逃げ場のない船の上で…30代の元自衛官が受けた“パワハラ指導”の内容

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自衛隊の離職率は極めて高い。研修終了後10年以内に50%程度が辞め、定年退職まで残るのは、同期のうち4割程度ともいわれている。私たち国民を守ってくれるはずの組織が、なぜそんな状況になってしまうのだろうか。
◆30代元自衛隊幹部が受けた悲惨なパワハラ。船の上は逃げ場なし
元陸上自衛官の五ノ井里奈さんの性被害告発により、自衛隊内ではハラスメントの実態を調べるため、5年ぶりに約30万人の全隊員を対象に「特別防衛監察」を行うことが決まった。
裏を返せば、その間は大小含めたハラスメントを「本格的に調査していなかった」ということになる。30代の元海上自衛隊幹部の佐山さん(仮名・男性)が、現役時代に見てきた、または受けてきたハラスメントについて答えてくれた。
「私がいた海上自衛隊は仕事場が『海』ということで、他のところよりパワハラが多かったかもしれません。もし、会社で嫌がらせがあっても、外に出れば多少なりともリセットできると思うんです。ただここでは、一度訓練に出れば数か月は船上生活。逃げ場がないんです。結果的に何が起こるかというと、うつで休職、退職するか、最悪自殺したケースも聞いています」
◆コンパスで手の甲を刺された
佐山さんも、度を越したパワハラを受けた被害者でもある。教習中に、“考えられない指導”をされたことがあった。
「測図を行うときにコンパスを使うのですが、関係のない業務でミスをしたとき、それで手の甲を刺されたことがあります。もちろん先端の針で。血が出ていましたが、自分で処理。証拠を押さえようにもスマホは持ち込み禁止ですし、そもそも沖に出てしまったら電波も通じません」
◆不都合なことは“事故”だと隠蔽できてしまうシステム
その他、上司・同僚に無視される、人格否定発言、尻を蹴られるなどは「日常茶飯事だった」と語る佐山さん。もし、そこから不測の事態が起こった場合、取り締まる組織はあるのだろうか。
「艦内で起こったことは、警察の代わりに自衛官による組織『警務隊』が対応するんです。なので、不都合なことはすべて“事故”だと隠蔽できてしまう。だからこそ、この特別防衛監察のタイミングで膿を全部出しきったほうが、今後のためになると思っています」
階級社会の自衛隊で実効性のある対策を打ち出せるのか、いま試されている。
取材・文/東田俊介

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