首都圏を中心にSNSの「闇バイト」を実行役にした強盗事件が相次いでいることを受け、捜査員が架空の人物になりすまして闇バイト募集に応じ、犯罪組織に接触する「仮装身分捜査」の導入が検討されていることが、政府関係者への取材でわかった。
国民の体感治安は著しく悪化しており、警察当局は新たな捜査手法を活用して、事件の抑止や犯罪組織の実態解明につなげたい考えだ。
一連の強盗事件は、今年8月以降、東京、千葉、埼玉など6都道県で少なくとも計23件発生、実行役のほか、被害金を分配する「資金管理役」らも逮捕され、逮捕者は計50人超に上る。
指示役らは、X(旧ツイッター)の「ホワイト案件」「高額報酬」といった募集に応じた人物に、運転免許証の画像を送らせた上で「家族にも危害を加える」と脅し、実行役として利用するなどしている。
警察当局は犯罪組織の内部に近づくため、架空の運転免許証などを示して、実際に応募する捜査手法を検討。本人確認書類の偽造は一般的に公文書偽造などの違法行為に当たるが、刑法は「法令または正当な業務による行為は、罰しない」と規定している。警察庁は関係省庁とも協議し、違法性は阻却されると判断したとみられる。
実際の捜査では、SNSの投稿に応じ、求められれば架空の本人確認書類を提示。犯罪には加担しない前提で実行役の募集役らと接触し、事件の未然防止や関係者の摘発につなげることを想定している。
国内では、違法薬物や銃器取引の捜査で、警察官が身分を明かさず組織と接触する手法が限定的に行われてきたが、身元を積極的に偽る任意捜査の導入は初めてになる。欧米の主要国では、重要な証拠収集の手段として行われている。
犯罪組織との接触は危険も伴うことから、警察庁が今後、課題を整理した上で運用指針を策定し、来年の実施に向けて準備を進める。
仮装身分捜査導入の必要性は、闇バイト対策を議論している自民党の提言にも盛り込まれる見通しだ。