中国や韓国からの便数が多い関西国際空港に外国人観光客が殺到し、大阪市内のホテル価格が異様に跳ね上がっている。低価格帯のホテルが密集するJR西日本と南海電鉄の新今宮駅南側に広がるあいりん地区(釜ヶ崎)界隈にも、その影響が及んでいる。旧簡易宿泊所の部屋が、平日は3000円ほどなのに週末は1万円前後に暴騰する状態だというのだ。
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【写真】衝撃の狭さ…「トイレ風呂無し5平米」ホテル、実際の部屋の中
あいりん地区は高度経済成長期に全国から労働者が集まるドヤ街として名をはせたが、バブル崩壊後の90年代以降は暴動や薬物売買、不法投棄などの治安問題が深刻化。ただ、近年は関空からの交通至便に加え、簡易宿泊所の経営者が外装や内部を大幅にリニューアルして、“オシャレ化”を図った。その結果、リーズナブルな宿泊地として外国人バックパッカーの人気を集めているのだ。
関西国際空港から大阪市内に向かうJRと南海の電車改札口はいつも外国人旅行客でごった返している。周囲から聞こえてくるのは圧倒的に中国語だ。彼らは100リットルほどの大型のキャリーケース2個を、両手で重そうに引きずっているのですぐ分かる。
新今宮駅を降りるとセンスの良い外観のホテルが何棟も聳えており壮観だ。ロビーは完全自動ドア、きらびやかなクリスマスツリー、コーヒー類が自由に飲めるフリードリンクコーナーに10人以上座れる広いテーブル。木目の内装にウォシュレット付きの便座を備えたトイレは高級ホテル並みだ。こうしたインバウンドに対応するリノベーションが評価されて、外国人観光客が世界中から集まるようになった。
新今宮駅北側の通天閣界隈を歩くと人ごみから英語、スペイン語、中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語などが聞こえてくる。日本人の方が少ないと感じるほど、海外からの旅行客で賑わっているのだ。その副作用として国内旅行客を苦しめているのが宿泊費の高騰という。
実際に旧簡易宿泊所のホテルに宿泊したトラベルライターがこう嘆く。
「外観は確かにオシャレにしていて、トイレと風呂は共用。共同浴場は至って清潔で文句はありません。若い中国人の男性宿泊客とエレベーターで一緒になりフロアのボタンを押してあげあたら『アリガトウ』とあいさつしてくれました。ただ、部屋は5平米と驚きの狭さで布団1組と小さな座机、隅には小型冷蔵庫があります。布団をひいたらスペースはほとんどないため、『ウサギ小屋』と呼ばれても仕方ない。旅行予約サイトを見ると平日は3000円ほどで泊まれる日もありますが、金曜夜は5000円、土曜夜になると1万円に跳ね上がります。5平米で風呂無し、トイレ無しの部屋が1万円なんて聞いたことがありません」
週末の部屋不足は深刻だ。室内にトイレと浴室がある大手ビジネスホテルチェーンの部屋も、平日1泊9000円前後が週末は2万3000円前後に値上がりするという。
「フロントのスタッフに聞くと、夏頃からこういう状態とか。1ドル140円から160円に向かう円安が再開した時期と重なります。新今宮から3駅目の大正駅に近い京セラドームでコンサートが開催されると、サラリーマン御用達のビジネスホテルはさらに値上がりして4万円にもなるのでもう絶望的。バックパッカーとして長らく国内や海外を旅行してきましたが、こんな異常な事態は初めてですね」(前出のトラベルライター)
関西国際空港の国際線運航状況を見ると、近距離アジアからのフライトは天津航空、中国東方航空、春秋航空、中国国際航空などの中華系24社が乗り入れており、路線は北京、天津、青島、上海、南京、香港、台北など60以上に及ぶ。
「上海から大阪までの直行便は2時間20分ほど。チケット代は旅行サイトで安いものを探すと1万2000円代から買えるので若い中国人も気楽に来られます。新今宮駅周辺は通天閣がそびえ、多くの串カツ店や安価な寿司屋、射的場などが軒を並べており、さながら昭和の時代にタイムスリップしたかのような感覚に襲われます。また、新今宮から南へ15分ほど歩くと、飛田新地の赤い照明と提灯の明かりがディープな雰囲気を醸し出しており、外国人観光客の興味をそそるようですね。難波まで歩いても30分。戎橋のグリコの広告をバックに記念写真の撮影に余念がありません」(同)
興味深いのは、星野リゾートが新今宮駅北側に最強スペックを誇る「OMO7(おもせぶん)大阪 by 星野リゾート」を2022年4月に開業したことで、地域イメージに変化が現れていること。実際、「OMO7」が宿泊客に提供している街歩き&飲食店案内プランにも、あいりん地区内のコースが存在しており観光資源として活用されているのだ。
「大阪市は西成特区構想のもと、新今宮エリアを中心とする街の活性化・イメージアップ政策を進めています。アフターコロナにおける観光客の呼び込みもその大きな柱。ただ、そのあおりで外国人観光客が増えすぎて、オーバーツーリズム状態になっています。安宿が集中する新今宮エリアも、週末になると高級ホテル並みの価格に跳ね上がり、金銭に余裕のない日本の若い旅行者を苦しめています。海外旅行客を呼び寄せる極端な円安が劇的に反転しない限り、日本人にとって“観光地獄”が続きそうです」(旅行代理店関係者)
泊まれる部屋がない――。そんな状況はいつ解消されるのか。
デイリー新潮編集部