「ブスな顔のぬいぐるみは買わない」ディズニー限定グッズを買い占めるグループに密着 大量購入する驚愕の手法

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推しグッズに限定品、発売前から人気の新商品――需要が供給を上回ると見れば、品目を問わず大量に買い占めては高額で売り飛ばす。それが「転売ヤー」だ。現代社会の新たな病理となりつつある彼らは、いったいどれぐらいの利益を得ているのか。
【写真を見る】「たった1日で…!!」 転売ヤーがディズニーグッズ爆買いに使う「金額」
2023年4月、フリーライターの奥窪優木氏は5人の中国人転売ヤー集団、劉姐(リウジエ)、阿麗(アリー)、蒋偉(ジャンウェイ)〉と梓梓(ヅゥヅゥ)、小静(シャオジン)〈名前はすべて仮名〉の買い付けに同行した。舞台は浦安にあるディズニーシーだ。ディズニーで人気の「ダッフィー&フレンズ」をはじめ、複数のグッズが新発売となるその日、転売ヤーたちは各自4枚、計20枚のチケットを携えて入園。1日でいったい、どれほどの買い占めを、どのように行うのか。
奥窪氏の新刊『転売ヤー 闇の経済学』では、その“チームプレー”をリアルに描いている(引用は全て同書から)。【全2回(前編/後編)の前編】
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元来の野次馬根性が刺激された筆者は、転売ヤーが巣食う店内に入ってみたくなった。
劉姐に伝えたところ、次の時間帯に彼らのスタンバイパス(アプリで取得する、15分ごとに利用時間が区切られた予約枠)で入店させてもらえることになった。
先ほどガッレリーア・ディズニーというショップを「2回転」した4人は、さらに膨らんだビニールバッグを抱えて店から出てくる。次に取得している予約枠の時間までは30分ほどある。しかし荷物だけをベンチに置くと、蒋偉と小静は立ったままスマホをいじり始めた。早くも次の店のスタンバイパスを取ろうとしているのだ。
スタンバイパスの取得回数には制限がないが、チケット1枚につき同時に取得できるのは1枠のみ。取得したパスを使うか、「取得済みのスタンバイパスの利用開始時間以降(前回の取得から60分以上経っている必要あり)」か、「前回の取得から2時間後」のいずれか早い時間から、再度の取得が可能になる。偉と小静が取った1度目のスタンバイパスはすでに使用済みとなったため、再取得が可能なのだ。
閉園時間までに必要な買い付けを終えるには、できるだけ継ぎ目なくスタンバイパスを取得しなければならないため、彼女らにはなかなか休む暇がない。
それにしても、なぜ彼女たちは4人分ごとにスタンバイパスを取るのだろうか。同アプリでは、20人まではグループとして登録でき、スタンバイパスの取得も全員分を同じ予約枠で一度に取ることができるのだ。
この疑問をぶつけると、劉姐は一言こう言った。
「付いてきたらわかるよ」
3度目のスタンバイパスの利用開始時間となり、筆者と劉姐が梓梓と小静とともに店の入り口へと向かう。
店内は、思った以上にゆったりとしていた。小学校の教室2つ分ほどの広々とした空間に、客は30人ほどしかいない。外の人口密度と比べても半分以下だ。スタンバイ制で利用客の数をコントロールしているおかげだろうが、なるほどこれなら快適に買い物ができる。しかしやはり、外から覗き込んだ時に感じた通り、買い物客の大部分からはプロ臭がする。
彼女らはそれぞれ別の陳列台で“仕入れ”を始めた。筆者はまず劉姐に付いていった。手当たり次第に商品を買い物かごに入れていくのかと思いきや、一つ一つの商品に、汚れや不具合がないか、熱心に見極めてから買い物かごに入れる。ショップ側ですら、これほど慎重に検品をしていないのではないかと思えるほどだった。
「中国人の客はうるさいから。ちょっとでも汚れていたら返品しろって言ってくる。特に気をつけないといけないのは、ぬいぐるみ類。よく見ると顔が全部違ってて、たまにブスなのがいるから要注意」
商品を選別する手を止めることなく劉姐が言った。
一方、梓梓と小静は、さかんにスマホ画面を確認しながら、商品を選んでいる。後ろから覗き込むと、開いていたのは小紅書(シャオホンスゥ・中国のSNS)のアプリだった。
筆者の視線に気がついた小静が話す。
「小紅書のフォロワーから注文が入ってきている。それに従って商品を買い付けている」
買い付けのやり方の違いは、彼女らの販路の違いによるものだ。劉姐が説明する。
「うちは阿麗さんの物流会社でまとめて中国に送って在庫として保管しておいて、天猫(ティエンマオ)などのBtoCサイトに出品し、購入した顧客には国内配送で商品を届けている。ただ、限定品といっても人気がないものだと売れ残ってしまうので、事前にSNSなどでリサーチをした鉄板商品だけを買い付けるようにしている。梓梓さんと小静さんは、小紅書で入った予約に従って商品を買って、日本から購入者に直送している。過剰在庫になるリスクは低いけど、ひとりひとりの顧客に対応しないといけないから面倒くさいし、送料が割高になるぶん販売価格を抑えないと売れないので、利益は少なくなる」
劉姐の話を聞いていると、
「17万3900円になります」
という声が後ろから聞こえた。
振り向くと、やはり転売ヤーと見られる40代前後の3人の男がレジ台の前に立っており、台の上には大量のグッズが並んでいる。
3人のうちのひとりがこともなげにクレジットカードを差し出し、支払いを行う。同時に残り2人がレジ台のグッズをかき集め、持参したビニールバッグに詰め込んでいった。
「ここはこれで終わりやな」
「そやな、次はどこやったっけ?」
店を出ていく彼らからそんな会話が聞こえてきた。話しぶりからして、日本人もしくは日本語ネイティブであることは間違いなさそうだ。
劉姐が筆者を呼ぶ声が聞こえた。声の方に目をやると、彼女がレジ台の近くで手招きをしている。駆け寄ると、レジ台のスタッフは筆者の姿を確認してから、会計をはじめた。
購入個数制限のあるグッズを買う際には、客の人数を目視で確認しているようだ。劉姐がレジに差し出した買い物カゴの中には、2人分の会計としなければ買えない個数の限定グッズが含まれていた。
これが、彼女らが20人分のチケットを所持していながらも、同じ時間帯の予約枠を一気に取得しない理由だ。20人分のスタンバイパスを同じ予約枠で取ったとしても、購入時に人数確認をされると、最大でも、実際のメンバー数である5人分の個数しか買えなくなってしまうのだ。
梓梓と小静のような個人転売ヤーが集団で買い付けにくるのも、購入個数制限への対策が一番の理由だ。今回のように集団で買い付けに来て総力を上げてスタンバイパスを取り、取れたパスを互いに融通しあうほうが効率がいいのだ。
劉姐の会計金額は、10万円を少し超えていた。彼女は長財布から取り出したクレジットカード1枚で支払う。
レジ台のスタッフからクレジットカードを返却されると、劉姐はなぜか一緒に受け取ったレシートでカードを包むようにして、長財布とは別のカードケースに仕舞った。
「買い付けの時に一度使ったカードは、次使うまでに少し時間を空けるようにしている。同じお店で何度も高額決済していると、不正利用されていると判断されて、ロックされることがある。その度に電話でロック解除してもらうのは時間の無駄なので、買い付けには10枚くらいカードを持ってきている。日本のクレジットカード2枚と、中国の2枚。あとはぜんぶデビットカード。外国人はクレジットカードの審査が厳しいから」
梓梓と小静もそれぞれ6万円程度購入し、店の外へ。それも束の間、筆者と阿麗が入れ変わるかたちで、4人はまた店に入って行った。
ベンチで待機している蒋偉の元へ行くと、ノートパソコンを出して何やら作業をしていた。
「大学の卒業論文の下書きをしています。テーマは『電気自動車が生み出すビジネスチャンス』について」
彼は卒業後も日本に住み続けることを希望しているという。もともとは不動産業界への就職を考えていたこと、しかしすでに就職活動を中断したことなどを話してくれた。
「じゃあ卒業後どうするの?」
筆者の質問に、彼は即答した。
「転売やります。しばらくは劉姐さんの会社で働いて、資金が貯まったら独立します。転売から少しずつ会社を大きくして、いろいろなものを扱う貿易会社にしたい」
「そんなに長く転売で儲けられるかなぁ」
「世の中から転売は無くならないですよ。転売が良くないこととされている日本では逆に、ビジネスチャンスがいくらでもある。やりたがる人が少ないですから。もしディズニー転売が廃れても、日本はコンテンツ産業やファッション産業が盛んですし、限定品として販売される商品がなくならない限り、転売は儲かりますよ」
劉姐に窘められてばかりで頼りない印象だった蒋偉からの、予想外の反駁に筆者は少し狼狽えた。
その後も2人で雑談をしているうちに、4人の女性転売ヤーは店を2回転して帰ってきた。これでこの店での買い付けは終了だ。持参したビニールバッグは、どれももうこれ以上はほとんど何も入れられないほどに、パンパンにふくらんでいた。
***
この記事の後編【転売ヤーがディズニーランドの「使用済みのチケット」を1000円で買い取る驚愕の理由】では、ディズニーに「年間20億円」の売上をもたらす転売の実態について報じている。転売行為を助長させている加害者は誰なのか――。
※『転売ヤー 闇の経済学』より一部抜粋・再構成。
デイリー新潮編集部

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