【人食いバクテリア】壁を拳で殴ったら、そこが腫れて発症した例も…水虫もほうっておいたら危ない?

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「人食いバクテリア=劇症型溶血性レンサ球菌感染症(劇症型溶連菌感染症)」が急拡大している。国立感染症研究所によると、’22年は708人、’23年は941人だったが、今年は7月7日現在1060人と、統計を取り始めた1999年以降、最多だった’23年の報告数をすでに超えている。
「当院では1年に1人か2人という状態でしたが、私が救急救命科に配属になった去年10月から今年3月にかけて次から次に運ばれてきて、驚きました」
こう言うのは、日本医科大学付属病院の形成外科・再建外科・美容外科の医師として劇症型溶連菌感染症の患者を治療にあたった西條優作医師。半年間で11~12人の患者を診たという。
劇症型溶連菌感染症が怖いのは、急激に症状が悪化すること。腕や足が腫れてきて痛いなと思っているうちに、腫れている部分が熱を帯びるようになり、その後組織が壊死する。血圧が低下し、呼吸状態が悪化し、肝不全、腎不全など全身状態が悪化する。まれに発症して数十時間で死に至ることもあるという。
「しかも、患者さんの大半は持病などをもっていらっしゃらない元気な方が多いのです」
1週間前まで元気だった人の具合が突然悪くなり、亡くなることもある! 致死率はなんと30%だとか。“人食いバクテリア”と呼ばれるゆえんだ。
こんな病気、絶対かかりたくない。どんなことに気をつければいいのだろう。
「感染経路は、まだよくわかっていません。ただ、10年ほどカルテをさかのぼってみると、ぶつけたところから発症することもあるようです」
壁を拳で殴ったら、そこから腫れてきて発症した例もあるという。
小さな傷から細菌が入り、そこから劇症型溶連菌感染症に感染したのではとも考えられている。これから海や山で遊ぶ機会も多くなり、ケガをする危険性も高まる。これは要注意だ。傷だけではない。水虫や靴ずれなどからも菌が入り込む可能性は否定できない。
「感染経路が明確でない以上、どんな可能性も考えられます。水虫の部分から菌が入り込むこともないとは言えません」
小さな傷だからと油断せず、ケガをしたら、しっかり流水で洗い流して消毒し、水虫もきちんとケアしたほうが安心だ。
怖いのは、ぶつけたり、ケガをしたり、水虫がなくても発症することがあるということだ。
「ぶつけた記憶がない患者さんもいます」
「もしかしたら忘れているだけかもしれないが」と言うけれど、記憶に残らないほどの軽度の打撲や傷から発症しているのかもしれない。
「原因はわからないけれど、腫れてきて、その部分が痛くなってきた。熱をもってきたという症状が出たら、医療機関で受診することをお勧めします」
この病気が怖いところは、受診しても安心できないということだ。なぜなら、クリニックでは劇症型溶連菌感染症と診断することがむずかしいから。
「劇症型溶連菌感染症だと診断するためには、腫れている部分を切開して、組織検査をしなければなりません。けれど、比較的規模の小さいクリニックでは腫れているところを切開しようとは考えないでしょう。多くの場合、抗生剤を処方して経過観察という対応になると思います。
たいていの場合、それでいいんです。けれど、その中に劇症型溶連菌感染症が混ざっているから困るんです」
処方された薬をつけても改善しない。そのうち痛みはどんどんひどくなる。
「当院に来られた方の多くは、皮膚科や整形外科などのクリニックを先に受診している。そのうち痛みで歩けなくなったり、血圧が低下して意識もうろうとなり、救急車で運ばれてくるというケースが多いです」
西條医師が診た患者さんの中で亡くなった人はいないが、壊死した部分を切断したり、壊死した組織を切除するために8回も手術を繰り返した人もいるとか。
それにしてもなぜ今年になって急拡大しているのか。一説にはコロナ禍のとき、清潔を心がけて過ごしたため免疫力が下がり、そのために細菌に感染しやすくなっているのではといわれているが、
「さまざまな機関で研究されていると思いますが、原因はわかりません」
こんなにもわからないことが多いのは、これまで罹患者が少なかったから。データが少ないために正体を明らかにすることは難しいのであろう。
「罹患した人の貴重なデータなどを統合して、早期診断につながる病気の特徴を医療従事者と共有できるようにしていきたいと思っています」

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