2歳児死亡、カート走行の安全管理は「開催者任せ」…母「もう誰も同じ思いしないで」

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北海道森町で9月に開かれたカート体験イベントで、暴走した車両に2歳児がはねられて死亡した事故は、運転者や会場の見物客などの安全管理が「開催者任せ」になっていた実態を浮き彫りにした。
公道外のイベントで走行するカートを規制する法令や監督官庁はなく、専門家は「消費者事故として、消費者庁が原因究明にあたるべきだ」と指摘している。(高橋広大)
■「戻ってきて」
「じいちゃん、ばあちゃん」「ママ抱っこ」。亡くなった吉田成那(せな)ちゃん(当時2歳)は徐々に話せるようになり、甘えながら見上げる姿がかわいかった。「何をしていても思い出してしまう。ただ戻ってきてほしい」。母親は取材に声を振り絞り、「もう誰も同じ思いをしてほしくない」と涙ながらに語った。
事故は9月18日、森町のホテル駐車場で開かれたイベントで発生。道警によると、小学生が運転する1台が1周200メートルの仮設コース外に飛び出し、十数メートル先で見物していた成那ちゃんや4歳の男児2人をはねた。成那ちゃんは脳挫傷で死亡し、男児2人もけが。道警は安全管理に不備があった可能性があるとして、業務上過失致死傷容疑で捜査している。
イベントは、函館市の自動車販売会社「函館トヨペット」など4社が主催。コースと見物客の間に壁やフェンスなどはなく、樹脂製のコーンが2列並べられているのみだった。
スタッフの一人は事故直前、カートが減速しないことを不審に思い、「ブレーキ!」と叫んで近づいたが、振り切られたという。このスタッフは取材に対し、「カートは40キロは出ていた。(小学生は)パニックになっていた」と振り返った。
■最高時速40キロ
原因究明に向けたポイントは、「カートの性能に見合った安全管理が行われていたか」ということだ。
カートは、遊園地などで手軽に乗れる「ゴーカート」、モータースポーツの初心者らがサーキットで使用する「レンタルカート」、競技用の「レーシングカート」の順で車両の馬力が大きくなり、速度も増す。
事故を起こしたのはこのうちのレンタルカートで、重さ約100キロ、最高時速は約40キロ。遊園地のゴーカートより一回り大きく、時速も約2倍に達する。運転者に対して操作方法の説明を十分にしていたかどうかについて、主催者側は取材に「回答しない」とした。
カートの性能に詳しい「南幌カートスポーツクラブ」(北海道南幌町)の桜井泰己代表は「運転者が子どもの場合、ブレーキをかけられない可能性もある。万が一に備えた対応ができていなかったのではないか」と話し、見物客との間を隔てるのがコーンだけで、十数メートルしか離れていなかったことも「強度の高い材料で柵を設けるべきだった」と指摘する。
■「基準を早急に」
カートは、公道を走る場合には道路運送車両法の対象となる。コロナ禍前には外国人旅行客らがコスプレ姿で運転を楽しむ姿が各地で見られたが、事故が相次いだことから、国土交通省は車体の安全基準を厳格化し、シートベルトの着用や赤の尾灯をつけることなどを義務付けた。
一方、公道外のカートに安全基準は設けられていない。同省によると、ジェットコースターのように建築基準法の適用を受ける「遊戯施設」にもあたらないという。
日本自動車連盟(JAF)が自主的に設ける安全基準に基づき、公認コースとして運営されている所もある。南幌カートスポーツクラブは公認コースの一つで、一部にガードレールを設けてカートの暴走を防いでいるほか、古タイヤや緩衝材でコースの外側を覆っている。だが、森町の会場は仮設コースで、JAFの認定は受けていなかった。
消費者庁事故調査室の担当者は「消費者が巻き込まれた事故と認識している」とする。子どもの事故予防に詳しい東工大の西田佳史教授(機械工学)は、「消費者庁が原因究明の司令塔役を果たすべきだ。カートの事故は各地で起きており、安全基準を早急に設けなければならない」と話している。

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