦形式でロールプレイングなどを行っている。取材に訪れた日は、保護者との会話でトラブルを未然に防ぐスキルを学ぶ「リフレーム」という内容の授業が行われていた。
プログラムに参加していた大半は20代の若者たちだった。若者たちは、子供と関わり合いを持つ仕事を夢みて児童福祉司の資格をとった人が大半だ。児童相談所での仕事は厳しいながらも、自分が関わり一時保護された子どもが保護者のもとに戻り、平穏な家庭生活を送れるようになったとき、仕事への誇りと達成感に満たされるという。
虐待により児童を一時保護したあるケースでは、児童を一時保護後、精神症状が悪化していた単独親権者の母を何度も訪問し、母の状況理解に努め、寄り添ったことで母が支援を受け入れた。その後、母の病状が回復し、子どもは家庭復帰に至った。子供は元々母への愛着はあり、母と暮らすことを強く望んでいた。母からは福祉司に感謝の言葉があったという。
東京都練馬児童相談所は、練馬区立子ども家庭支援センターと同一の建物で虐待通告が入った場合、合同の緊急受理会議を実施し、対応方針を迅速に協議している。
現場で働く児童福祉司にやりがいを聞いてみると次のような回答が寄せられた。
・一時保護した時は、なかなか納得せず大変だったが、その後、児童養護施設に入所し、自立していく時に、「言っておかないといけないと思っていた。あの時児相に行くのは嫌だったんだけど、でもあの時児相に行ってよかった」とお礼を言って巣立っていった子を見送った時。里親のもとで育ち大学への進学時に自立した子どもが、大学卒業の際当時の担当福祉司の所在を調べ、わざわざ卒業の報告をしてくれた時。そうした時にこの仕事をしていたよかったと思った。・家族の変化や幸せに立ち会えること。・苦労を分かち合えるチームがあり、支え合いながら仕事ができること。・「子どもを守る」という社会的な使命に貢献できること。
こうした信念を胸に抱きながら、多くの若い児童福祉司たちが日々現場で奮闘している。【取材・執筆:フジテレビ社会部 大塚隆広】

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