年末年始を控え、各地で季節性インフルエンザの患者数が急増している。東京都はこれまでに「警報レベルに達した」と発表している。医療機関が正月休みのときに発症したらどうしたらいいのだろうか。専門家に聞くと――。
「今月22日までの1週間で、都内418か所の医療機関から報告された季節性インフルエンザの患者数は1万6727人に達しました。一医療機関あたりの平均は40.02人で、前週の17.36人から2倍以上に急増しています。東京都以外でも神奈川、千葉、埼玉、大阪、京都、愛知など各地で“インフルエンザ警報”が発令されています」(全国紙社会部記者)
インフルエンザ流行警報が発表されたのは新型コロナ禍前の2019年1月以来。およそ6年ぶりのことだという。
東京都八王子市の主婦・久仁子さん(仮名・30代)は12月24日にインフルエンザを発症した。
「まず夫(30代)に高熱が出て、インフルエンザと診断されました。その2日後に私も発熱し、家庭内感染しました」(久美子さん)
久仁子さんの主な症状は40度近い高熱とのどの痛み、そして激しい咳だった。夫は同じ症状に加え、腹痛などにも悩まされていた。
「インフルエンザ治療薬で熱はすぐに下がったのですが、夫は私よりも免疫が弱いのか、回復が遅く、完全に熱が下がったのはほぼ同じタイミングでした。私は今でものどの痛みが残っています……こんな激痛は久しぶりですし、今年のインフルエンザは重いような気がします」(前出の久仁子さん、以下「」も)
つばを飲み込むのもしんどい、という久仁子さん。加湿器のほか、室内に濡らしたタオルを何枚も干したり、大根にハチミツをかけて出た汁を飲むなど、民間療法も試してのどの痛みを和らげる工夫を続けている。
「ローストチキンは鳥粥に変わりました。ケーキも食べれず、散々のクリスマスでした。同時期に友達家族もインフルエンザにかかり、SNSのフォロワーさんも次々に感染していました。流行しているとわかり、うちだけじゃないんだって散々なクリスマスを過ごした仲間がいることに少しだけ安心しました(苦笑)」
久仁子さんの実家は電車で1時間ほどの隣県にあるが、年始の挨拶は控えるとのこと。
「いくら治ったとはいえ両親には基礎疾患があるため、万が一のことを考えてやめました。感染させて重症化するのが怖いので、妹とも相談し、正月が過ぎて、感染も落ち着いたころに挨拶に行くことにしました。両親も納得しています」
この流行のペースでいくと、年末年始から1月中旬にかけてが、感染のピークになるといわれている。インフルエンザとともに「最悪な年末年始」を迎える恐れはないのだろうか。
急激な感染拡大について、感染症に詳しいKARADA内科クリニックの田中雅之院長は次のように説明する。
「私どものクリニックにも連日、多くの患者さんがいらしています。今回のような急速な感染拡大はインフルエンザにおいてはそれほど珍しいことではありません。むしろ、現状はコロナ前の時代に舞い戻った感覚があります」
2020年以降の新型コロナ禍では感染予防のため、手洗い・うがいを徹底させ、接触機会も減少していた。飲食店などの営業規模縮小なども相まって、季節性インフルエンザの流行が抑えられていた。しかし、コロナ禍が落ち着き、以前の生活に戻りつつある現在、久しぶりにインフルエンザが猛威を振るい始めたというわけだ。
「インフルエンザの流行の要因はいろいろあります。冬の低温や乾燥などの気象状況が感染を拡大する大きな要因の一つといわれています。そのため、基本的には北半球では冬に、南半球のオーストラリアなどでは日本の夏に流行する感染症です。コロナ禍で停滞していた国際的な人の移動が活発になったことなども今年の感染症拡大に影響している可能性もあります。当然、会食など接触の機会が増えたことでもコロナ禍前の様相に戻ったことを診察を通じて感じています」(田中院長、以下「」も)
前出の久仁子さんが感じた「今年のインフルエンザの症状は例年に比べて重い」との印象について、田中院長はこう話す。
「インフルエンザ感染症による症状は基本的にとても辛いです。特に免疫力が低下していない方であっても、高熱や身体の倦怠感、関節痛、のどの痛みや咳、痰、鼻水が出るなどの症状が多様であり、強く出ます。今年のウイルスが特に強いわけではなく、この病気本来の特徴なのです」
感染拡大で薬不足も一部で指摘されているが、田中院長によると首都圏は「インフルエンザ治療薬は基本的に手に入る」とのこと。ただし市販の風邪薬である「総合感冒薬」や「咳止め」など不足しているものもある。
「咳止めは本当に少ないですね。ただ、いろいろな種類があるので、症状や状態にあわせてうまく使い分けています。例えば漢方薬の使用や、症状が長く続く人には吸入薬を切り替えるなどおこなっています」
インフルエンザの潜伏期間は個人差はあるが1日~3日ほど、平均すると2日程度と言われている。年末に感染した場合、帰省先で発症する可能性も十分にある。
帰省を取りやめるかどうかは状況次第だが、前出の久仁子さんのように「感染リスクを考慮して控える」判断も有効だ。
「発症後、一定の隔離が適切に実施できるのであれば帰省も選択肢の一つです。ただし、人混みを移動することで感染拡大のきっかけをつくってしまう。医学的には、発症後5日間、あるいは、解熱後2日間は感染の可能性を懸念します。帰省する際、感染を広げない対策も十分に考えてもらいたい」
もし、医療機関が休みの年始にインフルエンザを発症したらどうしたらいいのだろうか。後編記事『「普段健康な人なら、自力で治せる病気の一つ」…《インフルエンザ警報発令中!》医療機関が休みの新年でも慌てないための心構え』に続きます。
「普段健康な人なら、自力で治せる病気の一つ」…《インフルエンザ警報発令中!》医療機関が休みの新年でも慌てないための心構え