コロナ禍以降、生活スタイルの変化に伴って夫婦の時間が増えた結果、熟年離婚が相次いでいる。離婚の原因を紐解いてみると、夫婦関係のほんのささいな不満に根ざしていることも少なくない。
本連載では、離婚カウンセラーとしてこれまで約4万件もの離婚相談を受けてきた著者の新刊『なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか?』(岡野あつこ著)より一部抜粋・再編集して、夫婦関係におけるトラブル回避のためのノウハウをお届けする。
身近な人間関係に対するコミュニケーション技術は夫婦間の問題のみならず、職場や家庭、子どもや介護にまつわる悩みの解決にも役立つはずだ。
『なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか?』 連載第23回
『「服がダサい」「ダメ亭主」「役立たず」…妻からの日常的な中傷やマウントに耐え続けた夫がある日突然起こした「大爆発」』より続く
こんな相談を受けたこともあります。
相談者は40代の女性。夫は50代の研究職で、地方に単身赴任中。妻は東京に残って働いています。
あるとき、妻は仕事で夫の単身赴任先の都市へ出張することになりました。ついでに夫の家に寄り、ヘッドホンを借りるつもりで、「これ、持って帰るね」と言ったそうです。
と、夫が「持って帰るじゃないだろう!」と、激怒したのです。
妻は夫の尋常ではないキレ方にショックを受けてしまいました。
夫の言い分としては「『持って帰るね』じゃなく、『もらうね』と言え」とのこと。
ヘッドホンは共有物ではなく「夫の持ち物」だから、借りるのかもらうのか、はっきりしろ、という主張でした。
でも妻にはいきなり激怒するようなことだと思えず、納得できません。ヘッドホンは後で返すつもりだったので、一旦借りるつもりで「持って帰るね」と言ったのは間違いではないと言います。
こういう場合は他に何か理由があるものです。別のことで溜めた不満が、ちょっとしたきっかけで噴き出してしまったのでしょう。
このときは、もともと夫婦関係がギクシャクしていたのもあり、妻が出張を兼ねて様子を見に単身赴任先にやってきたのです。
妻は「夫はいつもこういう人なんです」と言います。
いろいろといきさつを聞いてみると、夫は「自分と家族はそれぞれに別個の人格で、夫婦も互いに自立しているべき」という考え方にこだわりを持っていました。
妻が夫のヘッドホンを無造作に持って帰ろうとしたことを、「自分のパーソナルスペースにずけずけ踏み込んできやがった」と感じたようです。
神経質なようにも思えますが、要するに「持って帰るね」は、そもそもなかば自分の所有物のように見ているから出る言葉で、自分の大事なモノにそういう扱いはやめてほしい、という心理だったようです。
妻は「君のそういういい加減なところが嫌なんだ」と言われて、そこまで言われる筋合いは……とへこんでいました。
夫がなぜいきなりキレたのか。理解に苦しむ人もいるケースではあります。ただこれも、いかに神経質な人とはいえ、急に「大爆発」してしまったのは、おそらく普段からストレスを溜めていたせいでしょう。
夫は自分のポリシーをうまく言語化して論理的に説明できていません。だから周りの人たちは何に気をつければいいのか、いまいちわからないのです。
夫が日ごろから丁寧に自分のポリシーを伝えていれば、妻も「ヘッドホンは“地雷”かな」と勘づくことができたはずです。
夫婦関係のギクシャクも、この夫が話下手なことが原因のようでした。単身赴任中なので、毎日夜に夫婦でズームで話をしていたそうですが、いつも話が盛り上がらないのです。妻は黙ってあくびをしているし、夫も会話に集中していないのだそうです。
さて、どうすべきか?
妻には、夫の話下手をフォローして、「夫が食いつくような話題をがんばって探すように」とアドバイスしました。
妻がその通りにして「精神的自立」や夫のこだわりの趣味について調べたので、ズーム越しでも話が弾むようになり、それに伴って夫の「ブチギレ」も減ったそうです。
『「妻がアジフライを作ってくれないのは、自分のことを愛してない証拠」…40代夫婦に訪れる“夫婦関係の落とし穴”とは』へ続く
「妻がアジフライを作ってくれないのは、自分のことを愛してない証拠」…40代夫婦に訪れる“夫婦関係の落とし穴”とは