【鉄道会社は辞めるな君】現役鉄道マンが明かす、電車を遅延させる「大迷惑な人たち」…「駆け込み失敗で閉まるドアにカバンをはさむ」「恋人との別れを惜しんでホームを爆走」

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通勤ラッシュの時間帯、満員電車にも関わらず、そこへさらに遅延が発生するとひどく憂鬱になる。実は、この遅延を引き起こしているのは、乗客同士の「しょうもないトラブル」なのだという。
前回記事〈通勤ラッシュ時に列車遅延を引き起こす《JTCおじさん》同士のしょうもないトラブル…「俺をヒジで押しただろ!」「証拠は?」朝の満員電車で大喧嘩〉では、現役鉄道マンである著者が実情を語っている。
本記事では、カップルによる迷惑行為、そして人身事故に次ぐ遅延原因とされている「駆け込み乗車」について解説する。
もうひとつ、“バカップル”もしょうもない遅延の原因になり得る。ドアが閉まっても別れを惜しんで電車からなかなか離れないのだ。
かつて私が車掌をしていたときもこんな出来事があった。
ホーム上の乗降が終了したのを確認して、私は閉扉操作を行おうとした。しかし、車両の中ほどに電車から離れていない男性を現認する。
「ドアが閉まります。電車から離れてください」
ホームへ案内放送をするが、男性は一向に離れようとしない。その後も放送を繰り返したが、一向に離れる気配がない。どうやら車両の扉近くに彼女が乗っているようだ。カップル同士、二人だけの世界に入りこんでしまったのだろう。
あまりにも離れないため、かなり強い口調で具体的に注意した。
「電車の中ほどで青色の上着を着ている男性の方、お下がりください!」
この名指しの案内放送でようやく自分のことだと気づき、男性は車両から離れた。閉扉操作を行い、ドアが閉まった後に安全確認。運転士に車内ブザー合図を送ると電車が動き出す。
すると、先ほどの男性も電車の進行方向に向かってホーム上を突然走り出した。しかも車両のすぐ脇だ。
–まずい、引きずられてる!
まさか衣服の一部がドアに挟まってしまったのか。私は乗務員室内に設置してある車掌非常スイッチを操作し、電車を緊急停止させた。
完全な停車を確認すると、無線で司令所へ応援要請。私はすぐさま男性のもとに急行した。
「お客様、お怪我はございませんか?」
男性はポカンとしている。「え、何かあったんですか?」と逆に質問をしてきた。
「電車が動き出してから進行方向に向かって走り出したので、引きずられているのかと思ったんですよ。どうして走り出したんですか?」
実際、パーカーの紐などがドアに挟まって、乗客がホーム上で引きずられるといったケースは少ないながら存在する。動き出した電車の進行方向に向かって黄色線の外側をダッシュされると、車掌は最悪のケースを想定してしまうのだ。
男性は照れ笑いを浮かべながら「彼女と久しぶりに会ったので感極まって追いかけちゃいました」と答える。しかし、次の瞬間には笑みが消えていた。
「あなたが動いている車両近くを走り出したので、緊急停止させました。念のため事情を話してもらう必要があります。これから応援にくる駅係員にきちんと説明してもらっていいですか?」
最終的に、この男性のせいで運行に10分ほどの遅れが生じてしまった。列車を緊急停止させた場合、必ず安全確認を行わなければいけない。その間は当然列車が運休になるので、大幅な遅延に繋がる場合もある。
一昔前のドラマや漫画で描かれていたロマンティックな別れは、他の乗客にとっては大迷惑だ。絶対にやめていただきたい。
だが、乗客や鉄道マンにとっての一番の迷惑行為は他にある。「駆け込み乗車」だ。
実は、この行為は人身事故に次いで、列車遅延を引き起こしている。なぜかダイヤが遅れている場合、たいてい駆け込み乗車が原因だ。
電車を利用している乗客なら誰でも一度はやってしまったことがあるかもしれないが、これは乗客側が思っている以上に相当危険な行為でもある。
先輩から聞いた恐ろしい話を一つ紹介したい。
先輩には、とても優秀なAさんという車掌の同期がいたそうだ。他の同期が小さなミスを重ねるなか、彼だけは常に完璧に業務をこなし、乗客から苦情をもらうこともなかった。
しかし、単独乗務を開始して数年が経った頃、大きなトラブルに見舞われる。
その日は大雨で非常に視界が悪く、電車のドアを閉扉するにも、細心の注意が要求されるようなずいぶん危険な状況だったという。当然、見通しの悪い駅の発着には、いつも以上に気をつけなければいけない。
急カーブ状になっているX駅も、そんな見通しの悪さで有名な難所の一つだった。優秀なAさんでさえ、この日のX駅の状況には相当な不安を抱いていたという。雨の日は乗降に時間がかかる。さらに大雨で乗客の動きも確認しづらい。X駅は特殊な形状なのでなおさらだ。
ただ、こうした見通しの悪い駅には通常ITV(車掌用監視モニター)が設置してある。車掌であるAさんも、目視とITVのダブルチェックの上で発車前の閉扉操作を行った。すべての乗降が無事に終わったはず、だった。
ところが、ドアの一つでとんでもないことが起こってしまう。ドアが閉まり切る直前、駆け込み乗車に失敗した60代後半の高齢男性が、持っていた傘を咄嗟に挟んだのだ。
通常、ドアに手荷物が挟まった場合、ドアのセンサーが作動して列車が発車できない仕組みになっている。しかし、傘の先やカバンなど細身の手荷物はそのセンサーが作動せず、そのまま列車が発車してしまうケースがある。
このとき起こったのは、まさにそれだ。男性の傘の先がドアに挟まってしまい、抜こうとしても抜けない。一方、車掌は悪天候のためにそのような状況が起こっていることに気づかず、発射を意味する車内ブザー合図を運転士に送ってしまった。
咄嗟の出来事に気が動転してしまったのだろう。傘から手を離さなかった男性はそのまま転び、ホーム上を10mほど引きずられてしまったという。ただ幸いなことに、次の電車を待っていた乗客がいちはやく気づき「列車非常停止ボタン」を押下。なんとか死亡事故にはならずに済んだ。
車掌であるAさんが現場に駆けつけたとき、男性は激痛のためにうずくまっていたようだ。為す術もなく、駅係員や無線で司令所へ状況説明をすることしかできなかったと聞いている。
結局、この高齢男性の救護活動で列車は午前中の時点で60分ほど遅延し、その日のダイヤは夕方ごろまで戻ることがなかった。多くの乗客のスケジュールに影響が生じたことになる。
さらに、この無理な駆け込み乗車は、他の乗客に迷惑をかけるだけでなく、担当車掌であるAさんの人生まで大きく変えてしまった。
このような大きな事故を起こした車掌は、数か月ほど通常業務から外されたのち、事情聴取の対象になる。それはAさんも同様だった。そして、ドアに傘を挟んだ乗客を発見できず、運転士に車内ブザー合図を送ってしまったことが乗務員として不適格と判断され、職種転換という名目でグループ会社へ出向させられてしまったという。
確かにAさんにも落ち度はあるが、そもそも論として駆け込み乗車をせずに次の電車を待っていたら高齢男性が怪我をすることはなかった。Aさんも望まない出向をする必要もなかっただろう。
このケースではホーム上で電車を待つ他の乗客に被害はなかったが、ドアに挟まったままの手荷物が当たって怪我を負うこともある。
自身や他人の命をおびやかし、運行ダイヤ、そして車掌のキャリアまで狂わせる。駆け込み乗車とはそれほどリスクのある行為だということを肝に銘じていただきたい。
「駆け込み乗車は危険ですのでおやめください」と冷静にアナウンスで注意する車掌もいるが、心のなかでは「危ないから本当にやめろ」と相当怒っている。
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