「ムズい」「ハズい」は時代遅れ…若者言葉の恐るべき変化 盛衰激しく「謎い」も出現

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今や日常生活に欠かせないコミュニケーションツールとなっているSNS。LINEやXを何気に見ていると「キモい」「メンドい」「ムズい」「ハズい」などの若者言葉がたくさん現れる。大人世代からすると若者言葉は意味不明で独特のワールドを形成しており眉を顰めたくなるが、実は一定の規則性があるという。
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「キモい」「メンドい」「ムズい」「ハズい」はそれぞれ「気持ち悪い」「面倒くさい」「難しい」「恥ずかしい」の省略形でいち早くメッセージを伝えることに熱心な若者には手軽で便利な言葉だ。「キショ(くわる)い」「ムサ(くるし)い」なども同様だ。ところが最近はさらに変化が進み、「謎い」といった言い方も出現している。
『若者言葉の研究 SNS時代の言語変化』(九州大学出版会)を発表した宇都宮大学講師(現代日本語学)の堀尾佳以さんがこう指摘する。
「若者言葉の特徴として外来語に『い』をつけて形容詞化させる方法があります。古くは『ナウい』、最近だと『エモい』ですね。この、外来語につけるものを日本語の名詞にも応用したのが『謎い』かと思います。つまり、他の動詞化などと同様にルールに則った変化の一部です。≪外来語+い≫の応用が≪日本語の名詞+い≫となるわけです」
確かに中高年世代も「ナウい」という言葉を使った時期があった。英語の「NOW」に由来し、「現代的だ」「今風だ」「流行に乗っている」などを意味する俗語として1970年代後半に広告コピー隆盛の波に乗って大流行。1980年版の『現代用語の基礎知識』や「朝日新聞」の名物コラム「天声人語」(1980年12月30日付)にも取り上げられるほど人気を集めた。
堀尾さんは「エモい」などを“新しい形容詞”と呼んでこう解説する。
「日本語の形容詞はもう新しい単語を生み出すことがなく生産力を失っているという先行研究があります(※1)。しかし、現代の若者は既成の言葉に古くささ、おもしろみのなさ、力のなさを感じ、規範を破る形で新語を造り、新鮮さ、奇抜さ、おもしろさ、強さを出して新しい形容詞を造っているのではないでしょうか(※2)」
新しい形容詞の中には、「ウザい」という市民権を得た言葉もあり中高年世代も頻繁に口にするのではないだろうか。
「『うざったい』を縮めた『ウザい』は語源が方言であり、その方言が時間をかけて広がって東京に流入し、全国へ広がった、という経緯があり長期的な言語変化と呼べます。新しい形容詞とは従来の形容詞とは異なり、既存のルールに従わない活用を行うものや、従来と同じ活用を行ったにもかかわらずその意味するものが異なるもの、あるいは形容詞の造語法が異なるものを私は“新しい形容詞”と呼んでいます。それらは主に若者によって使用される『若者言葉』だと考えられます。『ヤバい』が典型的な事例であるように若者が日本語の規則性から自由になり新たな意味と用法で使っているのが若者言葉といえるでしょう」
ただ、こうした若者言葉は飽きられるのも速い。実際に都内の男子大学生に聞いてみた。
「『ムズい』は私が小学生の頃から定着しましたが、最近はだんだん聞かなくなった印象です。『ハズい』はギリギリ同年代でもしゃべる人はいますね。『謎い』も周りの年齢が上がるとともに全く聞かなくなりました。若者言葉というよりかは、小中学生などあまり言葉遊びに恥じらいがない層が中心層である気がします」
大流行した「ナウい」も80年前後の最盛期を過ぎると急速に陳腐化し廃れていった。今時「ナウい」などと口にすればすぐさま“オッサン認定”である。
「新しい形容詞の特徴は(1)省略により生まれた語彙、(2)外来語を派生させた語彙、(3)語幹として使用できる語彙・品詞の許容範囲を拡大があり(※3)、中でも『謎い』は遊び要素が大きいかと思います。『謎かった』など活用ができるので面白いのでしょう。若者言葉は小中学生というよりは女子高生がいまだに流行の中心にいると考えています。具体的な使用頻度については属する社会集団内の許容度、個人の考え方などによって変わりますが、Xが現在の使用状況を如実に物語っています。今後もどんどん新造語が発生してくるのが日本語の変化の最先端だと言って良いと思います」
まさに≪謎だらけ≫の若者言葉。それも日本語が元気である証(あかし)なのかもしれない。
〔出典〕(※1)井上史雄(1998年)『日本語ウォ ッチング』岩波新書(※2)米川明彦(1998年)『現代若者ことば考』丸善ライプラリー(※3)堀尾佳以(2007)「新しい形容詞」『比較社会文化研究』九州大学大学院比較社会文化研究科
デイリー新潮編集部

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