【石倉 英樹】「兄は7:3、妹は5:5と言い」病院に怒号、5,000万円を相続した60代男性の「悲しい末路」

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事務所に相続の相談に訪れたときは一見仲が良さそうだった60代の兄妹。しかし相続の話を進めると妹の夫の意見によって、2度の話し合いはもつれてしまった。
前編『仲のいい兄妹のはずがドロ沼の相続に。5,000万円を相続した60代男性の「悲しい末路」』を見る。
2回目の話し合いから約1か月後、改めて兄妹2人だけの話し合いが行われました。
「この前も言ったけど、お前は結婚して嫁に出たんだから、実家は俺が相続すべきだ。だけど、それだと可哀そうだから、土地の半分はお前に譲ってやろうと言ってるんじゃないか。それでいいだろ?」
「でも、お母さんが亡くなった時にお兄さんが全て相続してるし…」
「お前もわからないやつだなぁ! だから、本当は長男の俺が実家を全部相続するはずなのに、半分やるって言ってるんじゃないか!」
平行線をたどる二人の話し合いは2時間以上続きました。
しかし、最終的には妹さんが妥協し、当初の予定通り、実家の土地を半分ずつ相続することで、なんとか話し合いがまとまったのです。
相続税の申告期限までは残り2ヵ月。あとは決まった分け方に従って「遺産分割協議書」を作成すれば、無事に手続きが終了するはずでした。
しかし、妹さんからの一本の電話で事態が一変します。
「先生大変です!!」
「どうしたんですか!?」
「実は、昨日の夜、兄が交通事故に遭ったんです!!」
「えっ!? お兄様の容体は!?」
「詳しいことはまだわかりません。命に別状は無いようですが、大ケガを負ってしまったようです…」
遺産分けが決まった日の翌日、嬉しくなったお兄さんは1人で居酒屋に行き、その日の帰り道で交通事故に遭ってしまいました。
なんとか一命は取り留めたものの、意識が昏睡しどうなるかわからない状態。
仮に意識が戻っても、今まで通り自分の足で歩くことは難しいかもしれない、という医師の診断が下されました。
手術はなんとか成功し意識が戻ったものの、お兄さんは自分の足で歩くことが難しくなってしまいました。
今まで運送会社で働いていたこともあって、仕事復帰することは絶望的な状態。お兄さんは、生活の糧となる収入源を断たれてしまったのです。このため、将来に悲観的となり、今までとは別人のように落ち込みが酷くなっていきました。
そして、当初は実家の土地を半分ずつ相続する予定でしたが、働けなくなり車イスでの生活になったことから、お兄さんの主張が大きく変わっていきます。
「もう俺は、この遺産に頼って生きていくしかないんだ…。だから俺が7割、妹が3割を相続する形に変更したい! ここは譲れない! この遺産がなくなったら、俺の命も終わるんだ!」
相続税の申告期限まで、残り1ヵ月を切りました。
兄は、遺産の7割を相続したい。妹は、今までの話し合いの通り遺産を半分ずつ相続したい。
両者の主張がまったく噛み合わないまま迎えた4回目の話し合いは、兄が入院中の病院で行われることになりました。
先に病院の面談室に入った妹さん。
それから数分後、リハビリをしていたお兄さんが車イスに乗って面談室に現れました。
「お兄さん、そろそろ遺産分けを決めないと相続税の申告期限に間に合わなくなっちゃう。私としてはお兄さんが事故にあって大変なことはわかるけど、私としても今後の生活があるからやっぱり半分もらいたいの…」
妹さんが喋り終わるのを待たず、お兄さんが話を遮ります。
「なんだこの野郎! お見舞いに来たのかと思ったら、また金の話か! お前は昔っからそうなんだよ! 自分のことばかり考えやがって!! ぶっ飛ばされたいのか!!!」
「お兄さんだって昔からそうじゃない! 私のことをそうやっていつも脅して! 私だってずっと我慢してきたんだから! 今回はもう譲らないわよ!」
「なんだてめぇ!! もういっぺん言ってみろ! ぶん殴ってやるからこっち来い!!!」
シーンと静まり返った病院内に2人の怒号が響き渡ります。
驚いて駆け込んできた看護師さんに冷静になるよう促されると、長い沈黙のあとお兄さんがゆっくりと口を開きました。
「怒鳴って悪かった…だけど、俺が入院してから誰も見舞いに来なかったんだ。今日お前が来た時も、最初に見舞いの一言があると思っていた…カッとなってすまない。」
「お兄さん、私の方も悪かったわ。慣れない車イス生活になって大変なのに、お見舞いの一言もなしにお金の話を切り出して、ごめんなさい。」
「いや、俺も悪かった。だけど、やっぱり遺産は多く相続したいんだ。俺は独り身だし、もう働くことはできない…だから遺産だけが頼りなんだ。申し訳ない…。」
しばらく沈黙が続いた後、妹さんが覚悟を決めたように口を開きました。
「分かったわ…。お兄さんの言う通り、7対3の分け方でいいわ。」
最終的には、妹さんが大きく譲る形で遺産分けがまとまり、相続税の申告期限にギリギリ間に合わせることができました。
実家の土地は相続後売却され、売却収入の7割はお兄さんが、残り3割は妹さんが相続することになり、無事相続手続きも完了したのです。
お兄さんは交通事故から半年後、リハビリを一所懸命に頑張ったおかげで、なんとか自宅で一人暮らしの生活ができるようになりました。
しかし、それから1年後。
妹さんから私の事務所に一本の電話が入ります。
「先生、父の相続の際には大変お世話になりました。実は、先週兄が亡くなったんです…。」
「えっ!?」
「退院した後、兄は自宅で生活していたんですが、独身で一人暮らしだったので、家で倒れたことに誰も気づかず、亡くなっていたんです…。」
遺産分けで揉めたため、その後お兄さんと妹さんは疎遠になり、誰も自宅を訪れることはありませんでした。
お兄さんの預金口座には、実家を売ったことによる売却収入の5,000万円がそのまま残されており、このお金はたった一人の相続人である妹さんが全て相続することになったそうです。
仲のいい兄妹のはずがドロ沼の相続に。5,000万円を相続した60代男性の「悲しい末路」

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