食糧危機で発動?4月から施行「食料供給困難事態対策法」とは? 農業従事者「余力がない」「農業を知らない人が作った法律」

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「食料供給困難事態対策法」。昨年6月に可決・成立した法律が、最近SNS上で話題になっている。異常気象や国際情勢の悪化などで米や麦など、主要な食料が不足した場合、その深刻度によって生産や出荷の調整を要請、または指示できるという食糧安全保障の強化に向けた法律だ。ただ、この法律は法案審議の段階から強い反発を受けており、農業の現場からは食料不足対策よりも、平時の農業基盤の強化を求める声があがっていた。
【映像】「食料供給困難事態対策法」対象となる食品は?
この4月から施行が決まっている食料供給困難事態対策法。普段作っていない作物を、有事だからと政府から求められることもあるだけに、どこまで実現性・実用性があるのか。「ABEMA Prime」では農業に生きる当事者を招き、法律について議論を重ねた。
有事の際に適用される、今回の食料供給困難事態対策法。背景には、世界的に食料の生産・供給が不安定化した際、食料供給の大幅不足に対して、防止・早期解消を図る目的がある。具体的な内容として「不足の恐れ」が出た場合には、国から生産拡大の要請が出る。「米・小麦が大幅不足」となった場合には、生産計画の届け出指示があり、これに従わないと、20万円以下の罰金が課せられる場合がある。また「必要カロリーが摂れないおそれ」が出た場合には、増産などの計画変更指示が出され、従わない場合には氏名公表などもある。
法案段階から意見を述べてきた「雨風太陽」代表の高橋博之氏は、現状でさえ苦しむ農業の現場について訴えた。「僕の知り合いの生産者も割と中小規模で、いわゆる条件不利地域と呼ばれている中山間地域の生産者が多い。実は日本の耕作面積の4割は中山間地域。農家の総人口の4割も中山間地域。そして生産額の4割も中山間地域なのでバカにできない。話を聞いたら、それどころではなくて、いま目の前が有事だという感じだ。僕らは過疎というのは慢性的な災害だと言っている」。窮状を伝えた上で、「これだけ国内の生産基盤が脆弱化している時に、いざ増産だと言われても、もはや余力がない。つまり実効性がどれだけ担保されているのかというのは、現状を見る限り、いざ指示して増産とかと言われても、もはやその余力が全くない。だから同時並行で日常というか、平時の生産基盤をしっかり充実させていく、確保させていくということがあって、実行性が担保されて初めてこういった有事法制というのは意味をなしてくるのではないかなと思う」と述べた。
「タケイファーム」代表の武井敏信氏は、就農してから25年ほどになる。「僕が就農したのは2000年で、その時に農業就業人口は240万人ぐらいで今はもう半分以下になっている。今回の法律は、農業を知らない人が作ったのかなというのが僕の感想だ」と、違和感を覚えた。「最悪の場合、お米農家にさつまいもを作れとか、転換が言えるではないか。僕はいろいろな野菜を作ってきた中で、野菜を作るのは結構難しい。うちはハウスがないので、露地栽培だ。ナスなんかは年に1回しか作れないし、チャンスが1回なわけだ。その間にどうやってうまいものが作れるのかも分からないし、たぶんそう簡単にはできないのではないか」と、国から求められたとしても、まともな作物ができる状況は揃わないと伝えた。
2ちゃんねる創設者のひろゆき氏も、実効性について言及した。「結局農家ごとの土地の配置だったり、どういう所とかも違う。『20%増産してくれ』と言われて、どうやってやるんだという話。偉い人的には何県だったら10%増やせとか、大まかな命令を出すだけだと思う。実際、農家の方はそれに従って何か計画を作らなくてはいけないみたいになって、実際はそうはいかないよねとか、全然違うものを作れと変更が来ると思う。本当にものを作っている人の意見ではない人や、偉い人たちが勝手にものを決めて、それに従わなくてはいけないという構造が、本当に日本人の食料を増やすことに繋がるのかというと僕は疑問な気がする」と述べた。
ただ高橋氏は、今回の法律に際し「農林水産省のみなさんで考えたもので、農家の現場の実態をどこまで理解しているのか分からないが、僕はポジティブに考えたい」とも語った。「平時の生産基盤に目を向けることに結果として繋がっている。いざ何かあった時に一肌脱げと言われても、心情的に農家からすると『お前、平時はこんなにしておいて、困っている時に助けてくれと言われても、それはおいそれと乗れない』というのは心情的にある。今こうしてSNS等含めて、消費者の目もそういう現状の農家の置かれた状況に目を向けるきっかけになっている。そこが伴う形になればこれの意味も出てくるのではないか」と期待した。
農水省としては、この法律をどのレベルを対象とするのか。たとえば昨年、宮城県沖で発生した地震の影響で米の流通が滞ったとして「令和の米不足」と騒ぎになったが、これは米そのもの生産量が大きく減少したわけではないので「対象外」。また、2022年にはウクライナ侵攻により、世界全体で小麦の価格が上昇したが、これも日本への供給量は維持されていたとして「対象外」。1993年、記録的な冷夏と長雨で米が大凶作(2割以上減)となった「平生の米騒動」については、「食料供給困難事態」に該当する可能性があるというのが、農水省の見解だ。また、生産者・消費者から出ている懸念の声に対し、番組は農水省に取材したところ「花農家に米や芋を作れと強制するものではない」「難しければ生産しないという計画でも構わない」「国民全体が困っている状態になれば、農家・輸入業者・卸売業者もご協力いただきたい」などと回答した。
環境副大臣・元デジタル副大臣の自民党・小林史明衆議院議員は「この法律だけでは全然役に立たない」と話す。「(食料が)足りなくなったから北海道でドーンと作ってくれと言った時に、ある時は北海道から九州に運べるかもしれないが、別の有事の時には北海道で作ったって九州に運べないかもしれない。そうすると、九州のエリアの中でどのくらい用意できるのか、四国ではどれくらい用意できるのかというのがある。それをどう運ぶのかを詰めていかないといけない」と、作るだけでなく輸送も含めた検討が必要だとした。「地域の今の生産基盤で自給できないことが明確になると、どれくらい普段から自給しなきゃいけないのかも明らかになってくる。それを並行して進めるという話になる。ここで罰則が20万円とか、20万円じゃないとかいう議論よりも、もっと実は厳しい有事を想定して、次の議論に入って行かないと、日本の農業の話は進まない」。
また近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「実は、日本はこういう有事法制がすごく遅れている」と述べ、「これはもともと敗戦国というのもあったので有事をあまり想定しないというのもある。ただオイルショックの時に、エネルギーに関してはそういう法制ができて、備蓄などをやっている」と事例を出した。また「食料のほうはほとんど何もなかった状態だ。おそらく、本当に日本の周りは危ない国際情勢でもあるので、こういうものを整備しておかないといけないという問題意識から出てきたものだと思う。何しろ有事になった時に、どう政府自身を運用するのかもあまり決められていないところもある。今いろいろなものを整備していく過程の段階だと思ったほうがいいんじゃないか」とも述べていた。(『ABEMA Prime』より)

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