令和の子どもたちが「長渕剛」や「チャゲアス」を熱唱する意外な理由 「古い曲の方がカラオケで歌いやすいんです」

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年始に知人の親戚一族の集まりに参加させてもらった。今年で4年連続となるが、この会では、午後になるとカラオケ大会を開始し、子ども達が歌う場合は、大人が「おひねり」をあげる習慣がある。歌えば歌うほどお金がもらえるだけに子ども達は頑張ってマイクを握るのだが、途中から不思議な気持ちになっていった。
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参加者は小学4年生(2014年生まれ)から高校2年生(2007年生まれ)なのだが、彼らの歌う曲が、現在51歳の自分にとってなじみのある曲だらけだったのである。歌手で言えば長渕剛、サザンオールスターズ、class(夏の日の1993)、THE虎舞竜、CHAGE and ASKAなど。一体なぜこのような現象が起きているのか。
人間は34歳を過ぎると新しい歌を聴かなくなる、という説もあるが、私も御多分に漏れず、その手の人間である。いや、34歳どころではないかもしれない。歌自体は知っているものの、CDはこの30年間に一枚も買っていないし、音楽ライブも知り合いのバンドが登場する時以外は参加しない。
だから、「あいみょん」や「NiziU」「米津玄師」というメジャーな存在の歌手の歌すら一曲も知らない。昨年末のNHK紅白歌合戦の「前半」に登場した21組のうち、名前を聞いたことがあるのは8組だけだった。天童よしみ、櫻坂46、山内惠介、乃木坂46、純烈、水森かおり、aiko、郷ひろみである。しかも、彼らの曲で知っているのは天童よしみののど飴のCMソングのサビ部分、aikoの「カブトムシ」、郷ひろみの1980年代の曲だけである。
こうした「音楽音痴」「音楽世代間断絶」ともいうべき中年になり果てたわけだが、子ども達は我々にとって耳馴染みのある歌を歌う。2014年生まれの少年がのっけから歌ったのがGReeeeNの「キセキ」である。えっ? この歌ってTBSドラマ「ROOKIES」の主題歌で、発売は2008年。まだキミ生まれてないのにいきなりコレ来るの? と思ったのだが、彼らが歌う曲歌う曲、聞いたことがあるのだ。
さらには途中、粉雪が舞い始めたら突然レミオロメンの「粉雪」(2005年)をセットする。一体どこに曲の引き出しがあるのか分からない状態だったが、「無理して歌ってない? もっと馴染みのある曲を歌えば?」と聞くと、これらが馴染み深い曲なのだという。
というのも、小さい頃から親や親戚とカラオケをすることが多く、自然と(彼らにとっての)懐メロを聴く習慣があったというのだ。だから現在の40~55歳ぐらいの大人が歌うJ-POPを歌うことに抵抗感がないのだという。ただし、この日は松田聖子や河合奈保子、中森明菜、松本伊代といった1980年代アイドルの曲は登場しなかったし、AKBグループもモーニング娘。もなかった。だが、1990年代のZARDは登場した。いまいち基準は分からないのだが、「アイドル=子どもっぽい」という彼らなりのセンスがあるのかもしれない。
古い歌を知っていることについて振り返ってみたが、私が小学生の時、1945年生まれの父親がカーステレオに入れていたカセットテープは五輪真弓とアリスだった。その2組の歌は知らず知らずのうちに覚えるようになっていったのと同じことかもしれない。そして、彼らが古い歌を歌う理由を聞いたら、こう分析をしてみせた。
「おじさんたちの好きな曲ってカラオケが今よりもずっと流行っていた時の曲だから、歌いやすく作られていると思います。新しい歌はもっとメロディが難しかったり、ヒップホップ調だったり難しいので、僕は古い歌の方が歌いやすいです。ただ、新しい歌も聞きます。歌わないだけです」
カラオケのDAMが1月5日に発表したカラオケの週間ランキングでは4位に「サウダージ」(ポルノグラフィティ・2001)、6位に「残酷な天使のテーゼ」(高橋洋子・1995)、10位に「小さな恋のうた」(MONGOL800・2001)が入った。トップ20でも14位は「白い恋人達」(桑田佳祐・2001)、16位に「世界中の誰よりきっと」(中山美穂&WANDS・1992)、19位に「チェリー」(スピッツ・1996)と、中高年世代にお馴染みの曲が入った。
ゲームのダウンロードランキングでは古いゲームがこんな上位に入ることはあまりないものの、歌の場合であれば、古い歌でもランクインする。正直、21世紀も四半世紀を迎えたところで、1980年代や1990年代の曲を子ども達が歌う日が来るとは思ってもいなかったのである。若き世代が長渕やサザンを歌っている現状があるが、彼らの名曲は長きにわたって歌い継がれていくことであろう。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。
デイリー新潮編集部

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