軽井沢への「教育移住」が増加中…意外と安い、中古マンション3000万円から!東大卒不動産評論家「リモートワークならベストな選択肢」

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東大卒の不動産評論家・牧野知弘氏がいろいろな街の魅力を論じる大好評連載。最新回は軽井沢について語る。
日本経済新聞によると、軽井沢への転入者は長く1300人台で推移していたが、22年度は1800人を超えたという。 豊かな自然環境で暮らしたい人がコロナ下で増えたことに加え、子どもによりよい教育を受けさせるため移り住む教育移住の動きも加速しているというのだ。軽井沢の「今」について牧野氏が語るーー。
今回は長野県北佐久郡軽井沢町を紹介します。軽井沢は長野県の東信地方と呼ばれる地域の標高940mの高原にあり、夏の涼しさと景観の美しさから、明治時代にカナダ人宣教師であったアレクサンダー・クロフト・ショーと東京帝国大学の英文科講師だったディクソンなどによって紹介された日本を代表する避暑地です。現代でも多くの芸能人、文化人や政治家、企業経営者などが豪勢な別荘を構えます。多くの文学作品にも軽井沢は登場していて、堀辰雄の小説「風立ちぬ」や「菜穂子」「聖家族」の舞台であり、内田康夫の推理小説「軽井沢殺人事件」などでもおなじみです。
私自身、軽井沢は幼少のころから何度も訪れた親しみのある街です。なぜなら私の父親が勤めていた病院の別荘が旧軽井沢の真ん中にあって、毎年夏休みには家族で避暑に出かけていたからです。うっそうと生い茂った木立の中、いつもレンタサイクルに乗って、姉と兄のあとをついて走り回った記憶は今でも鮮明です。
別荘地としての評価がもともと高かったのに加えて、長野新幹線が開通すると、東京からわずか1時間強でアクセスできることも相まって、この街の人気はさらに高まりました。東京など首都圏の富裕層がこぞって別荘を購入、街の商店街である通称、軽井沢銀座には、夏になると多くの店が出店し、別荘族に加え観光客でごったがえすようになります。いっぽうでこの街は冬の寒さは格別で、水道管が凍るなど移住・定住するのにはハードルの高い街と言われてきました。別荘族の多くは季節の良い初夏から紅葉の美しい晩秋までのおもに週末しか滞在しないため、街がにぎわうのは1年間の中で半年程度といわれました。
ところが今、この街に変化が訪れています。コロナ禍を契機としたリモートワークの常態化です。働き方が多様化したビジネスパーソンにとって軽井沢居住が現実のものになってきたのです。
これまで軽井沢に住むのは、時間的な自由を持つ、アーティストやクリエイター、財を成した起業家やリタイアメント層に限られていました。ところがリモートワークの普及によって、多くのビジネスパーソンにこの街が住むための街としての選択肢に加えられることになったのです。
ではどうして軽井沢が定住する街になったのか具体的にみてみましょう。一般的に移住するには、年齢や世帯の状況によって優先される条件は異なりますが、おおむね以下の5つの条件が備わっていることが求められます。
①物件を含めた居住環境がよいこと
②仕事ができること
③商業、医療施設が整っていること
④公共施設が備わっていること
⑤教育水準が高いこと
軽井沢をこの条件に当てはめていきましょう。
①冬の寒さは別として、別荘などの居住用施設は豊富にあります。旧軽井沢近辺の別荘では中古価格でも数億円から10数億円もしてとても手が出ませんが、最近は西軽井沢ともいわれる追分エリアや隣りの御代田町にいけば、3000万円から4000万円の住宅やマンションを手に入れることができます。また賃貸マンションやアパートは数こそ少ないですが、御代田や佐久のほうに行けば10万円台でファミリー用の部屋を借りることができます。
②リモートワーク中心の仕事ができる人なら、軽井沢はベストです。東京に用事があるときは軽井沢駅から新幹線で1時間。今は軽井沢から毎日通勤する人も増えたと言います。そのせいか駅前の駐車場は通勤する人の車で常時満杯の状態。隣りの中軽井沢駅駐車場に車をおいて一駅電車に乗って軽井沢駅から新幹線に乗る人も多いと聞きます。
③商業施設は日常の買い物については中軽井沢から追分方面に行けばスーパー、ドラッグストアなど一般日用品の購入には不自由がありません。またお隣の佐久市には大型の医療施設や救急救命センターが充実しています。
④軽井沢町は比較的裕福な自治体であり施設は十分整っています。
⑤そして最近注目されるのが教育環境です。教育環境が整わないとファミリー層の移住は難しいですが、最近はこの「教育」を目的に移住する「教育移住」が軽井沢に住む人のキーワードになっています。というのもここ数年、軽井沢町にはユニークな教育方針を掲げた私立学校が続々とオープンしているのです。
例を挙げましょう。2014年にはUWC(United World College)系列のISAKジャパンが開校しています。生徒数は200名。約7割が世界80か国からやってきている全寮制の学校です。最近は既存のエリート校の教育では飽き足りず、早くから子供たちに国際感覚を身につけてもらおうとする親が多く、この学校の進学先も世界の一流大学の名が多く見られるようになりました。敷地は7000坪を超える広大なもので、浅間山の麓でのびのびと過ごせるのも魅力です。
2020年4月には、楽天創業メンバーのひとり本城慎之介氏らによる幼稚園から中学までの混在校「風越学園」が創設されました。この学校は学年やクラスによって教室を隔てずに、屋外教育を中心に独自のカリキュラムで授業をするもので、生徒数は294名。この学校に子供を入学させたい親が移住してくるケースが増えているそうです。先日軽井沢に出かけた際に学校に立ち寄ってみましたが、年齢に差のある子供たちがみんなで仲良く敷地内を走り回る姿が印象的でした。
また軽井沢町では、軽井沢中学校に併設する形で、2027年度に軽井沢オープンドアスクールを開校予定です。「学びの多様化学校」に「夜間中学」の機能を加えた全国でも珍しい公立校で、未就学者や不登校児、外国人などを対象としたプログラムを実践します。
このほか周辺エリアでは欧州の教育法「イエナプラン」を行う大日向小学校、佐久長聖学園が運営するエレメンタリースクール佐久、西軽井沢学園が開設したさやか星小学校など、都心部ではあまり見られないユニークな教育方針の学校が次々にオープンしており、関連した移住需要が盛り上がっているのです。
どうやら軽井沢は避暑地や観光地としてのイメージから教育を含めた新しい社会的レイヤーを兼ね備えた街に進化を遂げているようです。
「軽井沢に住む」ちょっとおしゃれなだけでなく、東京などの大都市には見られない教育が受けられ、大自然の中で思い切り健康的な毎日を過ごす新しいライフスタイルの実現ができそうです。
なんでもめちゃ高い軽井沢だけでない、ニュー軽井沢、住んでみてはいかがでしょうか。

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