「クリパの翌日に」死んだ愛猫の腸内にあった異物

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クリスマスパーティーの翌日に死んだ愛猫。死の真相は…(写真:Mills/PIXTA)
飼っている動物が病気になったら、動物病院に連れていきますよね。動物病院には外科、内科、眼科など、さまざまな専門領域の獣医師がいますが、獣医病理医という獣医師がいることを知っていますか?
この記事では、獣医病理医の中村進一氏がこれまでさまざまな動物の病気や死と向き合ってきた中で、印象的だったエピソードをご紹介します。
12月になりました。この時期、多くのご家庭ではクリスマス、大みそか、お正月と、年末年始の行事が続くことでしょう。
実家に帰省したり、離れて暮らしていた家族が一堂に会したりと、人や物があちこち移動し、生活はいつもと違って変則的になります。この時期、僕のような獣医病理医のもとには、解剖の依頼が殺到します。
遺体の多くは、一般のご家庭で飼われていたペットたち――そう、年末年始は思わぬ事故でペットが亡くなりやすい時期でもあるのですね。
飼い主さんが、この時期にペットにとって危険となりうることを事前に知っていれば、防げる死もあるでしょう。いくつかのエピソードを通じて、年末年始にペットに起こりやすい事故を見ていきましょう。
クリスマスパーティーの翌日に死んだネコ
クリスマスの翌日、3歳のメス猫の遺体が持ち込まれてきました。
飼い主さんが言うには、「仕事から帰宅すると亡くなっていた」とのこと。昨日まで元気だった愛猫を突然失って動揺しながらも、飼い主さんは「とにかく死因を知りたい」とおっしゃいます。
普通なら僕も仕事納めの時期ですが、病理解剖は時間との勝負。遺体が持ち込まれたからには、すぐに解剖を始めなくてはなりません。すると、ネコの腸内に細かく砕けた異物が見つかり、それが原因で腸閉塞を起こしていたことがわかりました。
飼い主さんに直近数日の状況を詳しくヒアリングすると、ネコが亡くなる前日に、友人家族を招いてクリスマスパーティーを開いたとのこと。その際、友人が子どもを連れてきたため、「騒音対策に、急きょ、床に連結マットを敷いた」という話でした。
さまざまな連結マット(写真:genzoh/PIXTA)
これはよくあるケースで、腸に詰まっていた異物の正体は、床に敷いた連結マットのかけらです。ネコが連結マットで遊んでいるうちにつなぎ目の凸部分がちぎれ、それを誤って飲み込んでしまっていたのです。
実は、子どものいるご家庭の騒音対策や、ネコの脚への負担軽減のため、よかれと思って飼い主さんが床に敷いた連結マットが原因で愛猫が亡くなる――このような悲しいケースを、僕はこれまでに何度も見てきました。
ネコを飼っているご家庭では、「連結マットはネコにとって危険なものだ」と認識しておいていただければと思います。つなぎ目には上からガムテープを貼っておくことで、誤飲のリスクを下げることはできます。しかし、見栄えが悪いですし、危険を完全にゼロにすることはできません。
また、クリスマスにはツリーの飾りやプレゼントの梱包材など、ひも状のゴミが多く出ます。これらのひもも、ネコはしばしば誤って飲み込んでしまうため、注意が必要です。
一度、ひもの端が口に入ると、ネコはずるずると最後まで飲み込んでしまい、腸閉塞で命を落とすことがあります。ネコの舌はザラザラしているので、口にしてしまった異物が奥のほうまでいってしまい、誤って飲み込んでしまうことが多いのです。
年末に急死した2羽のセキセイインコ
ペットのセキセイインコが2羽、大みそかの夜に突然死したケースです。
飼い主さんは、「なぜ急に死んでしまったのか知りたい」と、2羽の遺体を僕のところに持ってこられました。大みそかですが、やはり病理解剖は先送りできません。
お腹を開いて臓器を見ましたが、胃や腸には異常が見られません。
亡くなった当日の状況を詳しく聞くと、年末の大掃除や料理で家の中はごちゃごちゃとしていたとのこと。こういう場合、まず誤飲事故を疑いますが、胃や腸に異物が見つからなかったことから、何かを誤って飲み込んだわけではなさそうです。
後日、2羽の臓器を顕微鏡で詳しく調べたところ、肺にひどい損傷があるのがわかりました。ほぼ同時に死亡したとのことなので、感染症、もしくは呼吸に影響を及ぼす何らかの中毒を起こしたことが死因とも考えられました。
そこで、さらに飼い主さんに記憶を掘り下げてもらうと、「そういえば、おせち料理を作っていて鍋を焦がしてしまった」とおっしゃいます。このとき、使用していたのは「テフロン加工された鍋」だったと判明しました。これです。
テフロン加工の調理器具は、加熱しすぎると、コーティングに使われているフッ素樹脂から有毒ガスが発生することがあります。適正に使用していたら問題になることはありませんが、実はイヌでも死亡例が少数報告されており、特に鳥にとっては猛毒で致命的です。
鳥はエネルギーを消費して、活発に飛翔したり酸素が薄い上空を飛んだりするために、極めて効率の良い呼吸器官をもっています。その反面、有毒なガスにも弱いので、こういった中毒が起こりやすいのです。
このケースでは、鍋から発生したガスが肺を損傷させ、呼吸不全を引き起こしたことが死因だと考えられました。
テフロン加工の調理器具を使用する際は、空炊きしないよう気をつけること、鳥から十分に離れたところで使うこと、そして、換気を徹底することが重要です。
また、インコは好奇心が旺盛で何でも口にする習性がありますから、誤飲事故にも常に注意が必要です。
クリスマスシーズンには特に誤飲事故が増えます。過去にはクリスマスカードに入っていたボタン電池を誤飲し、鉛中毒で亡くなったインコを診たこともありました。
イブに死んだミニチュアダックスフント
12月24日の21時、業務を終えて帰宅しようとしたまさにそのとき、14歳のミニチュアダックスフントの遺体が持ち込まれました。クリスマスイブですが、この時点で朝帰りが決定です。
飼い主さんのお話によれば、夕方、仕事から帰宅すると、愛犬が亡くなっていたとのこと。前日の夜に家でクリスマスパーティーを開き、翌朝、ゴミをビニール袋に詰めて台所に置いたまま出勤したそうですが、帰宅してみると愛犬がゴミをあさった形跡があったそうです。
「もしかすると、何かを誤って食べて、それで死んでしまったのでは……」
飼い主さんはそう不安げにされていました。
イヌは食べ物を丸飲みすることがあります。飼いイヌが、おもちゃ、ボール、タオル、クッションなどを飲み込み、それらを消化管に詰まらせたり、食道、胃、腸などの粘膜を傷つけたりして、具合を悪くすることはよく起こります。
特に危険なのが、つまようじや竹串、尖った骨など。これらは、消化管に穴を開け、胸膜や肺、心臓、腹膜、肝臓などに出血や炎症を及ぼし、最悪、命を落とすこともあります。
このケースでも、前日のパーティーで出されたフライドチキンや串焼きの残りをあさって食べていたらしいとのことなので、消化管に何か病変がないかを意識しながら病理解剖を進めました。
ところが、口、喉、食道、胃、腸のどこを調べても、異物が詰まっていたり粘膜が傷ついていたりする様子はありません。胃の中には消化されかかった鳥の骨片が見つかりましたが、それが直接的な死因でないのは明らかでした。
そこで、さらに解剖を進めた結果、最終的に肝臓と肺に腫瘍を発見し、がんによって亡くなったということが判明しました。
飼い主さんへの事前の聞き取りで、病気やがんの兆候が出てこなかったので予想外の病変でしたが、改めてお話を聞いてみると、「そういえば、ここ数日なんとなく元気がないような気がしていました」とおっしゃいます。
愛犬が亡くなった悲しみが消えるわけではありませんが、「自分の不注意で死なせてしまったわけではない」とわかり、飼い主さんは少し安心されたようでした。
これは、がんで亡くなったというケースでしたが、過去に僕は、尖った鳥の骨や焼き鳥の竹串を飲み込んで命を落としたイヌを何度も見ています。
飼いイヌが誤って危険なものを飲み込まないよう、飼い主さんは気をつけてあげてくださいね。また、様子がおかしいと感じたら、すぐに動物病院に連れていくよう心がけてください。
様子がおかしくなる原因はさまざまですが、病気の場合、基本的に早い段階で治療を施せば、命が助かる可能性は高まります。
動物の死因を明らかにするための解剖、すなわち病理解剖は、時間との戦いです。動物の体は、死ぬとすぐに死後変化が始まり、本来の病変(病気によって組織などに起こる変化)が隠されたり、死後変化と病変との区別が難しくなったりします。
つまり、死んでから時間が経つほど、死因の特定は困難になっていきます。そのため、遺体が持ち込まれた際には、できるだけ早急に病理解剖を始めなくてはなりません。
これが僕のような獣医病理医のつらいところで、休日や夜間に何の前触れもなく遺体が持ち込まれ、暦も時間も関係なく病理解剖が始まるということがめずらしくありません。家族と季節の行事を過ごせないこともしばしば。妻と子どもたちには、いつも帰りが遅くなってしまってごめん、という気持ちでいっぱいです。
病理解剖を通じて読み取った死因をみなさんと広く共有できれば、避けられる死もたくさんあります。常々抱いているそういう思いが、僕を年末年始の解剖に向かわせています。
大切なペットが亡くなってしまうと、楽しいはずの年末年始が一転して悲しいものになってしまいます。動物たちにとって特に危険が多いこの時期、不慮の事故が起きないよう、飼い主のみなさんはペットたちの身の回りに十分に気を配ってあげてくださいね。
(中村 進一 : 獣医師、獣医病理学専門家)(大谷 智通 : サイエンスライター、書籍編集者)

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