コツメカワウソ、スナネコ…日本で続くアニマルカフェ人気の裏にある野生動物の悲劇

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2024年の訪日外国人客数は、前年比38%増の3450万人になるという。そんな外国人旅行客に大人気の日本の観光スポットのひとつとして、訪日外国人の旅行サイトなどでも話題になっているのが、動物たちとふれあえる「アニマルカフェ」の存在だ。東京都内にあるミニブタとふれあえるカフェでは、お客さんの9割が外国人で、多い時には1日に300人以上が訪れることも。
この記事の担当編集は日本に遊びに来たイギリス人の友人に「ロンドンでも里親目的のキャットカフェは少しあるけど、日本にはミニブタ以外にもいろんな動物のカフェがあるよね。国で規制とかないの?」と聞かれ、戸惑ったという。
確かに日本では、犬や猫だけでなく、さまざまな動物と会えるアニマルカフェ、ふれあいカフェ、ふれあい動物園と呼ばれる施設が日本のあちらこちらにできている。商業施設の一部を改装し、気づいたらそういった施設になっていた、というケースも少なくない。
そういった施設では、飲食をしながら動物たちを見て楽しんだり、写真を撮ったり、ふれたりすることができる。展示されている動物は、ハリネズミやフクロウのように種に特化した店もあれば、カピバラやナマケモノ、ワオキツネザル、ショウガラゴ……と、間近でなかなか見ることができない野生動物たちをたくさん集めた施設もある。日本人はもちろん、それらの施設は外国の旅行ガイドブックにもしっかり掲載されている。なぜそんなに人気があるのかというと、海外では野生動物たちと気軽にふれあうことが出来る施設が日本ほど多くはないからだ。
なぜ日本はアニマルカフェが無法地帯のように乱立しているのか? 野生動物のふれあい・ペット化が進むのは日本だけなのか、その実態についてWWF(世界自然保護基金)ジャパンの浅川陽子さんに話を伺った。
野生動物のペット化、アニマルカフェ、ふれあい系動物園ブームには、「単純に喜んでばかりいられない厳しい問題がある」とWWFジャパンの浅川さんは指摘する。
「日本では、多くの野生動物がペットとして利用されています。さらに野生動物を集めたふれあい施設の人気も高まって、ビジネスとして参入する事業者が増加しています。その結果、過剰捕獲による絶滅や密猟や密輸といった違法取引の脅威にさらされる野生動物がいます。さらに、不適切な管理によって “動物福祉(アニマルウェルフェア)”が十分に満たされないという実態もあります。
そもそもサルやカワウソといった野生動物は、犬や猫のような人との暮らしに適用するよう改良されてきた動物とは異なります。野生動物は本来、森林や湿地など人が暮らす場所とは大きく異なる環境で暮らしています。世界的に野生動物のペットやふれあい利用について規制が強化されていますが、日本ではこうした動物との適切な付き合い方に関する議論さえ十分ではありません。メディアも野生動物の利用に伴う問題より、かわいらしい一面ばかりを紹介してしまうので、野生動物を身近にふれあえる動物、犬猫と同じように共に暮らせるペットと捉えてしまう人が多いように感じています。
私たちWWFジャパンでは、生物多様性の回復と野生動物保全の観点から、野生動物のペット・ふれあい利用の在り方を見直し、適切に管理する法整備を求める活動を進めています」
実際に日本でどれぐらいのエキゾチックアニマルを対象にした施設があるのだろうか?
2019年に京都大学の研究者と環境保全専門家のチームが実施した調査(※1)によると、北海道から沖縄まで、国内で営業が確認できたエキゾチックアニマルカフェは139店舗。そこで取り扱われている動物は419種、3793個体。そのうち12%は絶滅の恐れのある種であることがわかっている。もっとも多かったのは鳥類で全体の62%(その内フクロウだけで40%)。爬虫類21%、哺乳類15%、両生類2%だった。こういった動物たちは、展示やふれあい目的だけでなく販売用のものもあった。近絶滅種(=絶滅寸前の種)のパンケーキリクガメやサルの仲間で絶滅危惧種のスンダスローロリスも確認され、それらは日本に違法に持ち込まれた可能性も指摘された。
この調査によって、日本のエキゾチックアニマルカフェに、ワシントン条約規制対象種や侵略的外来種を含む多くの種が展示されていることが明らかになった。
しかし、こういう実態はメディアでもほとんど報道されないため、野生動物を扱うカフェやふれあい動物園に問題意識を持つ人も少ない。
「野生動物の利用には、多くのリスクが伴います。生物多様性、公衆衛生、動物福祉への影響です。侵略的外来種(外来種の中で、地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かすおそれのあるもの)を生み出すこともあります。野生動物はまだ確認されていないウイルスを保有している可能性があることも指摘されています。過去に流行した感染症には野生動物からヒトへと伝播したものもあるのです。また、アニマルカフェでのペットを想起させるような展示やふれあいによって、実際には飼うことが難しい動物であっても、誰でも飼うことができる、と誤解し、ペット需要が拡大する懸念もあります」(浅川さん)
※1:日本のエキゾチックアニマルカフェ調査―加熱する現象の解剖と懸念される影響―
たとえば、数年前から日本でもアニマルカフェやペット販売で見かけるようになった野生動物のひとつに、「スナネコ」がいる。中東や北アフリカの砂漠地帯に生息し、特徴的な大きな耳と幅広めの顔、といった可愛らしさが評判で“砂漠の天使”というニックネームが付けられている。アニマルカフェでスナネコを見て、ペットにしたいという人々の需要が高まっていることも事実で、野生の個体が過剰に捕獲される事態が懸念されている。
「現在、スナネコは絶滅危惧種に指定されていませんが、一部地域ではその可能性が高まっています。今後、人気の高まりからスナネコを取り扱うカフェがさらに増えたり、ペット需要まで高まったりすると、その危機がさらに増していく恐れがあります。ネコ科の動物でありますが、イエネコとは全く異なる野生動物です。本来スナネコは砂漠地帯に単独で暮らし、ネズミや鳥などの動物を狩って食べます。そうした生息地に近い環境を一般家庭やアニマルカフェで整えることは難しく、制限された飼育環境がスナネコの本来の習性や行動を発揮する機会を奪っているのです。
カフェでの展示やペットとしての需要を満たすために、野生動物が生息国でたくさん捕まえられることは生態系に悪影響を及ぼすうえ、飼育される個体にとってもストレスになるおそれが高いと言えます」(浅川さん)
アニマルカフェでの人気が高まって、密猟や密輸の脅威にさらされている野生動物はスナネコの他にも、カワウソやサル、フクロウをはじめ、トカゲ、ヘビ、カメなどの爬虫類、カエル、イモリなどの両生類もいる。中には劣悪な状態で密輸され、命を落としてしまう動物も少なくない。
2018年には、コツメカワウソがキャリーケースの中に入れられて日本に運搬され、運ばれた5匹のうち4匹が衰弱死した。2022年には直径13センチのお椀型の民芸品2個を重ねて球状にした容器の中に巾着袋に詰め込まれた小型のサル21匹がタイから運ばれ、羽田で発見、保護された後、半数が衰弱死するという事件があった。
密輸の報道をすると、「密猟をする人がいるから、そういった人を許す国が悪い」という指摘があるが、それだけが悪いとは言い切れない。求める側が存在するから密猟→密輸が生まれてしまう。日本はそういった流通の大きなマーケット国になっている。
「日本での消費を見直すことが、飼育される動物の命を守り、生息国の生態系保全にも大きな意味をもつことになる」と浅川さんはいう。
◇後編『足錠がついたサルやフクロウ…虐待に近い展示も。野生動物カフェやふれあい施設問題』では、野生動物のペット化問題を研究する日本獣医生命科学大学特任教授で獣医師の田中亜紀さんにも、この問題についてさらに話を伺う。
足錠がついたサルやフクロウ…虐待に近い展示も。野生動物カフェやふれあい施設問題

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