その行動が危険!冬に増える「ぎっくり腰」の要因

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寒くなると筆者の薬局で増えるのが腰痛の相談です(写真:C-geo/PIXTA)
寒くなると筆者の薬局で増えるのが、腰痛のご相談です。
「突然、痛くなった」「くしゃみをしたら、グキッとなった」「朝起きようとしたら、痛くて起きられなくなっていた」……といったお悩みが寄せられます。
年末年始の時期に特に多いのが、いわゆる「ぎっくり腰」です。ある日突然、腰に強い痛みが走る状態をいい、欧米では「魔女の一撃」とも呼ばれています。
日本整形外科学会によると、ぎっくり腰の原因は次のように説明されています。〈腰の中の動く部分(関節)や軟骨(椎間板)に許容以上の力がかかってけがしたような状態(捻挫、椎間板損傷)、腰を支える筋肉やすじ(腱、靱帯)などの柔らかい組織(軟部組織)の損傷などが多い〉。
ここにあるように、ぎっくり腰は関節や椎間板のケガ、損傷といえます。
ケガを治す際に大切なのは、安静です。痛みが出ないよう安静にしていれば自然治癒力が働き、治っていきます。何もしなければ、本来なら数日から数週間で治るものなのです。こじらせてしまうのは、多くの方が間違った対策、セルフケアをしているからだと思われます。
もちろん、ぎっくり腰だと思っていたら重大な病気が隠されている場合もあるので、尋常ではない痛みがある、痛み以外にしびれやまひがある、尿が出にくい、安静にしていても痛みが治まらないといった症状がある場合は、専門医にかかることが大切です。
漢方では、痛みが起こる理由は「気」や「血(けつ)」の巡りの悪さにあるとしています。
「不通則通(ふつうそくつう)」という言葉がありますが、これは「通ぜざればすなわち痛む」という意味で、何らかの理由で血行が悪くなると、その結果として痛みが起こることを表しています。
血流が悪くなる原因はいくつかありますが、大きな原因の1つに冷えがあります。寒くなると血管が収縮して血行が悪くなります。血行が悪くなると筋肉がこわばり、栄養が供給されず老廃物が滞ります。危険な状態であることを知らせるサインとして、痛みが出ます。
漢方の考え方ではまた、冬は「腎(じん)」がダメージを受けやすい季節としています。
ここでいう腎とは臓器の腎臓だけでなく、老化現象全般、骨、腰、生殖機能などに深い関わりを持つとしています。腎は冷えに弱いことから、冬にダメージを受けやすく、腰痛を引き起こしやすいと古来より考えられてきたのです。
冷えのほかに、寝不足や過労も腎にダメージを与え、腰痛の要因になります。忙しい年末に大掃除や庭の手入れなどを張り切ってしていたら、ぎっくり腰になってしまったという方も多いのです。
ぎっくり腰になる方の多くは「急になった」と思って戸惑っていますが、よくよく聞いてみると、痛くなる前からぎっくり腰になる下地を作ってしまっているケースがほとんどです。
その要因とは以下のようなものになります(※外部配信先ではイラストを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。
筆者作成
ぎっくり腰を予防するには、上記のような原因を作らなければよいわけです。具体的にみていきましょう。
まず、年末年始に張り切って大掃除をしたり、寒い中で窓拭きや庭の手入れをしたりする場合は要注意です。暖房がない環境に長い間いると、そのときは大丈夫なのですが、冷えや過労によって受けたダメージが翌日、あるいは数日後に出てきます。
寒い環境で作業する場合はしっかりと防寒して、長時間の作業はしないことをおすすめします。
過労もいけませんが、ゴロゴロしていることも腰痛の原因になります。年明けのぎっくり腰は、年末年始にあまり動かなかった人が、仕事始めに急に動き出すことで起こります。
これを防ぐには、お休みの時期もこまめに体を動かすことが大切です。
足が冷えると発症の原因になりますので、足を温めることを意識してほしいと思います。カイロや湯たんぽ、外出時には電熱ソックスなどを利用するのもよいでしょう。
先に書いた通り、ぎっくり腰はケガのようなものですから、基本は安静にしていればよくなっていきます。この自然治癒力を引き出して治っていく経過をスムーズにするのが、漢方や養生です。
「動かないでいると固まってしまう」と、治りきっていないのに痛みをがまんして無理に動かし、腰痛が悪化した方もいらっしゃいます。慢性腰痛では運動が推奨されていますが、ぎっくり腰のような急性腰痛では、痛いのをがまんして運動するのはダメで、治りを悪くします。
ぎっくり腰の対策には次のようなものがあります。
筆者作成
まず「安静」です。ぎっくり腰になったら、なるべく痛まない姿勢で安静にしましょう。横になったほうが楽なことが多いようです。抱き枕などを使うのもよいと思います。
安静にしているだけで痛みが和らぐことも少なくありません。トイレに行く、食事をするなど体を動かす場合は、痛みが出ない範囲で動いていきましょう。
こうした痛みは、3日程度で徐々によくなることが多いようです。
続いて「痛み止め」の使用です。
痛み止めの飲み薬を服用したり湿布を貼ったりすると、一時的に痛みが和らぎます。痛みで眠れない、痛みがストレスになっている場合は、上手に活用しましょう。
しかし、痛みが抑えられているだけで、治ったわけではありません。痛みが和らぐと、安静にしなければいけないのに動いてしまい、結果的に症状が悪化してしまうこともあります。
痛みは、安静にしなさいという体からのサインです。それを忘れず、痛み止めで痛みが和らいでいる間も安静にして、自然治癒力が働く状態にしてあげましょう。
3番目の「温める」については、ほとんどの腰痛では温めることが有効です。予防にも有効です。これらは費用もほとんどかからず、自分でできる効果的な対処法です。
筆者作成
ただし、温めるというケアでは、1つ注意点があります。
炎症が強い場合は、患部を温めることでかえって痛みや症状が悪化することがあります。この場合は痛みがある場所から離れたところを温めるようにしましょう。炎症がなくても温めて“嫌な感じがする”場合は、速やかに温めることを中止してください。
「お灸」は、腰から離れた足のツボである足三里(あしさんり)、湧泉(ゆうせん)、太谿(たいけい)がおすすめです。最近は簡単にできるお灸が市販されているので、それらを使うといいでしょう。
(イラスト:おおしま/PIXTA)
最後に「サラシやコルセットで固定する」ですが、痛みが強く、体を動かすのに不安がある場合、利用することをおすすめします。コルセットには痛みを改善する効果はあまりありませんが、患部の安静が保たれて、結果的に回復するのが早くなることが多いのです。
(平地 治美 : 薬剤師、鍼灸師。 和光鍼灸治療院・漢方薬局代表)

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