変貌を遂げる「日本の製造業」…いま企業が打つべき対策は?

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2020年代に日本の製造業は大きく変貌を遂げると予測されています。どのように変貌するのか? 競争を勝ち残るため、いま企業はどのような対策を打つべきなのか? みていきましょう。
サイバー空間で生まれる「新しい経済環境」の特徴サイバー空間とはコンピュータやネットワークによって構築された仮想的な空間である。インターネットを念頭に語れば、その特徴は距離と時間と費用がほぼゼロの経済環境である。たとえば、東京から九州へメールを送る場合と隣のオフィスへ送る場合に、我々は時間と距離の違いを感じることが無い。コミュニケーションの費用もLINEはもとより通常メールでもほぼゼロ。時間・距離・費用が「どこでもゼロ」になることが、サイバー空間の第一の特徴であり、常に有料のフィジカル空間とまったく異なる。

第二の特徴は「限界費用ゼロ」(※1)の経済環境である。データやサービスがデジタル化されれば、あるいはアプリケーションソフトが一旦開発されれば、同じものを作るための追加費用、すなわち複製費用はほぼゼロであり、必ず追加費用が発生するフィジカル空間とまったく異なる。したがって、データを先に集めて構造化し、あるいはアプリケーションを先に開発して市場で受け入れられれば、そして開発費用を償却してしまえば、後追い企業によるキャッチアップは非常に困難である。※1:生産量を1単位だけ増加させた場合、総費用がどれだけ増加するかを考えたときの増加分を限界費用という。IoTの実現によってモノやサービスを生み出すコストがゼロあるいは限りなくゼロに近づくことで、新たに出現する社会を指す。サイバー空間に軸足を置くGAMAM(Google、Amazon、Meta、Apple、Microsoft)など、プラットフォーマーが自己増殖して寡占化に向かう背景がここにあった。第一と第二の特徴で寡占化に向かえば、信じられないほど高い利益率も享受できる。第三の特徴は、フィジカル空間から出るデータをサイバー空間へ集め、ヒトやモノ、アセット(システム、インフラ、企業活動、資産など)を仮想化して表現できる経済環境である。仮想化してしまえば、たとえフィジカル空間のヒトやモノ、アセットであっても「どこでもすべてゼロ」の恩恵を受け、その結果として高い利益率も享受できる。製造業をつくりかえるほどの強力な経済システムの誕生しかし、それ以上に我々が注目しなければならないのは、仮想化が進むとモノやアセットの機能がサイバー空間で代替されるAFV(Asset Function Virtualization:資産機能の仮想化)型の経済システムが生まれるという事実である。ここから経済パワーをつくり出す場がサイバー空間へシフトする。我々が2010年代に目にしたのは、フィジカル空間の銀行が持っていたはずの預金、与信、融資、送金の機能がサイバー空間へシフトし、世界の金融業がつくりかえられた事実であり、またAmazonが人類史上最大の店舗をサイバー空間に構築し、マーケティング、店舗、展示、販売、仕込み、在庫管理やロジスティクス管理、そして決済などの機能をすべて持って世界の小売業をつくりかえてしまった事実である。仮想化をモノづくり・モノ売りの視点で語れば、フィジカル空間のモノ単体だけでなく、設計、調達、生産や物流ロジスティクスの機能をサイバー空間へシフトさせるAFV型製造業の出現を意味する(※2)。※2:サイバー空間で物理的なモノの加工や移動はできないが、加工や移動の情報を収集することによって加工や移動の全体を最適化し、あるいは最適に制御することができる。Digital TwinやCyber Physical System(CPS)はもとより「日本の製造業におけるデジタル戦略」で紹介したDFX(Design For X)やBoX(Bill Of X)も、サイバー空間へシフトさせるための戦略ツールである(※3)。これに加えて最近では、生産管理システム(ERP)と生産実行システム(MES)が空間でつながり、あるいは生産設備の制御装置(PLC)も、さらには物流ロジスティクスも仮想化されてサイバー空間でつながるAFV型の製造業へ向かい始めた。※3:DFXのXはManufacturing,Test,Recycleなどを表し、製品の開発設計の段階から製造性やテストしやすさ、リサイクルをしやすくする仕組みなどを取り込む設計アーキテクチャー。BoXのXはMaterial、Process、Supply chain, Logistics, Serviceなどを表し、企画・設計・調達・生産プロセス・サプライチェーン・サービスなど、製造業に関わる情報を一気通貫でつなぐビジネスアーキテクチャーへの転換を可能にする。しかし、それだけではない。仮想化によってモノづくり・モノ売りに関わる多様な機能がオープンなプロトコルでつながる巨大モジュールの組み合わせで構成され、製造業の全域がオープン・アーキテクチャーへ転換する(※4)。したがって2020年代には、それぞれの企業でビジネスアーキテクチャーの転換を迫られる。※4:製品の設計機能、生産技術・製造技術機能、調達機能、サプライチェーン機能、マーケティングや販売機能があたかも巨大なモジュールとして表現され、これが例えばOPC-UAなどのオープン・プラットフォームでつながる仕組みになれば、製造業のビジネス全域がパソコンやスマートフォンと類似のオープン・アーキテクチャーへ転換する。たとえば、サイバー空間経由で顧客とつながり、顧客の便益を最優先する製造業のサービス化が、商談・受注に決定的な影響を与えるであろう。工場に閉じたつながりが産み出す強大な競争力はすでに300mmウェハーが標準化された2000年初頭の半導体産業やハードディスク産業で起きていて(※5)、多くの日本企業が市場撤退へ追い込まれた。我々はこの教訓を忘れてはならない。今回は、これが工場と顧客を含むあらゆるつながりで起きるのである。※5:当時の半導体産業では台湾のTSMC社が、ハードディスク産業ではアメリカのSeagate社が代表的な事例。当時は主に工場内部に閉じたモノづくり機能のつながりだったが、これによるコスト削減が日本企業より遥かに大きく、大部分の日本企業が市場から消えた。2010年代になると日本企業がセラミックコンデンサーやNAND型フラッシュメモリーで工場内のつながりに先手を打ち、圧倒的な競争力を維持している。2020年代、日本の製造業で起きること2020年代に多くの製造業がつくりかえられるのであれば、先手を打ってその方向へ漕ぎ出さないとゲームチェンジに引きずり込まれる。我々はこの事実を2010年代の金融業や小売業、メディア・エンターテインメント、広告などの産業で何度も目にした。建設機械や自動車産業でも類似の兆候が顕在化している。先手を打つには、ゲームチェンジのメカニズムを実ビジネスのなかで理解しなければならない。「どこでもゼロ」の経済になると、どのような経済パワーが生まれるのだろうか? これを製造業の視点で語れば、第一に人智を超えた広範囲の「分業」による収穫逓増の経済パワーであり、第二に人智を遥かに超えた広範囲のつながりがつくりだす「ネットワーク効果」という強大な収穫逓増の経済パワーであり、そして第三に「機械学習(人工知能)」がつくりだすまったく新しい姿の経済パワーである。第一と第二のいずれもすでに1990年代のフィジカル空間で現れていたが、2020年代には時間・距離・費用・限界費用が「どこでもゼロ」のサイバー空間で大規模に現れ、その広がりはフィジカルを遥かに超える。たとえばモノづくり・モノ売りには、1.エンジニアリングチェーン2.マニュファクチャリングチェーン3.サプライチェーン4.サービスチェーンなど、つながりを必要とする領域がたくさんあったが(※6)、フィジカル空間でつながることは稀であった。※61.エンジニアリングチェーン:商品企画・設計・製造の各部門の情報のつながり2.マニュファクチャリングチェーン:生産技術、製造技術、生産ラインや、工場と工場の情報のつながり3.サプライチェーン:サプライヤー、調達、生産計画、生産実行などの情報のつながり4.サービスチェーン:受発注情報、生産情報、ロジスティクス情報、納期照会・回答情報、そしてトレーサビリティなどの情報のつながりそれでも日本企業は「すり合わせ」や「ワイガヤ」、あるいは「TPS(Toyota Production System)」、「JIT(Just In Time)」など、濃密につながる独自の仕組みを考え出し、ここから生まれるネットワーク効果を活用して世界に冠たるモノづくり大国になった。それでもこれらはいずれもヒトや組織経由のつながりであり局所的であったという意味で、オープン・アーキテクチャーになれば、その効用が限定的となる。しかしながら2020年代には「どこでもゼロ」のサイバー空間を利用することによって、上記項目1から項目4の広範囲のつながりが可能になる。これらがつながることで強大なネットワーク効果が表れ、2020年代の製造業をつくりかえるのである。すでにその兆候が中国の製造業はもとよりドイツが先導するIndustrie4.0の環境ではっきりみえている。2020年代の製造業を構造化して下記図表の最上層で示すが、日本の製造業もサイバー空間につくり出す強大なビジネスパワーを使いこなさなければならない。そのためには「ダイナミック・ケイパビリティ」が必要である(※7)。これに向けた第一歩としてつながる仕組みづくりで先手を打たなければならない。※7:サイバー空間に表れる経済的な価値はつながりを介在するデータの流路(Node)が核となって「べき乗分布」となり、ビジネスパワーの多くがNodeとその周辺に集まる。したがってデータの流路(Node)を自社優位に事前設計できた企業が製造業の成長をリードすることになる。人財と組織のダイナミック・ケイパビリティもこれを踏まえた取り組みが必要である。[図表]サイバー空間のビジネスパワーが世界の製造業をつくりかえる小川 紘一Ridgelinezシニアアドバイザー
サイバー空間とはコンピュータやネットワークによって構築された仮想的な空間である。インターネットを念頭に語れば、その特徴は距離と時間と費用がほぼゼロの経済環境である。
たとえば、東京から九州へメールを送る場合と隣のオフィスへ送る場合に、我々は時間と距離の違いを感じることが無い。コミュニケーションの費用もLINEはもとより通常メールでもほぼゼロ。時間・距離・費用が「どこでもゼロ」になることが、サイバー空間の第一の特徴であり、常に有料のフィジカル空間とまったく異なる。
第二の特徴は「限界費用ゼロ」(※1)の経済環境である。データやサービスがデジタル化されれば、あるいはアプリケーションソフトが一旦開発されれば、同じものを作るための追加費用、すなわち複製費用はほぼゼロであり、必ず追加費用が発生するフィジカル空間とまったく異なる。したがって、データを先に集めて構造化し、あるいはアプリケーションを先に開発して市場で受け入れられれば、そして開発費用を償却してしまえば、後追い企業によるキャッチアップは非常に困難である。
※1:生産量を1単位だけ増加させた場合、総費用がどれだけ増加するかを考えたときの増加分を限界費用という。IoTの実現によってモノやサービスを生み出すコストがゼロあるいは限りなくゼロに近づくことで、新たに出現する社会を指す。
サイバー空間に軸足を置くGAMAM(Google、Amazon、Meta、Apple、Microsoft)など、プラットフォーマーが自己増殖して寡占化に向かう背景がここにあった。第一と第二の特徴で寡占化に向かえば、信じられないほど高い利益率も享受できる。
第三の特徴は、フィジカル空間から出るデータをサイバー空間へ集め、ヒトやモノ、アセット(システム、インフラ、企業活動、資産など)を仮想化して表現できる経済環境である。仮想化してしまえば、たとえフィジカル空間のヒトやモノ、アセットであっても「どこでもすべてゼロ」の恩恵を受け、その結果として高い利益率も享受できる。
製造業をつくりかえるほどの強力な経済システムの誕生しかし、それ以上に我々が注目しなければならないのは、仮想化が進むとモノやアセットの機能がサイバー空間で代替されるAFV(Asset Function Virtualization:資産機能の仮想化)型の経済システムが生まれるという事実である。ここから経済パワーをつくり出す場がサイバー空間へシフトする。我々が2010年代に目にしたのは、フィジカル空間の銀行が持っていたはずの預金、与信、融資、送金の機能がサイバー空間へシフトし、世界の金融業がつくりかえられた事実であり、またAmazonが人類史上最大の店舗をサイバー空間に構築し、マーケティング、店舗、展示、販売、仕込み、在庫管理やロジスティクス管理、そして決済などの機能をすべて持って世界の小売業をつくりかえてしまった事実である。仮想化をモノづくり・モノ売りの視点で語れば、フィジカル空間のモノ単体だけでなく、設計、調達、生産や物流ロジスティクスの機能をサイバー空間へシフトさせるAFV型製造業の出現を意味する(※2)。※2:サイバー空間で物理的なモノの加工や移動はできないが、加工や移動の情報を収集することによって加工や移動の全体を最適化し、あるいは最適に制御することができる。Digital TwinやCyber Physical System(CPS)はもとより「日本の製造業におけるデジタル戦略」で紹介したDFX(Design For X)やBoX(Bill Of X)も、サイバー空間へシフトさせるための戦略ツールである(※3)。これに加えて最近では、生産管理システム(ERP)と生産実行システム(MES)が空間でつながり、あるいは生産設備の制御装置(PLC)も、さらには物流ロジスティクスも仮想化されてサイバー空間でつながるAFV型の製造業へ向かい始めた。※3:DFXのXはManufacturing,Test,Recycleなどを表し、製品の開発設計の段階から製造性やテストしやすさ、リサイクルをしやすくする仕組みなどを取り込む設計アーキテクチャー。BoXのXはMaterial、Process、Supply chain, Logistics, Serviceなどを表し、企画・設計・調達・生産プロセス・サプライチェーン・サービスなど、製造業に関わる情報を一気通貫でつなぐビジネスアーキテクチャーへの転換を可能にする。しかし、それだけではない。仮想化によってモノづくり・モノ売りに関わる多様な機能がオープンなプロトコルでつながる巨大モジュールの組み合わせで構成され、製造業の全域がオープン・アーキテクチャーへ転換する(※4)。したがって2020年代には、それぞれの企業でビジネスアーキテクチャーの転換を迫られる。※4:製品の設計機能、生産技術・製造技術機能、調達機能、サプライチェーン機能、マーケティングや販売機能があたかも巨大なモジュールとして表現され、これが例えばOPC-UAなどのオープン・プラットフォームでつながる仕組みになれば、製造業のビジネス全域がパソコンやスマートフォンと類似のオープン・アーキテクチャーへ転換する。たとえば、サイバー空間経由で顧客とつながり、顧客の便益を最優先する製造業のサービス化が、商談・受注に決定的な影響を与えるであろう。工場に閉じたつながりが産み出す強大な競争力はすでに300mmウェハーが標準化された2000年初頭の半導体産業やハードディスク産業で起きていて(※5)、多くの日本企業が市場撤退へ追い込まれた。我々はこの教訓を忘れてはならない。今回は、これが工場と顧客を含むあらゆるつながりで起きるのである。※5:当時の半導体産業では台湾のTSMC社が、ハードディスク産業ではアメリカのSeagate社が代表的な事例。当時は主に工場内部に閉じたモノづくり機能のつながりだったが、これによるコスト削減が日本企業より遥かに大きく、大部分の日本企業が市場から消えた。2010年代になると日本企業がセラミックコンデンサーやNAND型フラッシュメモリーで工場内のつながりに先手を打ち、圧倒的な競争力を維持している。2020年代、日本の製造業で起きること2020年代に多くの製造業がつくりかえられるのであれば、先手を打ってその方向へ漕ぎ出さないとゲームチェンジに引きずり込まれる。我々はこの事実を2010年代の金融業や小売業、メディア・エンターテインメント、広告などの産業で何度も目にした。建設機械や自動車産業でも類似の兆候が顕在化している。先手を打つには、ゲームチェンジのメカニズムを実ビジネスのなかで理解しなければならない。「どこでもゼロ」の経済になると、どのような経済パワーが生まれるのだろうか? これを製造業の視点で語れば、第一に人智を超えた広範囲の「分業」による収穫逓増の経済パワーであり、第二に人智を遥かに超えた広範囲のつながりがつくりだす「ネットワーク効果」という強大な収穫逓増の経済パワーであり、そして第三に「機械学習(人工知能)」がつくりだすまったく新しい姿の経済パワーである。第一と第二のいずれもすでに1990年代のフィジカル空間で現れていたが、2020年代には時間・距離・費用・限界費用が「どこでもゼロ」のサイバー空間で大規模に現れ、その広がりはフィジカルを遥かに超える。たとえばモノづくり・モノ売りには、1.エンジニアリングチェーン2.マニュファクチャリングチェーン3.サプライチェーン4.サービスチェーンなど、つながりを必要とする領域がたくさんあったが(※6)、フィジカル空間でつながることは稀であった。※61.エンジニアリングチェーン:商品企画・設計・製造の各部門の情報のつながり2.マニュファクチャリングチェーン:生産技術、製造技術、生産ラインや、工場と工場の情報のつながり3.サプライチェーン:サプライヤー、調達、生産計画、生産実行などの情報のつながり4.サービスチェーン:受発注情報、生産情報、ロジスティクス情報、納期照会・回答情報、そしてトレーサビリティなどの情報のつながりそれでも日本企業は「すり合わせ」や「ワイガヤ」、あるいは「TPS(Toyota Production System)」、「JIT(Just In Time)」など、濃密につながる独自の仕組みを考え出し、ここから生まれるネットワーク効果を活用して世界に冠たるモノづくり大国になった。それでもこれらはいずれもヒトや組織経由のつながりであり局所的であったという意味で、オープン・アーキテクチャーになれば、その効用が限定的となる。しかしながら2020年代には「どこでもゼロ」のサイバー空間を利用することによって、上記項目1から項目4の広範囲のつながりが可能になる。これらがつながることで強大なネットワーク効果が表れ、2020年代の製造業をつくりかえるのである。すでにその兆候が中国の製造業はもとよりドイツが先導するIndustrie4.0の環境ではっきりみえている。2020年代の製造業を構造化して下記図表の最上層で示すが、日本の製造業もサイバー空間につくり出す強大なビジネスパワーを使いこなさなければならない。そのためには「ダイナミック・ケイパビリティ」が必要である(※7)。これに向けた第一歩としてつながる仕組みづくりで先手を打たなければならない。※7:サイバー空間に表れる経済的な価値はつながりを介在するデータの流路(Node)が核となって「べき乗分布」となり、ビジネスパワーの多くがNodeとその周辺に集まる。したがってデータの流路(Node)を自社優位に事前設計できた企業が製造業の成長をリードすることになる。人財と組織のダイナミック・ケイパビリティもこれを踏まえた取り組みが必要である。[図表]サイバー空間のビジネスパワーが世界の製造業をつくりかえる小川 紘一Ridgelinezシニアアドバイザー
製造業をつくりかえるほどの強力な経済システムの誕生しかし、それ以上に我々が注目しなければならないのは、仮想化が進むとモノやアセットの機能がサイバー空間で代替されるAFV(Asset Function Virtualization:資産機能の仮想化)型の経済システムが生まれるという事実である。ここから経済パワーをつくり出す場がサイバー空間へシフトする。我々が2010年代に目にしたのは、フィジカル空間の銀行が持っていたはずの預金、与信、融資、送金の機能がサイバー空間へシフトし、世界の金融業がつくりかえられた事実であり、またAmazonが人類史上最大の店舗をサイバー空間に構築し、マーケティング、店舗、展示、販売、仕込み、在庫管理やロジスティクス管理、そして決済などの機能をすべて持って世界の小売業をつくりかえてしまった事実である。仮想化をモノづくり・モノ売りの視点で語れば、フィジカル空間のモノ単体だけでなく、設計、調達、生産や物流ロジスティクスの機能をサイバー空間へシフトさせるAFV型製造業の出現を意味する(※2)。※2:サイバー空間で物理的なモノの加工や移動はできないが、加工や移動の情報を収集することによって加工や移動の全体を最適化し、あるいは最適に制御することができる。Digital TwinやCyber Physical System(CPS)はもとより「日本の製造業におけるデジタル戦略」で紹介したDFX(Design For X)やBoX(Bill Of X)も、サイバー空間へシフトさせるための戦略ツールである(※3)。これに加えて最近では、生産管理システム(ERP)と生産実行システム(MES)が空間でつながり、あるいは生産設備の制御装置(PLC)も、さらには物流ロジスティクスも仮想化されてサイバー空間でつながるAFV型の製造業へ向かい始めた。※3:DFXのXはManufacturing,Test,Recycleなどを表し、製品の開発設計の段階から製造性やテストしやすさ、リサイクルをしやすくする仕組みなどを取り込む設計アーキテクチャー。BoXのXはMaterial、Process、Supply chain, Logistics, Serviceなどを表し、企画・設計・調達・生産プロセス・サプライチェーン・サービスなど、製造業に関わる情報を一気通貫でつなぐビジネスアーキテクチャーへの転換を可能にする。しかし、それだけではない。仮想化によってモノづくり・モノ売りに関わる多様な機能がオープンなプロトコルでつながる巨大モジュールの組み合わせで構成され、製造業の全域がオープン・アーキテクチャーへ転換する(※4)。したがって2020年代には、それぞれの企業でビジネスアーキテクチャーの転換を迫られる。※4:製品の設計機能、生産技術・製造技術機能、調達機能、サプライチェーン機能、マーケティングや販売機能があたかも巨大なモジュールとして表現され、これが例えばOPC-UAなどのオープン・プラットフォームでつながる仕組みになれば、製造業のビジネス全域がパソコンやスマートフォンと類似のオープン・アーキテクチャーへ転換する。たとえば、サイバー空間経由で顧客とつながり、顧客の便益を最優先する製造業のサービス化が、商談・受注に決定的な影響を与えるであろう。工場に閉じたつながりが産み出す強大な競争力はすでに300mmウェハーが標準化された2000年初頭の半導体産業やハードディスク産業で起きていて(※5)、多くの日本企業が市場撤退へ追い込まれた。我々はこの教訓を忘れてはならない。今回は、これが工場と顧客を含むあらゆるつながりで起きるのである。※5:当時の半導体産業では台湾のTSMC社が、ハードディスク産業ではアメリカのSeagate社が代表的な事例。当時は主に工場内部に閉じたモノづくり機能のつながりだったが、これによるコスト削減が日本企業より遥かに大きく、大部分の日本企業が市場から消えた。2010年代になると日本企業がセラミックコンデンサーやNAND型フラッシュメモリーで工場内のつながりに先手を打ち、圧倒的な競争力を維持している。2020年代、日本の製造業で起きること2020年代に多くの製造業がつくりかえられるのであれば、先手を打ってその方向へ漕ぎ出さないとゲームチェンジに引きずり込まれる。我々はこの事実を2010年代の金融業や小売業、メディア・エンターテインメント、広告などの産業で何度も目にした。建設機械や自動車産業でも類似の兆候が顕在化している。先手を打つには、ゲームチェンジのメカニズムを実ビジネスのなかで理解しなければならない。「どこでもゼロ」の経済になると、どのような経済パワーが生まれるのだろうか? これを製造業の視点で語れば、第一に人智を超えた広範囲の「分業」による収穫逓増の経済パワーであり、第二に人智を遥かに超えた広範囲のつながりがつくりだす「ネットワーク効果」という強大な収穫逓増の経済パワーであり、そして第三に「機械学習(人工知能)」がつくりだすまったく新しい姿の経済パワーである。第一と第二のいずれもすでに1990年代のフィジカル空間で現れていたが、2020年代には時間・距離・費用・限界費用が「どこでもゼロ」のサイバー空間で大規模に現れ、その広がりはフィジカルを遥かに超える。たとえばモノづくり・モノ売りには、1.エンジニアリングチェーン2.マニュファクチャリングチェーン3.サプライチェーン4.サービスチェーンなど、つながりを必要とする領域がたくさんあったが(※6)、フィジカル空間でつながることは稀であった。※61.エンジニアリングチェーン:商品企画・設計・製造の各部門の情報のつながり2.マニュファクチャリングチェーン:生産技術、製造技術、生産ラインや、工場と工場の情報のつながり3.サプライチェーン:サプライヤー、調達、生産計画、生産実行などの情報のつながり4.サービスチェーン:受発注情報、生産情報、ロジスティクス情報、納期照会・回答情報、そしてトレーサビリティなどの情報のつながりそれでも日本企業は「すり合わせ」や「ワイガヤ」、あるいは「TPS(Toyota Production System)」、「JIT(Just In Time)」など、濃密につながる独自の仕組みを考え出し、ここから生まれるネットワーク効果を活用して世界に冠たるモノづくり大国になった。それでもこれらはいずれもヒトや組織経由のつながりであり局所的であったという意味で、オープン・アーキテクチャーになれば、その効用が限定的となる。しかしながら2020年代には「どこでもゼロ」のサイバー空間を利用することによって、上記項目1から項目4の広範囲のつながりが可能になる。これらがつながることで強大なネットワーク効果が表れ、2020年代の製造業をつくりかえるのである。すでにその兆候が中国の製造業はもとよりドイツが先導するIndustrie4.0の環境ではっきりみえている。2020年代の製造業を構造化して下記図表の最上層で示すが、日本の製造業もサイバー空間につくり出す強大なビジネスパワーを使いこなさなければならない。そのためには「ダイナミック・ケイパビリティ」が必要である(※7)。これに向けた第一歩としてつながる仕組みづくりで先手を打たなければならない。※7:サイバー空間に表れる経済的な価値はつながりを介在するデータの流路(Node)が核となって「べき乗分布」となり、ビジネスパワーの多くがNodeとその周辺に集まる。したがってデータの流路(Node)を自社優位に事前設計できた企業が製造業の成長をリードすることになる。人財と組織のダイナミック・ケイパビリティもこれを踏まえた取り組みが必要である。[図表]サイバー空間のビジネスパワーが世界の製造業をつくりかえる小川 紘一Ridgelinezシニアアドバイザー
しかし、それ以上に我々が注目しなければならないのは、仮想化が進むとモノやアセットの機能がサイバー空間で代替されるAFV(Asset Function Virtualization:資産機能の仮想化)型の経済システムが生まれるという事実である。ここから経済パワーをつくり出す場がサイバー空間へシフトする。
我々が2010年代に目にしたのは、フィジカル空間の銀行が持っていたはずの預金、与信、融資、送金の機能がサイバー空間へシフトし、世界の金融業がつくりかえられた事実であり、またAmazonが人類史上最大の店舗をサイバー空間に構築し、マーケティング、店舗、展示、販売、仕込み、在庫管理やロジスティクス管理、そして決済などの機能をすべて持って世界の小売業をつくりかえてしまった事実である。
仮想化をモノづくり・モノ売りの視点で語れば、フィジカル空間のモノ単体だけでなく、設計、調達、生産や物流ロジスティクスの機能をサイバー空間へシフトさせるAFV型製造業の出現を意味する(※2)。
※2:サイバー空間で物理的なモノの加工や移動はできないが、加工や移動の情報を収集することによって加工や移動の全体を最適化し、あるいは最適に制御することができる。
Digital TwinやCyber Physical System(CPS)はもとより「日本の製造業におけるデジタル戦略」で紹介したDFX(Design For X)やBoX(Bill Of X)も、サイバー空間へシフトさせるための戦略ツールである(※3)。これに加えて最近では、生産管理システム(ERP)と生産実行システム(MES)が空間でつながり、あるいは生産設備の制御装置(PLC)も、さらには物流ロジスティクスも仮想化されてサイバー空間でつながるAFV型の製造業へ向かい始めた。
※3:DFXのXはManufacturing,Test,Recycleなどを表し、製品の開発設計の段階から製造性やテストしやすさ、リサイクルをしやすくする仕組みなどを取り込む設計アーキテクチャー。BoXのXはMaterial、Process、Supply chain, Logistics, Serviceなどを表し、企画・設計・調達・生産プロセス・サプライチェーン・サービスなど、製造業に関わる情報を一気通貫でつなぐビジネスアーキテクチャーへの転換を可能にする。
しかし、それだけではない。仮想化によってモノづくり・モノ売りに関わる多様な機能がオープンなプロトコルでつながる巨大モジュールの組み合わせで構成され、製造業の全域がオープン・アーキテクチャーへ転換する(※4)。したがって2020年代には、それぞれの企業でビジネスアーキテクチャーの転換を迫られる。
※4:製品の設計機能、生産技術・製造技術機能、調達機能、サプライチェーン機能、マーケティングや販売機能があたかも巨大なモジュールとして表現され、これが例えばOPC-UAなどのオープン・プラットフォームでつながる仕組みになれば、製造業のビジネス全域がパソコンやスマートフォンと類似のオープン・アーキテクチャーへ転換する。
たとえば、サイバー空間経由で顧客とつながり、顧客の便益を最優先する製造業のサービス化が、商談・受注に決定的な影響を与えるであろう。工場に閉じたつながりが産み出す強大な競争力はすでに300mmウェハーが標準化された2000年初頭の半導体産業やハードディスク産業で起きていて(※5)、多くの日本企業が市場撤退へ追い込まれた。我々はこの教訓を忘れてはならない。今回は、これが工場と顧客を含むあらゆるつながりで起きるのである。
※5:当時の半導体産業では台湾のTSMC社が、ハードディスク産業ではアメリカのSeagate社が代表的な事例。当時は主に工場内部に閉じたモノづくり機能のつながりだったが、これによるコスト削減が日本企業より遥かに大きく、大部分の日本企業が市場から消えた。2010年代になると日本企業がセラミックコンデンサーやNAND型フラッシュメモリーで工場内のつながりに先手を打ち、圧倒的な競争力を維持している。
2020年代、日本の製造業で起きること2020年代に多くの製造業がつくりかえられるのであれば、先手を打ってその方向へ漕ぎ出さないとゲームチェンジに引きずり込まれる。我々はこの事実を2010年代の金融業や小売業、メディア・エンターテインメント、広告などの産業で何度も目にした。建設機械や自動車産業でも類似の兆候が顕在化している。先手を打つには、ゲームチェンジのメカニズムを実ビジネスのなかで理解しなければならない。「どこでもゼロ」の経済になると、どのような経済パワーが生まれるのだろうか? これを製造業の視点で語れば、第一に人智を超えた広範囲の「分業」による収穫逓増の経済パワーであり、第二に人智を遥かに超えた広範囲のつながりがつくりだす「ネットワーク効果」という強大な収穫逓増の経済パワーであり、そして第三に「機械学習(人工知能)」がつくりだすまったく新しい姿の経済パワーである。第一と第二のいずれもすでに1990年代のフィジカル空間で現れていたが、2020年代には時間・距離・費用・限界費用が「どこでもゼロ」のサイバー空間で大規模に現れ、その広がりはフィジカルを遥かに超える。たとえばモノづくり・モノ売りには、1.エンジニアリングチェーン2.マニュファクチャリングチェーン3.サプライチェーン4.サービスチェーンなど、つながりを必要とする領域がたくさんあったが(※6)、フィジカル空間でつながることは稀であった。※61.エンジニアリングチェーン:商品企画・設計・製造の各部門の情報のつながり2.マニュファクチャリングチェーン:生産技術、製造技術、生産ラインや、工場と工場の情報のつながり3.サプライチェーン:サプライヤー、調達、生産計画、生産実行などの情報のつながり4.サービスチェーン:受発注情報、生産情報、ロジスティクス情報、納期照会・回答情報、そしてトレーサビリティなどの情報のつながりそれでも日本企業は「すり合わせ」や「ワイガヤ」、あるいは「TPS(Toyota Production System)」、「JIT(Just In Time)」など、濃密につながる独自の仕組みを考え出し、ここから生まれるネットワーク効果を活用して世界に冠たるモノづくり大国になった。それでもこれらはいずれもヒトや組織経由のつながりであり局所的であったという意味で、オープン・アーキテクチャーになれば、その効用が限定的となる。しかしながら2020年代には「どこでもゼロ」のサイバー空間を利用することによって、上記項目1から項目4の広範囲のつながりが可能になる。これらがつながることで強大なネットワーク効果が表れ、2020年代の製造業をつくりかえるのである。すでにその兆候が中国の製造業はもとよりドイツが先導するIndustrie4.0の環境ではっきりみえている。2020年代の製造業を構造化して下記図表の最上層で示すが、日本の製造業もサイバー空間につくり出す強大なビジネスパワーを使いこなさなければならない。そのためには「ダイナミック・ケイパビリティ」が必要である(※7)。これに向けた第一歩としてつながる仕組みづくりで先手を打たなければならない。※7:サイバー空間に表れる経済的な価値はつながりを介在するデータの流路(Node)が核となって「べき乗分布」となり、ビジネスパワーの多くがNodeとその周辺に集まる。したがってデータの流路(Node)を自社優位に事前設計できた企業が製造業の成長をリードすることになる。人財と組織のダイナミック・ケイパビリティもこれを踏まえた取り組みが必要である。[図表]サイバー空間のビジネスパワーが世界の製造業をつくりかえる小川 紘一Ridgelinezシニアアドバイザー
2020年代、日本の製造業で起きること2020年代に多くの製造業がつくりかえられるのであれば、先手を打ってその方向へ漕ぎ出さないとゲームチェンジに引きずり込まれる。我々はこの事実を2010年代の金融業や小売業、メディア・エンターテインメント、広告などの産業で何度も目にした。建設機械や自動車産業でも類似の兆候が顕在化している。先手を打つには、ゲームチェンジのメカニズムを実ビジネスのなかで理解しなければならない。「どこでもゼロ」の経済になると、どのような経済パワーが生まれるのだろうか? これを製造業の視点で語れば、第一に人智を超えた広範囲の「分業」による収穫逓増の経済パワーであり、第二に人智を遥かに超えた広範囲のつながりがつくりだす「ネットワーク効果」という強大な収穫逓増の経済パワーであり、そして第三に「機械学習(人工知能)」がつくりだすまったく新しい姿の経済パワーである。第一と第二のいずれもすでに1990年代のフィジカル空間で現れていたが、2020年代には時間・距離・費用・限界費用が「どこでもゼロ」のサイバー空間で大規模に現れ、その広がりはフィジカルを遥かに超える。たとえばモノづくり・モノ売りには、1.エンジニアリングチェーン2.マニュファクチャリングチェーン3.サプライチェーン4.サービスチェーンなど、つながりを必要とする領域がたくさんあったが(※6)、フィジカル空間でつながることは稀であった。※61.エンジニアリングチェーン:商品企画・設計・製造の各部門の情報のつながり2.マニュファクチャリングチェーン:生産技術、製造技術、生産ラインや、工場と工場の情報のつながり3.サプライチェーン:サプライヤー、調達、生産計画、生産実行などの情報のつながり4.サービスチェーン:受発注情報、生産情報、ロジスティクス情報、納期照会・回答情報、そしてトレーサビリティなどの情報のつながりそれでも日本企業は「すり合わせ」や「ワイガヤ」、あるいは「TPS(Toyota Production System)」、「JIT(Just In Time)」など、濃密につながる独自の仕組みを考え出し、ここから生まれるネットワーク効果を活用して世界に冠たるモノづくり大国になった。それでもこれらはいずれもヒトや組織経由のつながりであり局所的であったという意味で、オープン・アーキテクチャーになれば、その効用が限定的となる。しかしながら2020年代には「どこでもゼロ」のサイバー空間を利用することによって、上記項目1から項目4の広範囲のつながりが可能になる。これらがつながることで強大なネットワーク効果が表れ、2020年代の製造業をつくりかえるのである。すでにその兆候が中国の製造業はもとよりドイツが先導するIndustrie4.0の環境ではっきりみえている。2020年代の製造業を構造化して下記図表の最上層で示すが、日本の製造業もサイバー空間につくり出す強大なビジネスパワーを使いこなさなければならない。そのためには「ダイナミック・ケイパビリティ」が必要である(※7)。これに向けた第一歩としてつながる仕組みづくりで先手を打たなければならない。※7:サイバー空間に表れる経済的な価値はつながりを介在するデータの流路(Node)が核となって「べき乗分布」となり、ビジネスパワーの多くがNodeとその周辺に集まる。したがってデータの流路(Node)を自社優位に事前設計できた企業が製造業の成長をリードすることになる。人財と組織のダイナミック・ケイパビリティもこれを踏まえた取り組みが必要である。[図表]サイバー空間のビジネスパワーが世界の製造業をつくりかえる小川 紘一Ridgelinezシニアアドバイザー
2020年代に多くの製造業がつくりかえられるのであれば、先手を打ってその方向へ漕ぎ出さないとゲームチェンジに引きずり込まれる。我々はこの事実を2010年代の金融業や小売業、メディア・エンターテインメント、広告などの産業で何度も目にした。建設機械や自動車産業でも類似の兆候が顕在化している。
先手を打つには、ゲームチェンジのメカニズムを実ビジネスのなかで理解しなければならない。「どこでもゼロ」の経済になると、どのような経済パワーが生まれるのだろうか? これを製造業の視点で語れば、第一に人智を超えた広範囲の「分業」による収穫逓増の経済パワーであり、第二に人智を遥かに超えた広範囲のつながりがつくりだす「ネットワーク効果」という強大な収穫逓増の経済パワーであり、そして第三に「機械学習(人工知能)」がつくりだすまったく新しい姿の経済パワーである。
第一と第二のいずれもすでに1990年代のフィジカル空間で現れていたが、2020年代には時間・距離・費用・限界費用が「どこでもゼロ」のサイバー空間で大規模に現れ、その広がりはフィジカルを遥かに超える。
たとえばモノづくり・モノ売りには、
1.エンジニアリングチェーン
2.マニュファクチャリングチェーン
3.サプライチェーン
4.サービスチェーン
など、つながりを必要とする領域がたくさんあったが(※6)、フィジカル空間でつながることは稀であった。
※61.エンジニアリングチェーン:商品企画・設計・製造の各部門の情報のつながり2.マニュファクチャリングチェーン:生産技術、製造技術、生産ラインや、工場と工場の情報のつながり3.サプライチェーン:サプライヤー、調達、生産計画、生産実行などの情報のつながり4.サービスチェーン:受発注情報、生産情報、ロジスティクス情報、納期照会・回答情報、そしてトレーサビリティなどの情報のつながりそれでも日本企業は「すり合わせ」や「ワイガヤ」、あるいは「TPS(Toyota Production System)」、「JIT(Just In Time)」など、濃密につながる独自の仕組みを考え出し、ここから生まれるネットワーク効果を活用して世界に冠たるモノづくり大国になった。それでもこれらはいずれもヒトや組織経由のつながりであり局所的であったという意味で、オープン・アーキテクチャーになれば、その効用が限定的となる。しかしながら2020年代には「どこでもゼロ」のサイバー空間を利用することによって、上記項目1から項目4の広範囲のつながりが可能になる。これらがつながることで強大なネットワーク効果が表れ、2020年代の製造業をつくりかえるのである。すでにその兆候が中国の製造業はもとよりドイツが先導するIndustrie4.0の環境ではっきりみえている。2020年代の製造業を構造化して下記図表の最上層で示すが、日本の製造業もサイバー空間につくり出す強大なビジネスパワーを使いこなさなければならない。そのためには「ダイナミック・ケイパビリティ」が必要である(※7)。これに向けた第一歩としてつながる仕組みづくりで先手を打たなければならない。※7:サイバー空間に表れる経済的な価値はつながりを介在するデータの流路(Node)が核となって「べき乗分布」となり、ビジネスパワーの多くがNodeとその周辺に集まる。したがってデータの流路(Node)を自社優位に事前設計できた企業が製造業の成長をリードすることになる。人財と組織のダイナミック・ケイパビリティもこれを踏まえた取り組みが必要である。[図表]サイバー空間のビジネスパワーが世界の製造業をつくりかえる小川 紘一Ridgelinezシニアアドバイザー
※6
1.エンジニアリングチェーン:商品企画・設計・製造の各部門の情報のつながり
2.マニュファクチャリングチェーン:生産技術、製造技術、生産ラインや、工場と工場の情報のつながり
3.サプライチェーン:サプライヤー、調達、生産計画、生産実行などの情報のつながり
4.サービスチェーン:受発注情報、生産情報、ロジスティクス情報、納期照会・回答情報、そしてトレーサビリティなどの情報のつながり
それでも日本企業は「すり合わせ」や「ワイガヤ」、あるいは「TPS(Toyota Production System)」、「JIT(Just In Time)」など、濃密につながる独自の仕組みを考え出し、ここから生まれるネットワーク効果を活用して世界に冠たるモノづくり大国になった。それでもこれらはいずれもヒトや組織経由のつながりであり局所的であったという意味で、オープン・アーキテクチャーになれば、その効用が限定的となる。
しかしながら2020年代には「どこでもゼロ」のサイバー空間を利用することによって、上記項目1から項目4の広範囲のつながりが可能になる。これらがつながることで強大なネットワーク効果が表れ、2020年代の製造業をつくりかえるのである。すでにその兆候が中国の製造業はもとよりドイツが先導するIndustrie4.0の環境ではっきりみえている。
2020年代の製造業を構造化して下記図表の最上層で示すが、日本の製造業もサイバー空間につくり出す強大なビジネスパワーを使いこなさなければならない。そのためには「ダイナミック・ケイパビリティ」が必要である(※7)。これに向けた第一歩としてつながる仕組みづくりで先手を打たなければならない。
※7:サイバー空間に表れる経済的な価値はつながりを介在するデータの流路(Node)が核となって「べき乗分布」となり、ビジネスパワーの多くがNodeとその周辺に集まる。したがってデータの流路(Node)を自社優位に事前設計できた企業が製造業の成長をリードすることになる。人財と組織のダイナミック・ケイパビリティもこれを踏まえた取り組みが必要である。
[図表]サイバー空間のビジネスパワーが世界の製造業をつくりかえる
小川 紘一
Ridgelinez
シニアアドバイザー

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