【松本 洋】ディズニーのペアチケット、子ども全員にお菓子を配る「神奈川県の高級タワマン」に異変…組合理事長が青ざめた「支出超過の末路」

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イソップ物語のひとつに「アリとキリギリス」という寓話があります。
もはや有名すぎるほど有名なこの寓話の「備えあれば憂いなし」という教訓を、昨今のマンション管理や総会でのトラブルにあてはめて考えると、なるほどと膝を打つことが多く、今回はそんな事例をもとにマンション管理の現在地を著していきたいと思います。
敷地のシンボルツリーにキラキラと輝くイルミネーション、クリスマスの時期になると、広いエントランスホールにオーナメント付きの大きなツリーを飾る築年数20年、約500世帯が暮らす神奈川県のタワーマンションは、豪華なしつらえとして有名な地元のシンボルタワーです。
ハロウィンやクリスマスにはお菓子やプレゼントを居住者の子どもたちに配ったり、イベントの抽選会でディズニーランドペアチケットや1万円分のクオカードなどの豪華賞品を用意。
さらにキッチンカーを敷地内に呼び、無料食事券を配布して、さまざまな料理を楽しみながらコミュニティを形成するイベントを新築当初から積極的に行ってきました。Aさんはそんな豪華なマンションの管理組合の理事長に就いて早々に管理会社の担当者から困った事態を聞かされます。
「管理費の支出が収入を上回る支出超過状態になっています」
管理会社の説明では、10年ほど前から単年度収支はマイナスになっていて、不足分は余剰金(内部留保)で食いつないでいたのですが、そのお金も底をついてしまって現在は破綻寸前だというのです。
しかも今期は、管理会社に支払う管理委託費や共用部分の損害保険料の大幅な値上げが決まっており、水道光熱費も値上げになる見込みだといいます。
慌てて10年前の総会資料の確認してみると、これらイベント費用に毎年150万円以上も費やしていたことが発覚しました。この金額はイベントに参加・不参加にかかわらず1世帯当たり5,000円以上の負担をしている計算になります。
新築後、何年間は資金に余裕があり、管理費会計の次期繰越金は1,500万円以上が計上されていましが、それでも単年度収支の赤字は常態化しており、今まで積み重ねてきた剰余金がマイナスになってしまったようでした。
現在の予算を見ると繰越金はゼロ、予備費もなし。それでもイベント費用の150万円はしっかりと予算計上されています。
Aさんは運悪く余剰金が枯渇したときに理事長に就いてしまったわけです。本来支出は抑えて管理費を貯めなければならない築浅の時期に、大盤振る舞いを続けたツケがいま回ってきたのです。
その状況にAさんは、理事会で管理組合の財政は破綻寸前であることを説明し、そのうえで、クリスマスイベントの費用は今後は参加者のみが支払い、管理費からの支出は0円にする受益者負担とすることを決議。
それと同時に新築時からずっと管理費でまかなっていた理事会や専門委員会の会合の際の飲み物代も、今後は取りやめて参加者持参にすることで合意には至りましたが、もはや小手先だけの通用しないほど差し迫っており、抜本的な対策が必要不可欠だと私にアドバイスを求めてきました。
そこで私は説明会を開催し、組合員に理解を求めて合意形成をはかり、臨時総会で管理費の値上げを行うことを提案しました。
このタワーマンションが建てられた当時は、管理費の使いみちとして『コミュニティ形成に管理費が使える』という国土交通省『標準管理規約』の規定がありました。しかし “コミュニティ形成”が拡大解釈され『管理費の中からマンションのイベントの費用を支出するのはおかしい』という意見が続出、区分所有者の間の意見の相違から訴訟に発展したケースもありました。
そうした背景から平成28年の標準管理規約の改正でコミュニティ条項は削除されました。しかしこのタワーマンションではその当時の『標準管理規約』を残したまま今に引き継がれているようでした。
管理費値上げの合意形成は並大抵ではなく、Aさんは困り果てた様子でしたが、ある方法でひとまずの危機を乗り切ったそうです。
まず、クリスマス会は住民参加型の手作りのイベントに切り替え、子どもたちへのプレゼントも豪華賞品の抽選会も中止。
キッチンカーの代わりに近隣商店の協力を得て、お酒と各地の名産品の試食ブースを設け、それ以外の食べ物は居住者からの持ち込みにして50万円ほど浮かせたそうです。さらに出店の協賛金として4万8000円の儲けも出たといいます。
開催前には居住者から『理事長は、口は出すが金は出さない』、『お金をかけるべきところにお金を使え』といった批判がありましたが、イベント終了後には『ありがとうございました』、『とても楽しいクリスマスイベントなりました』多くの人に声を掛けられたそうです。
これにより、管理費の使い道にマンションの人たち関心を持ってもらい、管理組合運営の意識向上につながればいいとAさんは嬉しそうに話していました。
じつは修繕積立金が計画に対して十分に備えられている分譲マンションは、約4割のみということが国土交通省の最近の調査で分かっています。
マンション購入は多くの人にとって、数十年わたってローン返済に追われる「大きな買い物」です。加えて、購入前の頭金、購入後は引っ越し代金や家具代、不動産取得税といった一時的に支払うお金はもちろん、その後も固定資産税、管理費、修繕積立金、駐車場が併設されていればその使用料も支払い続けなければいけません。
そのため、デベロッパーは、新築マンションを “買いやすく”するために、購入時に修繕積立金の月額を低く設定してランニングコストかからないように”見せかけて”います。居住者がマンション購入後に「こんな積立金では、将来満足な大規模修繕工事ができない』と不足に気がつき、管理組合はその値上げの検討を始めることが多いのが現実です。
築10年にも満たないマンションの修繕積立金は購入時からそんなに変わらないだろう、というのが一般的な認識かもしれませんが、じつは購入してから3年しか経っていないのに、月額費用が2倍、3倍にまで膨れ上がったという苦情も国土交通省に多く寄せられています。
新築のマンションの販売時には、一住戸あたり50万円~60万円の一時金を支払いますが、最初の大規模修繕工事は予防保全工事なので、安価でもなんとかしのぐことができます。
ところが、それ以降はインターフォンのリニューアル工事、エレベーター、消防設備など、さまざまな計画修繕を行うため、結局は資金が不足する状態に陥ります。
仮に30歳で新築のマンションを購入すると25年後には55歳。子どもの進学にかかるお金や、自身の老後の備えのことを考えると、財布の紐が固くなり修繕積立金の値上げの合意形成は決して簡単ではありません。
例えば、築年数25年超のタワーマンションでは、修繕積立金が平米単価70円と、今では考えられないほどの安い金額を設定したディベロッパーの「販売戦略」にまんまとのせられた居住者が出し渋りをするケースがありました。
修繕積立金の改訂が何度も管理会社から提案され、結局は20年以上も放置され続けた結果、いよいよ値上げせざるを得ない状態になっても議論は空中分解。資産価値を守る理事会と、永住を目的とする住民との間で意見は真っ二つに吾、結局は話がまとまらずに保留のまま放置される状況に陥っています。
今後こういったマンションはさらに増えるでしょう。十分な修繕ができなければ、倒壊や破損、また漏洩事故のリスクは大変危険なのは間違いありません。一方、インフレが進む今、蓄えが減る一方の家計に直結する値上がりにやはり二の足を踏んでしまう住民がいるのも理解はできます。
しかしここで言いたいのは、いずれにしても、放置しつづければ資産価値は下がり、そういったマンションが多く溢れれば、その町全体が荒れてゴースト化してしまうのは目に見えています。
そうならないためにも、“見せかけ”だけの甘い汁には十分注意が必要で、そういった意味でも、管理組合の普段からの地道な努力を『アリとキリギリス』の物語から学ぶものがありました。
…つづく<都内の高級タワマンを“私物化”する「女理事長」の理不尽な要求…住民の意見は無視、あまりの圧に「何も言えない」>でも、マンション管理に関するトラブル事例を明かします。
都内の高級タワマンを“私物化”する「女理事長」の理不尽な要求…住民の意見は無視、あまりの圧に「何も言えない」

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