2035年に「働き手384万人」の労働力不足 最も足りないのは「事務」従事者ってホント?

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2024年度上半期の「人手不足倒産」の件数は163件に達し、年度として過去最多を大幅に更新した昨年度を上回る記録的なペースで急増している――そんな推計結果を帝国データバンクが発表した。このスピードは今後さらに加速する可能性がある。人手不足は構造的な問題だからだ。
パーソル総合研究所と中央大学が2024年10月17日に共同発表した「労働市場の未来推計2035」によると、2035年の日本では1日あたり3万4697万時間の労働需要に対し、労働供給率は94.9%、1日あたり1775万時間の労働力不足が見込まれるという。これは働き手384万人分に当たり、2023年より1.85倍深刻になる見込みだ。
2035年に労働力が最も不足する職業は「事務従事者」で365万時間/日、次いで「専門的・技術的職業従事者」の302万時間/日、「サービス職業従事者」の266万時間/日が続いている。なお「事務従事者」とは、庶務や人事などの事務員、秘書、会計事務事業者等を指す。
推計は、就業者数自体は2023年実績の6747万人から、2035年予測の7122万人へと増加すると見込む。シニア層や女性、外国人労働といった多様な労働参加が進むからだ。一方で、就業者1人あたりの年間労働時間は、1850時間から1687時間に減少する。
労働力不足を補うためには、シニア層やパートタイマー、副業といった「ショートワーカー」の活躍機会を創出したり、教育訓練投資や生成AIの活用といった「ポテンシャル」への積極的投資で生産性の向上を図ったりすることが考えられるという。
この推計に、都内の老舗専門商社で働く50代男性のAさんは「事務従事者は本当に不足するんでしょうかねえ」と疑問を呈する。現状ではAさんの会社も事務の人員は不足がちだというが、旧態依然のアナログな仕事のやり方を変えれば必要な人員は少なくなるはず、というのだ。
一方でAさんの会社は、旧態依然としたアナログの仕事からなかなか脱却できないのが現状だという。理由の1つ目は、庶務や総務を年配のベテラン女性社員が一手に引き受けているからだ。
女性社員の中には、定年後に嘱託として働いている人もおり「いまさら自分でデジタルツールに置き換えたり新しいやり方を覚えたりすることなんてムリ、と言われています」。
取引先との契約書は紙に出力してハンコを押し、棚にファイリングしている。取引先の一部からは「電子契約にしてほしい」と言われているが、「対応できない取引先に揃えるため」という表向きの理由で、いまだに紙の書類を郵便でやりとりしている。
アナログから脱却できない理由の2つ目は、営業担当の中高年男性社員だ。彼らは書類仕事を女性社員に任せきりで、口頭で依頼はするが自分で手を動かさない。
ただしAさんは、あと数年で「最後のバブル世代」が60歳になるタイミングに合わせて「業務の仕組み全体をデジタル化したり、アウトソーシングしたりする予定」という。それに合わせて、事務担当に派遣スタッフを受け入れる予定だ。
その一方で、Aさんの会社には業界再編の波が押し寄せており、売上高・利益とも右肩下がり。昨期は営業赤字となった。市場も縮小しており、それどころではなくなるかもしれない、と危惧する。

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