お金を貯め込みすぎた高齢者の後悔を、3つのケースで解説する(画像:bee/PIXTA)
結婚しても子どもをもたない夫婦、いわゆる「おふたりさま」が増えている。
共働きが多く経済的に豊か、仲よし夫婦が多いなどのメリットはあるものの、一方で「老後に頼れる子どもがいない」という不安や心配がある。
そんな「おふたりさまの老後」の盲点を明らかにし、不安や心配ごとをクリアしようと上梓されたのが『「おふたりさまの老後」は準備が10割』だ。同書は7刷3万部を突破するベストセラーになっている。
著者は「相続と供養に精通する終活の専門家」として多くの人の終活サポートを経験してきた松尾拓也氏。北海道で墓石店を営むかたわら、行政書士、ファイナンシャル・プランナー、家族信託専門士、相続診断士など、さまざまな資格をもつ。
その松尾氏が「お金を貯め込みすぎた高齢者」の後悔を、3つのケースで解説する。
私は終活の専門家として、多くの老後事例を目の当たりにしてきました。
そこには、以前の記事でもお伝えしたように「お金を貯め込みすぎた高齢者」が非常に多いという現実があります。
もちろん、人の命がいつ尽き果てるかは誰にもわかりません。
葬儀代+αを残して死ねたらいいのでしょうが、「人生何が起こるかわからない。そううまいわけにはいかないから、お金を貯めておくのだ」という気持ちもよくわかります。
たくさんのお金を貯め込むことでその人が幸せになるならよいのですが、むしろ不幸を呼んでしまう、後悔のタネになってしまうというケースもあるのです。
今回は、私がそんな「お金を貯め込みすぎた高齢者」が、実は大事なものを失っていると感じたことを、3つの事例で紹介します。
Iさんご夫妻は、共働きで教育関連の仕事を続け、2人の息子さんを育てあげました。
節約生活を続け、だんだんお金が貯まっていくのが楽しかったそうです。
子どもにも決して贅沢はさせず「うちにはお金がない」と言って育てたのです。
老後に差しかかる65歳時点では、お互いの退職金を含めて9000万円ほどのお金をお持ちでした。年金も、暮らしていくには十分な額でした。
2人の息子さんはそれぞれ結婚して家庭を築き、長男は親と近居、次男は県外で暮らしていました。
仲がよかったIさんご夫妻は、80代で立て続けになくなりました。
ご夫妻が貯めた約9000万円は手つかずのまま、2人の息子が相続することになったのですが……。
近居の長男が「しょっちゅう様子うかがいをしていたのだから、自分のほうが多くもらうべき」という主張をはじめたのです。
相続は平等と考えていた次男は驚き、それぞれの配偶者までが口を出す大騒動になりました。
結局、長男の相続割合を増やして手続きを進めることとなりましたが、このことが原因で兄弟は仲違いとなり、絶縁状態となったそうです。
しかも、いきなり大金を手にした長男は仕事をやめ、高級車を乗り回すようになったそうです。結果、夫婦仲が悪くなり、数年後に離婚となってしまいました。
もともと仲のよい兄弟だったそうです。
「子孫に美田を残さず」という言葉がありますが、「よけいな遺産がなければ、仲のよい兄弟のままだったかもしれない……」と考えると、残念でなりません。
Hさん夫妻も、十分な老後資金を準備して老後生活をスタートしました。
若い頃から爪に火をともすような生活を送り、5000万円ほどのお金を貯めました。
3人のお子さんに恵まれ、どなたも立派に独立されていました。
しかし、Hさん夫妻は「子どもや孫が遊びに来ない」とぼやくのです。
Hさん夫妻の娘さんと話す機会があったのですが、その理由を聞いて私も納得しました。
Hさん夫妻のお住まいは築50年の古家ですが、お金がもったいないので水回りのリフォームなどもしていないそうです。
古くなれば、どうしてもトイレなどは臭います。節約のために換気扇をあまり使用しないため、キッチンは油まみれ、お風呂はカビだらけ。キッチンのシンクもさびついて、衛生環境が不安なのだそう。
しかも「もったいない精神」からモノが捨てられず、家の中は古くて使わないモノがあふれているといいます。家電なども数十年前のものばかりで、泊まりに行っても不便が多いそうです。
娘さんは「モノが多いとホコリも出るし、あの家では子どもが病気になりそう。とても連れていけない」と言うのです。
現役の子育て世代と高齢者では、ライフスタイルや衛生観念に違いがあるのはわかります。
でも、「十分なお金があるのだから、リフォームくらいすればいいのに」というのが娘さんの言い分だそうです。
これには私も大賛成です。
これまで頑張って働いてきたのですから、多少お金はかかっても、清潔で暮らしやすい環境にアップデートしていただきたいと思います。
それでお子さんやお孫さんが遊びにきてくれるなら、そのほうが幸せなのではないでしょうか。
最後の事例は、Sさんです。
Sさんは独身の男性ですが、若い頃からお金を増やすことに心血を注ぎました。資産運用も功を奏し、1億円超の金融資産をお持ちでした。
Sさんは、お酒も飲まず、ギャンブルもせず、車も買わず、ブランドの服、外食、旅行、ゴルフなどのお金がかかる趣味などから目を背けて生きてきたそうです。
むしろ「そんなことにお金を使うのはバカだ」と考えていました。
そんなSさんですから「結婚や子どもはお金がかかる」と、独身を貫いてきたのです。
しかし、いざ老境に差しかかったSさんは、虚しさに襲われるようになったそうです。
たしかにお金があれば老後は安泰かもしれない。でも、日々を楽しむことをせず、「経験値の低い人生」だったのではないか。
「自分の人生は何だったのだろう……」と。
もちろん、私も過度な浪費には反対です。
しかし、人生を楽しむためには、身の丈にあった適度な支出が必要なのも事実です。
人生で最も大切なのは、お金よりも時間。お金はあなたの時間(人生)を充実したものにするための手段なのです。
そして、お金という手段を上手に使うためには、知識が必要です。
「終わりよければすべてよし」
悔いのない老後を過ごし、「幸せな人生だった」と一生を終えるためにも、お金や制度に関する知識を身につけ、若いうちから「正しい準備」をしてほしいと思います。
(松尾 拓也 : 行政書士、ファイナンシャル・プランナー、相続と供養に精通する終活の専門家)