「ママも私も殺されそうになった。なぜ何も悪くないのにこんな仕打ちを受けなければならなかったのか」。被告人や傍聴席から見えないよう、パーテーションで仕切られた証言台の前に座った50代のホステスは、タガログ語でこう怒りをぶちまけた。被告人はうなずきながら通訳が訳す言葉を聞いていた。
【写真】イキリファッションを好んだ最上守人被告(Facebookより)
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11月19日、東京地方裁判所で殺人未遂の罪などに問われていたのは最上守人被告(65)。最上被告は、昨年7月、東京都練馬区の路上でフィリピンパブのママを包丁で複数回刺す事件を起こした。
法廷に現れた最上被告は65歳とは思えない威圧感があった。身長は175センチ以上で、動きが溌剌としている。
ママは近くのコンビニに逃げ込んだため、どうにか一命を取り留めたが、左側胸部と右前胸部に負った傷はいずれも深さ5センチ以上であり、少しずれていれば命を落としたかもしれない重傷だった。
この日、検察側の証人として呼ばれたホステスA子さんの証言により、最上被告が店内で起こしてきた数々のおぞましいトラブルが再現された。
最上被告が練馬駅前のフィリピンパブXに来店するようになったのは、4~5年くらい前のことだったという。焼酎のお茶割りを好んだが、飲む量は少なかったとA子さんは振り返った。
「ヤクザの話ばかりして、気に入らないことがあるとすぐに機嫌が悪くなる客だった」(A子さん)
A子さんを気に入り誕生日は花を届けて祝ってくれたが、「感謝の気持ちがなかった」と怒り出して、テーブルに置いてあるグラスや灰皿などを払いのけて暴れたこともあった。だがその翌日には、
「許してくれないと自殺すると言って謝ってきた」(同)
コロナ禍を挟んでしばらく来店が途絶えていたが、23年5月頃から再び来店するように。だが、すぐにまたトラブルを起こした。
「駅で他のお客さんの頬にチューをしていたら、いきなり被告人が現れて…」(同)
最上被告はこっそりA子さんのあとをつけていたようだ。その後、怒った最上容疑者が警察に駆け込んで騒いだという。警察からは「何をされるかわからないから気をつけるように」と店に警告が来たという。
さらにA子さんの携帯には、
「二度と練馬を歩くな。見たら殺す。フィリピンにいる子供も殺しに行く、といったメッセージが送られてきた」(同)
それを機にA子さんは連絡をブロックするようになったが、それでも最上被告の店通いは止まなかった。
「私は直接見なかったが、ピストルのようなものを自分の口に入れたり、こめかみに突きつけたりしたことがあったとママから聞いた。ママに帰れと促されたが、帰ろうとせず、最後は看板を壊した」(同)
「機嫌が悪いと私とママやお店を潰すと言う。イミグレに通報するとも騒いだ」(同)
そして、ママを刺傷する約2週間前の昨年6月21日には、店内でA子さんに対して暴行事件を起こした。
この日、最上被告は閉店の午前1時頃まで店内にいて、ママを通してA子さんと「アフターに行きたい」と言ってきたがA子さんは断った。
するとA子さんのいるところにやって来て、ドライバーのようなものを握り込んだ拳で、何度も頭頂部を殴ってきたという。A子さんはその時の暴行で頭部と左腕に怪我を負ったと訴えた。
「(最上被告は)警察なんか怖くない。入管にも連絡する。警察にも写真を提供すると騒いでいた」(同)
この時、ママはこの件を不問に付す代わりに二度と店に来ないよう最上被告に言い渡した。
最上被告は翌日、ママに次のような謝罪メッセージを送ってきた。
〈ママ、きのうは、こめんなさい、あらためて、ごめんなさい、もうみせに、いけないこと、いかないこと、やくそく、します〉
にもかかわらず、しばらくすると約束を反故にしてまた店にやってきた。ママは店には入れず、A子さんと一緒に練馬警察署に行って、先日の暴行について被害相談した。
こうして警戒を強めていたのだが、翌日の7月6日、ママへの刺傷事件が起きてしまった。この日も最上被告は店の前までやってきて、ママにA子さんはいるかと尋ねた。ママが「知らない」と答えると、忍ばせていた包丁を手に持ってママに襲い掛かったのだった。
証言台でA子さんは最上被告にこう怒りをぶちまけた。
「(最上被告との一連の出来事は)トラウマになっている。客からは私が悪い女みたいにもいじめられた。人を信じることが難しくもなった。彼とは何の関係もなかったのに、なぜ私がこんな目に遭わないといけないのか理解できません」
最上被告はママに対する刺傷については認めたが、A子さんに対して振るった暴行事件については、頭には怪我を負わせていないなどと一部起訴事実を否認した。
裁判はママの証人尋問や被告人質問などを経て12月11日に判決が出る予定だ。
デイリー新潮編集部