「パンティー泥棒事件」が勃発→警察官と被害者女性が「気まずく」なってしまったワケ

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〈なぜ東京の寒空で「バスタオル1枚姿の女性」が…? 警察官もブチギレた驚きの理由「あんた、ナニ考えてんだ!」〉から続く
「どんな色ですか?」「あ、赤です」「柄とか、何か模様とかありますか?」「……」
【写真を見る】かつて「パンツ泥棒」報道で話題になった有名人
ときにはこんな会話が繰り広げられることも。警察官も被害者女性も困惑してしまう「パンティー泥棒事件」の悩ましさを、元警察官の肩書を持つ安沼保夫氏の新刊『警察官のこのこ日記――本日、花金チャンス、職務質問、任意でご協力お願いします』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
警察官も被害者も困ってしまう「パンティー事件」とは…? 写真はイメージ getty
◆◆◆
警察学校への再入校が終わると、ようやく一人前と認められるようになる。それまではいつも神宮司(筆者の先輩の巡査長)と一緒だった午後の警らも単独で可能だ。
「警ら、行ってきます」と浦口(筆者の上司の巡査部長)に告げて、自転車で出発。警らの目的は基本的には職質検挙であるものの、晴れわたる空のもと、鼻歌を歌わずにはいられない。
110番通報にも単独で臨場できる。ケンカや大きな事故には複数での臨場が原則だが、駐車の苦情、騒音の苦情、交通物件事故、酔っ払いの寝込み、迷い老人の確保などなどは1人での対応となる。
真夏の夜8時すぎ、ひとり暮らしの女性宅で侵入窃盗との110番があり、単独で現場に向かった。
真新しいアパート2階にある一室のチャイムを押すと、チェーンロックを解除する音が聞こえて、30歳前後と思われる小柄な女性が部屋に迎え入れてくれた。
女性によると、朝出勤前にベランダに洗濯物を干していったのだが、夜帰宅して取り込んだところ、下着だけ盗られていることに気づいたという。
現場を確認すると、どうやら1階の駐車場に停めてあったバンを足がかりにベランダに侵入し、室内には入らず下着だけ盗って立ち去ったらしい。物静かな女性で終始落ち着いて説明してくれたものの、不安げだ。ベランダとはいえ、ひとり暮らしの家に知らぬ人間が足を踏み入れたと思えば、心配になるのも無理はない。
被害品を確認しながら被害届を作成する。被害者と雑談や談笑する警察官もいるらしいが、私は余計なことは言わないようにしていた。「たいした被害じゃなくてよかったですね」と言った警官がいたらしく、署にクレームが寄せられ、係長から「言動には気をつけろ」と指示を受けていたからだ。
「なくなっているものは、ほかに何かありませんか?」
「はい、盗られたのは下着の上下だけみたいです」
事務的に会話し、被害品欄に「ブラジャー、パンツ」と書こうとして手が止まる。ブラジャーはいいが、ズボンもパンツというし、混乱しないだろうか……。
うーん。少し考えて「パンティー」と書いた。
特徴欄にはなるべく詳細な特徴を書く。もし被害品が見つかった場合に「それ」であると特定するためだ。
「どんな色ですか?」
「あ、赤です」
「赤……真っ赤ですか?」
「……はい」
「形は?」
「ふつうの……」
「柄とか、何か模様とかありますか?」
「……」
盗品の事情聴取とはいえ、本人の下着を事細かに聞く。会話内容だけならただの変態男。だんだん気まずくなってくる。
一応、パンティーの詳細は書き留めたが、聴取はまだ終わらない。時価の記載が必要なのだ。時価というのは、そのモノが一般的にいくらくらいで取引されるかということ。たとえば、時計を盗まれたのであれば、国産の一般的なものと海外ブランドの高級品とでは大きく価格が異なるため、おおよその目安を記載しておく必要がある。
とはいえ、すでに着用した衣類でしかも下着となると(一部、高値で取引されているマーケットをのぞいて)古着屋でも買い取りNGで値段などつかないだろう。そんなことを考えつつ、「時価を記載しなければならないのですが……500円くらいですかね?」。
私がそう言うと、女性の表情が変わった。
「そんなに安くありません!」
こんなことで署にクレームを入れられても困る。別に値段を高くしたところで被害女性にはメリットもない旨を丁寧に説明し、「それじゃあ、1000円くらいでどうでしょうか?」「まあ……それでいいですけど」
女性もしぶしぶという感じで受け入れてくれた。

今回は室内へ侵入した形跡も見られないため、被害届をとり、「戸締りはしっかりしてください。今後もし不審者を見かけたらすぐ110番してください」と防犯指導をして完了となる。
(安沼 保夫/Webオリジナル(外部転載))

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