「赤ちゃん見せてー!」と叫ぶ隣人がストレスに 0歳児の母の悩みに脳科学者・中野信子が答える“対処法”

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みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「隣人との付き合い」という難題に、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全3回の1回目。#2、#3を読む)
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中野信子さん 文藝春秋
◆ ◆ ◆
――昨年出産し、同時に家を新築して引っ越してきました。隣家に女性の老人が住んでいて、毎日大きい声で喋り続けています。朝の7時前から大声で喋るので、その声で起こされます。引っ越しの挨拶をした時からすごく馴れ馴れしく、外でバッタリ会ってしまうと「赤ちゃん見せてー!」と叫ばれるので、それが嫌で私は外出を控えるようになりました。その人の声が聞こえてくるだけで動悸がするほど嫌になってきました。こんな時はどうしたらよいのでしょうか。
せっかく新しいお家で暮らし始めたのに、動悸がするほど嫌なことが待っているなんて、うんざりしてしまいますよね。大きな喋り声が嫌だと感じるのは、あなたが出産してからより敏感になったでしょうか? それとも、隣人のような人はもともとあなたの苦手なタイプなのでしょうか?
もし嫌だと感じるのが出産後であれば、時間を味方につけるのは一つの方法かもしれません。出産後のお母さんの脳はオキシトシン濃度が高い状態です。オキシトシンはその名の由来が「早い出産」というギリシャ語であり、陣痛を促進したり母乳の分泌を促したりする働きをします。
一方で、危険をいち早く察知して、それに対抗しなければ、という情動を高める作用もあります。誰かが守ってやらねばすぐに死んでしまいかねない我が子を、決死の覚悟で守る必要があるからです。そのため、オキシトシンの分泌が多いと、自分の身の回りの安全を乱しかねないような相手に対して、嫌悪感が湧きやすく、より攻撃的な気分が強くなるのです。
子どもが赤ちゃんの時期を過ぎてお母さんのオキシトシンレベルが落ち着いてくれば、隣人の声は気づいたら気にならなくなっていた、となる可能性が高いですよ。ただ、それまでは、嫌だなという気持ちになったら「私は今、オキシトシンが作用して、『子どもを産んだばかりの野生動物の母状態』なんだ」と、自分を客観的にイメージしてみてください。そうやって冷静に自分の状態を把握することで、すこし気持ちが落ち着くと思います。
出産とあまり関係なく、大声で話す人がもともと苦手なのであれば、まず、大声で話す人に対してあなたが感じているストレスを数値化してリストアップしてみましょう。たとえば、外出先で「赤ちゃん見せてー!」と叫ばれることがストレス100、馴れ馴れしくされることは90、朝、喋り声で起こされることは85というように、あなたにかかるストレスが強いと感じる順に書き出します。
そして比較的ストレスの数値が小さいものを見つけてください。ひとりでコンビニに行くのは、隣人と会うかもしれないけれど赤ちゃんを見せてとは言われないからストレス10、2階の窓を開けるのは、隣人の声が聞こえたとしても遠くに聞こえるから5ぐらいでしょうか。
リストが完成したら、まず最もストレスが小さい「2階の窓を開ける」を繰り返しやってみます。窓を開けるたびに瞑想をするなり、歌を歌うなり、自分の心が落ち着くことをする。これは遠くで隣人の声が聞こえたとしても平静でいられるようになるためのトレーニングです。
これができるようになったら、少しストレス度が上がる「ひとりでコンビニに行く」を繰り返しやってみる。このようにして弱いストレスから強いストレスへと段階的に克服していくことを「系統的脱感作」といいます。臨床心理で効果的とされている認知行動療法のひとつなんですよ。ゆっくり時間をかけて試してみませんか。
また、もしかしたらあなたは、隣人が嫌と言いつつ、実は隣人を嫌だと認知してしまう自分が嫌なのかもしれません。大きい声で話す隣人は善意の人かもしれず、でもその善意を受け入れられない自分が、まるで心の狭い人のようで嫌……。そんな気持ちで自分を責めてしまう人も時々見かけます。 でも、嫌な人のことは嫌なままでもいいんですよ。万人を好きになる必要はありません。万人を好きだという人がもしいたとしたら、極端な言い方をすれば、その人はうそをついているか、他人の内面にまったく関心のない人だと思います。 隣人の大きい声がこの先、自然に変わることを期待するのはおそらく難しいでしょう。他人を変えるよりも自分を変えることのほうがずっと手っ取り早いのです。大きな声を「うるさい」でなく、「あ、今日も元気ね、おばあちゃん」と、感じられる日があなたに早く訪れるといいなと思います。text:Atsuko Komine※#2では「他人よりスタートが遅れた後悔」という焦燥感に、#3では、ゲストに俳優・松重豊さんを迎え、「セリフ覚えが悪い」という悩みに中野さんがお答えします。中野さんにあなたのお悩みを相談しませんか?読者の皆様のお悩みを、[email protected]か(件名を「中野信子人生相談」にしてください)、〒102-8008 千代田区紀尾井町3-23「週刊文春WOMAN」編集部「中野信子の人生相談」係までお寄せください。匿名でもかまいませんが、「年齢・性別・職業・配偶者の有無」をお書き添えください。どうしてもっと早く始めなかったのか後悔ばかり… 脳科学者が考える“追い抜かれた焦り”との付き合い方 へ続く(中野 信子/週刊文春WOMAN 2022春号)
また、もしかしたらあなたは、隣人が嫌と言いつつ、実は隣人を嫌だと認知してしまう自分が嫌なのかもしれません。大きい声で話す隣人は善意の人かもしれず、でもその善意を受け入れられない自分が、まるで心の狭い人のようで嫌……。そんな気持ちで自分を責めてしまう人も時々見かけます。
でも、嫌な人のことは嫌なままでもいいんですよ。万人を好きになる必要はありません。万人を好きだという人がもしいたとしたら、極端な言い方をすれば、その人はうそをついているか、他人の内面にまったく関心のない人だと思います。
隣人の大きい声がこの先、自然に変わることを期待するのはおそらく難しいでしょう。他人を変えるよりも自分を変えることのほうがずっと手っ取り早いのです。大きな声を「うるさい」でなく、「あ、今日も元気ね、おばあちゃん」と、感じられる日があなたに早く訪れるといいなと思います。
text:Atsuko Komine※#2では「他人よりスタートが遅れた後悔」という焦燥感に、#3では、ゲストに俳優・松重豊さんを迎え、「セリフ覚えが悪い」という悩みに中野さんがお答えします。中野さんにあなたのお悩みを相談しませんか?読者の皆様のお悩みを、[email protected]か(件名を「中野信子人生相談」にしてください)、〒102-8008 千代田区紀尾井町3-23「週刊文春WOMAN」編集部「中野信子の人生相談」係までお寄せください。匿名でもかまいませんが、「年齢・性別・職業・配偶者の有無」をお書き添えください。どうしてもっと早く始めなかったのか後悔ばかり… 脳科学者が考える“追い抜かれた焦り”との付き合い方 へ続く(中野 信子/週刊文春WOMAN 2022春号)
※#2では「他人よりスタートが遅れた後悔」という焦燥感に、#3では、ゲストに俳優・松重豊さんを迎え、「セリフ覚えが悪い」という悩みに中野さんがお答えします。
中野さんにあなたのお悩みを相談しませんか?読者の皆様のお悩みを、[email protected]か(件名を「中野信子人生相談」にしてください)、〒102-8008 千代田区紀尾井町3-23「週刊文春WOMAN」編集部「中野信子の人生相談」係までお寄せください。匿名でもかまいませんが、「年齢・性別・職業・配偶者の有無」をお書き添えください。
どうしてもっと早く始めなかったのか後悔ばかり… 脳科学者が考える“追い抜かれた焦り”との付き合い方 へ続く
(中野 信子/週刊文春WOMAN 2022春号)

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