近年、鉄道会社はとにかく経費節減に熱心である。先日、JR東日本は豪雨で被災した奥羽本線の新庄~院内駅間を、電化設備を撤去したうえで復旧すると発表した。また、同社は駅の“時計”も維持に費用がかかるという理由で撤去を進めているし、現在はいったん取りやめたものの、みどりの窓口も次々に廃止してきた経緯がある。
【写真】駅のホームからゴミ箱が撤去された結果、汚物で溢れかえる自販機横のリサイクルボックス
そして、首都圏の鉄道会社が次々に減らしているのは駅のゴミ箱である。読者も実感しているかもしれないが、駅のなかにあるコンビニで買ったおにぎりの包み紙を捨てようと思ったり、読み終えた新聞や雑誌を捨てようと思ったりしたとき、ゴミ箱がなかなか見つからず苦労した経験はないだろうか。特に、旅行でやってきた地方在住者は困惑しているという話も聞く。
関東近郊の鉄道会社で、比較的ゴミ箱が残っているのは特急や新幹線などの長距離列車が多いJR東日本の駅である。しかし、2022年からゴミ箱の撤去を開始した東京メトロをはじめ、関東近郊の私鉄ではゴミ箱を次々に姿を消している。いつの間にかホームにあったはずのゴミ箱がなくなる例は多く、改札口の脇に目立たないように置かれている例が増えた。
その理由を鉄道会社は“テロ対策”だとか、“家庭のゴミの持ち込みが多い”からと説明している。なかには、使用済みマスクを捨てられることを懸念し、“感染症対策防止のため”と、コロナウイルスを結び付けている説明もあったが、要は経費節減が目的である。確かにモラルのない利用者はいるのかもしれないが、こうした半ば強引なゴミ箱の撤去は、明らかに問題があると思う。
筆者が利用する埼玉県のある私鉄の駅は、ホームから完全にゴミ箱がなくなった。自動販売機の傍にリサイクルボックスはあるが、あくまでも空き缶やペットボトルの投入を想定したものである。雑誌や、紙屑などを入れるゴミ箱が駅から消滅してしまったのである。そうなると、人々はゴミをどこに捨てようかと、困り果ててしまう。
結果、どうなったか。人々は、駅前にあるコンビニのゴミ箱にゴミを捨てるようになってしまったのである。コンビニにはかつて、店外にゴミ箱が置かれていた。それが瞬く間にゴミで溢れかえった。その対策としていつの間にか店内に置かれるようになり、先日見に行ったら店内のゴミ箱も撤去されていた。
コンビニのオーナーは「決して駅のゴミ箱撤去だけが原因ではないと思いますが…」と前置きをしつつも、「明らかに当店で購入していない商品のゴミを大量に捨てていくなど、モラルのない人が目に見えて増えた」「正直、処理しきれない。お客さんに不便を強いることになるけれど、さすがに店の負担が大きすぎる」と話していた。
コンビニまでもがゴミ箱を撤去してしまうと、行き場をなくしたゴミはどこに行くのだろうか。駅近くの公園に置かれた空き缶のリサイクルボックス、もしくは駅のトイレのなかに捨てる人が増えてしまったのである。どこかの施設がゴミ箱を無くすと、その代わりに別の施設でゴミが溢れる…という負のサイクルに陥っているのがわかる。
駅構内のトイレで清掃作業に当たっていた清掃員に話を聞くと、トイレにゴミを捨てていく人は本当に多いそうだ。「トイレの個室、特に多目的トイレは人目に付かないからね。捨てていく人は多い」と話す。トイレのように、人目に付きにくい密室はゴミを捨てられやすいようだが、「トイレはそのイメージからモラルのない捨て方をする人が多すぎる」と、清掃員は嘆く。
事業者がゴミ箱を置くと、不法投棄に必ずと言っていいほど悩まされる。確かに、駅のゴミ箱に家庭ゴミが持ち込まれるケースは後を絶たないし、問題視するのはわかる。だが、筆者は鉄道会社がゴミ箱を撤去するのはあまりに無責任であり、即座に復活させるべきだと考える。というのも、鉄道会社は駅構内でテナントビジネスを展開し、駅の中で様々な商品を売っているためだ。
あちこちで商品を売りまくって儲けているのに、ゴミ箱をなくすのは無責任極まりないのではないか。駅のコンビニでは雑誌や食品が売られている。駅の中で買って食べ終わったおにぎりやパンの包み紙をどこに捨てればいいのか。それをすべて「ゴミをお持ち帰りください」といって消費者に処理の責任を押し付けるのは、あんまりではないだろうか。
こういったゴミ箱の撤去について説明を求められると、鉄道会社は決まって「お客様の理解は得られていると思う」などとコメントをする。実際、2022年、駅のゴミ箱が各地で撤去された際、新聞各社の質問にそう答えている鉄道会社は多かった。しかし、単に利用者が苦情を言わないだけであり、実際は不満が鬱積していると思うのだが、どうだろうか。
また、日本は公共の場にゴミ箱が少なすぎる。特に観光地のゴミ箱不足は深刻で、首都圏でもインバウンドが増加しているのに駅からゴミ箱が減らされているため、人目に付きにくい裏路地や密室のトイレ、さらにはビジネスホテルのゴミ箱などはゴミで溢れかえっているという話を聞く。
先日、線路にゴミをポイ捨てする人を目にしたし、トイレのコーナーに飲みかけのコーヒーを放置するおじさんの姿があった。誰かがゴミを捨て始めると、続けざまにゴミが捨てられるようになり、一気にモラルが崩壊するという指摘もある。駅を利用する人たちは、口にしないだけで、ゴミ箱がないことを不便に感じているのではないだろうか。
繰り返すが、鉄道会社は経費節減を進め、本業の鉄道の利便性を低下させている一方で、駅構内でビジネスをすることに躍起になっている。駅の土地は鉄道会社のものだが、準公共空間と言っていい空間だ。そんな場所でモノを売りまくっているのだから、企業の責任でゴミ箱を維持すべきではないかと思う。
ライター・宮原多可志
デイリー新潮編集部