4月21日午前、大分県の日出生台(ひじゅうだい)演習場で、陸上自衛隊の主力戦車が実弾射撃訓練中に、砲弾の暴発事故があり、3名の隊員が死亡、1名が負傷という極めて重大な事案が発生した。
殉職隊員各位のご冥福を心よりお祈り申し上げる。また負傷された隊員の速やかな回復を切に願う。
現在、原因については陸上自衛隊の調査が進められており、外野からの予見は控えたいと思う。原因究明が進捗し、適切な対策が取られ、早期に訓練が再開されることが重要と考える。
ここで自衛隊における訓練の意義についての考えと、自衛官の「覚悟」に関する実体験の話を紹介したいと思う。
読者の皆様も日常的に航空機を利用するだろう。航空機は空で止まることはできない。止まることは墜落を意味する。自然の摂理に反している。
そのため、航空機自体、また航空機を運用するシステムは、何重にも安全管理がなされている。しかしながら、航空機の事故はある程度の頻度で起こっている。
そのような航空機を運用して任務を行うのが航空自衛隊だ。特に戦闘機の場合、通常の旅客機とは全く異次元といえる機体運動である戦闘機動(コンバット・マニューバー)が必要となる。
現代戦では第2次大戦時のような空中戦はまれなケースであろうが、操縦の基本動作として継続的訓練の重要性は変わらない。おなじみのブルーインパルスは元来この空中戦技研究のためのチームであり、ブルーインパルスの華麗な演技は、技術的検討とたゆまざる訓練によって成り立っている。
一方、陸上自衛隊では、一般社会ではほとんど接する機会のない銃器、火砲を用いて任務達成を図る。特に迫撃砲、榴(りゅう)弾砲、戦車砲などの火砲は、自衛隊以外では取り扱うことはない。火砲はそれ自体が危険物であるため、厳重な安全管理が必要だ。技術的検討と経験に裏付けられた取り扱いが要求される。
自衛隊の取り扱う装備品には、陸自の火砲等のほか、海自の艦砲、魚雷等、空自の爆弾等に加えて、陸・海・空各自衛隊の保有するミサイル、ロケットなどがある。これらはいずれも弾頭火薬、推進火薬などが構成部品であり危険性を内包する。
各自衛隊は有事を想定して、これらの危険を内包する装備品を駆使し、外敵と戦うのが自衛隊の任務。安全管理との両立は、繰り返し行う「訓練」によってのみ完遂できるものなのだ。
実弾射撃訓練の重要性を認識してほしい。“たま(偶)にうつ、弾がないのが、玉にきず(瑕)”とは、昔言われた川柳だが、現在にも通じているものと推察する。
自衛官は特別国家公務員だ。何が特別かというと、任官時に宣誓を行い署名をするが、その文章の一節「…事に臨んでは危険を顧ず、身をもって責務の完遂に努め、…」がほかの公務員と違う。平たく言えば命を懸けて任務達成を誓うわけだ。
以前、日ごろからご指導いただいている特科(砲兵)出身の将軍に質問したことがある。「閣下、命を懸けて任務を遂行したことはありますか?」との質問に将軍閣下は次のように答えた。
「実弾射撃訓練をしていると、まれに“不発射弾”の処理が必要になる場合がある。“不発弾”とは違う。不発弾は射撃した弾が着弾しても爆発しない場合で、第2次大戦時の不発弾(大抵が爆弾であり砲弾ではないが)が時々発見されて、自衛隊が出動することはニュースにもなる。
“不発射”というのは、一般には知られていない。これは、火砲が発射動作をしても弾丸が発射されない場合である。この場合、同じ動作を繰り返し試みるのが手順となる。それでも発射されない場合は素手で回収を行うことになる。
あるとき155ミリ榴弾砲の実弾射撃訓練をしていた。自分は小隊長で後ろの方で訓練を指揮していた。その時不発射が発生した。砲の真近にいた隊員は、振り返って上官の陸曹を見る、陸曹は振り返り小隊長である自分を見る。自分の後ろには誰もいない。この時、小隊長である自分が、陸曹以下に命令すれば、誰かが素手で回収に向かったであろう。
しかし将軍(当時2陸尉)は部下に任せることなく自分自身が回収を行うこととした。榴弾砲は砲身の後部に弾丸と薬包を装填し、薬包が爆発することにより弾丸を飛ばすものだ。薬包が爆発しなかったことにより不発射になる。その薬包を素手で回収するのだ。砲の後部を開けると薬包が見え、発射動作を行った傷痕もある。いつ爆発してもおかしくない。むしろ爆発するべきものである。それを素手で回収するのであるから、まさに決死の覚悟である。本当にあの時は命がけだった」
これは一つの事例であるが、実際に経験されたことである。このケース以外でも、偶然、「あっ!危なかった」というのではなく、危険を承知で事に臨むという経験をする自衛官は少なからずいる。
誰かがやらなければならない場合に、覚悟を持って臨むということだ。自衛隊という組織そのものが、我が国に一朝事あるときには、危険をも顧みす事に当たる覚悟をもった集団といえるのだ。
文/島本順光 内外タイムス