「鉄筋は切断され、地下には水たまりが…」開かずの間となった「東急不動産の高級マンション」で住民らを襲った「悪夢の光景」

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東京都・世田谷。
日本屈指の高級住宅街と知られるこの場所で今、開かずの間となっているマンションがある。
その名は「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」(以下、フロレスタ)。地上8階建て、敷地面積は約1560平方メートルで部屋数は49戸にのぼる分譲マンションである。
竣工は1998年10月。事業主は東急不動産、設計・施工は東急建設、さらに販売代理は東急リバブル、建物管理を担うのは東急コミュニティーというオール東急グループの建造物だ。環状七号線沿いという立地も相まって多くの購入者で賑わった人気物件だった。
ではなぜ、そんな高級レジデンスは無人となってしまったのか。そこにあったのはフロレスタに隠されていた施工不良の数々、そして建物自体が違法建築という重大な問題だった――。
ことの発端は05年まで遡る。管理組合の理事長が語る。
「マンションの入居は1998年12月からスタートし、管理組合は1999年2月に設立しています。その後の2005年に姉歯建築事務所による一連の耐震偽装問題が発覚。いわゆる『姉歯事件』として社会問題となりました」
姉歯事件は、当時の姉歯設計事務所が建設時に必要な構造計画書を意図的に改ざんし、建物の耐震性を偽造。建築基準法を満たさない建造物が複数存在していることで世間を震撼させた出来事だ。
「一連の問題を受け、フロレスタの構造は大丈夫なのか不安を覚えました。そこで2005年12月に組合として販売元だった東急不動産に『このマンションは建築構造上、問題はないのでしょうか』と問い合わせを行いました」(前出・理事長)
翌年3月、東急不動産から管理組合宛て送られた書面には『構造の安全性につきましては国土交通省が現在確認検査機関に求めているチェック項目に準じて行いました。(中略)構造計算と構造図との断面諸元の照合、構造詳細図の確認を行いました』と記されている。
「つまり『構造書類を確認したが、問題はない』という内容でした。世の中も大騒ぎしていましたから、文面を読んで一安心しました」(前出・理事長)
平穏な毎日を取り戻した住民たち。しかし、2018年のある問題を皮切りに事態は一変する。マンション住民の一人が語る。
「新築当時から1階の住民たちの間で『床や部屋の壁にカビが発生する』との声が挙がっていました。しかし、原因が不明だったので、住民が東急グループの管理会社に連絡を入れた。担当者が部屋に来たのはいいものの、壁紙やボードを剥がして確認しても結論は分からずじまい。しかも管理会社は剥がした壁紙を修復もせずに帰って行ってしまった。1階の住民は長年、壁紙が剥がされたままの部屋で暮らしていました」
たまりかねた住民が管理組合に相談。そこで初めて事態を把握した組合側が東急不動産に再調査を依頼した。
「東急不動産の担当者に加え、施工担当だった東急建設の職員も現場に来ました。そこで地下ピットの検査を行うことになった。組合関係者も一緒に入ろうとマンション内で待機していたんですが、東急側は『安全かどうか確認が取れていない』と立ち入りを拒否。組合関係者も従うしかなかった。
マンションの建築面識だけでも900平方メートル以上ありますから、地下全体をくまなく調べるとなると少なくとも30分から1時間ほどかかるはず。でも職員たちが5分も経たずに上がってきた。驚いた組合関係者が『もう見終わったんですか?』と尋ねると『はい』と答える。『どこまで見たのか』との問いには曖昧な返事をするだけでした。つまり地下ピットの手前までしか確認していなかったんです」(前出・住民)
しかし、ここでも東急の担当者は驚きの検査結果を告げる。
「担当者は『確認すると地下には断熱材が張ってあったので大丈夫です』と説明していました。組合関係者も『断熱材とカビの発生と何の関係があるんですか』と言葉を返したが、とにかく『断熱材があるから大丈夫です』の一点張り。そのやり取りを続けていると、最終的に東急サイドから『でしたら組合で調べてください。問題があればこちらで対応します』との返事がありました」(前出・住民)
早速、組合は予算を編成し、民間の調査会社に依頼。そして2019年3月、外部の調査員ともに組合の担当者らが問題となるマンションの地下ピットへと足を踏み入れた。だが、そこに広がっていたのは住民らの想像を超える光景だった。実際に調査に同行した住民の一人が語る。
「設備の配管は整理されておらず、入り乱れていました。ガス管は紐でくくられているだけで、宙ぶらりんの状態でした。電気や水道管も同様です。通常、配管はフックで固定されるものですが、地下にはフック自体が取りつけられていなかった。当然、垂れ下がった状態の管はそれだけ水漏れやガス漏れが起きるリスクは生まれます。
くわえて建物の基礎を繋げるはずの地中梁には強引に配管を通そうと複数の穴が開けられていて、なかにある縦横の鉄筋がくりぬかれるように切断されていた。建物は鉄筋が繋がっていることで強度を保つ作りになっていますから、切れていればそれだけ建物の基礎が弱くなる。地震が来れば崩壊する可能性が高くなります」
さらに調査を進める住民たち。そこでようやくマンション1階を侵食するカビの原因が判明する。
「地下ピット内にはいくつもの地下水による水たまりができていて、それがカビを発生させる要因となっていました。調べてみると施工ミスで屋上に降った雨が地下ピットまで流れ込んでいました。元々、地下ピットは防水シートも被せていないので、水を入れる仕様にはなっていません。地下に溜まった雨水を排水しきれず、結果として1階の家はいつもカビていたんです」(前出・調査に同行した住民)
まさに施工不良の魔窟と化したフロレスタの地下ピット。目を覆うような景色に言葉を失うばかりの住民たちだったが、この惨状はこれから起こる悪夢の序章に過ぎなかった。
つづく中編記事『「耐震、全然ダメです」そして誰もいなくなった…世田谷・違法高級マンションで住民らを襲った「悲劇の数々」』では二転三転する東急グループの対応、耐震の要とされるスリット不足の発覚、そしてフロレスタが違法建築物へ姿を変えた一部始終を関係者の証言を交えてお伝えする。
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「耐震、全然ダメです」そして誰もいなくなった…世田谷・違法高級マンションで住民らを襲った「悲劇の数々」

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