2023年12月3日、東武練馬駅付近の踏切で東京都板橋区在住の高野修さん(当時56)が自殺に見せかけられて殺害された事件。高野さんを線路に立ち入らせ電車と衝突させて殺害したなどとして、警視庁は殺人と監禁の容疑で塗装会社社長の佐々木学容疑者(39)を逮捕した。逮捕にいたるまで1年以上かかったが、佐々木容疑者は今年5月集英社オンラインの取材に応じていた。その際、高野さんにふるっていた日常的な暴力について「更生させるために本人の希望で体罰を与えた」「悪ふざけでその様子を撮影していた」などとあきれた言い訳を繰り返していた。
【直撃】「高野さんが自ら罰を望んでいた」と記者の直撃取材に答える佐々木容疑者
「俺は高野に真人間になってもらいたくてずっと目をかけてきた。その様子を見て従業員は俺を“宣教師”って言うくらいでした」
真偽は定かでないが、「高野さんの万引きや置き引きなどの盗み癖を正そうとこの10年間寄り添い続けた」と佐々木容疑者は弁明する。その過程で時折、手が出たこともあったという。
「口で言っても高野の盗み癖やダメなところは絶対なおらないから、手が出たこともあった。とはいえ、何発か平手でひっぱたく程度でボコボコにするとかそんなことはなかった。警察はそれを日常的に俺や従業員が高野に暴力を振るっていたと思って疑っているんです。
だいたい本当に嫌なら10年間も俺のところで働かないで飛べばよかったでしょう。現に仕事が嫌でいなくなることはしょっちゅうありましたが、向こうから戻ってきていたんですよ。むしろ仲良かったんですから」
警察は高野さんがプロレス技をかけられたり、日常的に暴力を振るわれたことで“洗脳状態”にあったとみている。佐々木容疑者は「暴力は教育だった」と言いたいらしい。
12月3日の踏切での事件について、佐々木容疑者は(今年5月の時点で)昨年12月と今年1月に任意での取り調べを2回受けていた。佐々木容疑者は『別に俺も従業員も逃げも隠れもしない』と聴取を担当した刑事に言い放ったという。
「何もやってないのになぜか俺らが疑われている。たぶんだけど12月2日に寮に行った時に2、3発引っぱたいたのが司法解剖で“殴られた傷があるから”とかで疑い始めたんだと思います。
刑事が最初来た時は『高野さんが亡くなったのはご存知ですか?』って尋ねてきた。他の容疑者の写真を見せられたりとかもないし、聞いてくる内容から俺らが日常的に暴力を振るっていたと疑っているのがわかりました。まあ、疑っているのは俺らのことだけだと思いますよ。ほんといい迷惑ですね」
佐々木容疑者からは、高野さんを殴ったことについて反省の弁はなかった。
再度、高野さんが事件に巻き込まれる可能性があったかどうか、なぜ亡くなってしまったのかについて水を向けると、『色々な人から恨まれていたけど実際に何があったのかは俺らは本当に何も知らない。プライベートなことは全くわからない』と繰り返した。
ではなぜ警察は執拗に佐々木容疑者らを疑っていたのだろうか。
「おそらくですが、高野が亡くなる4ヵ月前の動画が問題視されているのかもしれない。俺は家に2回ガサが入ってますから。2回も来るなんて異例でしょ。その時にPCと携帯は押収されていてそれらはまだ戻ってきていない。
ただ、1月以降調べもないしいまだ逮捕だってない。携帯の中に入っていたのは高野に対する暴力行為ととれる動画です。戒めというか、よく仕事とかをサボるのでそんな時にある罰を与えていました。でも、これは高野が自ら申し出た罰です」
高野さんは現場の足場などに寝転んでタバコを吸うことがあり、火事になったら危ないと再三注意をされていた。また、仕事のミスを後輩に押し付けることなども多々あり、高野さんは佐々木容疑者に「自らそういう時には罰を与えてほしいと言ってきた」と語ったという。
「俺が言い出したとかではなくて本人が言い出したんだ。もし何か仕事で失敗した時はケツの穴に棒を突っ込んでほしいって。俺はやるの嫌だから他の従業員がやるんだけど、棒というか現場で使う蛇腹みたいなのがあってね。それをケツの穴に突っ込むんだが、最初は罰になるならって思っていたんだ。
けど、よくよく見てみると嫌がっているようには見えないって気付いた。高野本人もガールズバーとか行っていたこともあるし、同性が好きとかそういうことではないと思うんだけど、どうも嫌がっているようには見えなかった。その動画を警察が見て、常習的に暴力とかイジメがあるんじゃないかって思ったんだと思う」
従業員は高野さんを含めて全部で4人いたと思われる。高野さんが罰を受けているのを詫びることもなく「皆で“悪ふざけ”して撮影していた」と佐々木容疑者は話した。
他にも高野さんが注意される際に佐々木容疑者が叩いているところの動画が携帯内には保存されていたという。佐々木容疑者は高野さんについてこうも語っていた。
「どっかで俺にならまた許してもらえるとか甘えていたのかもしれない。高野は過去に結婚して子どもがいるという嘘をついて会社から手当を騙し取っていたこともあるし、取引先の社長に渡すように言伝して渡したお金を使い込んでしまったこともあった。
ダメなやつなんだよ。妹がいるみたいだけどさ、本人は身寄りがない、天涯孤独だって言っていた。高野にはもし何かに悩んでいたとしても相談できるような人もいなかったと思う」
帰り際、記者に向かって佐々木容疑者は「高野なんて記事にするような人間じゃない。取材するだけ無駄ですよ。俺、弁護士もつけてるんですがこんなもん捕まるわけがない、ほっとけって言われています」と軽口を叩いていた。
高野さんへの暴力は“更生”のためだったと主張していた自称“宣教師”は、事件から1年後、逮捕された。警察が任意同行を求めた際には暴れ回ったという。佐々木容疑者は今、何を思うのかー。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班