安くてウマい庶民の味。小麦粉由来のたこ焼きやお好み焼きなどを提供する店を関西人は「粉もん屋」と呼ぶ。かつて数多くの「粉もん屋」で賑わっていた大阪市城東区。この街の一角に店を構えるお好み焼き店『ハマサキ』は親子2代、70年近くにわたって営業してきた老舗なのだが――今年は年明け早々からずっとシャッターが降りている。店先には「閉店のお知らせ」と題する張り紙が貼られていた。
東京商工リサーチの調査によると、’25年の「粉もん屋」の倒産件数は過去最多となる28件(前年比33%増)。近畿圏が7割を占め、全国最多は大阪府の11件だった。「粉もん」の普及活動を行う「日本コナモン協会」が全国100店舗にアンケートを取ったところ、約半数が「後継者がいない」と回答。同協会は「’35年までにお好み焼き店が半減する可能性が高い」と警鐘を鳴らしている。「日本コナモン協会」の熊谷真菜会長が言う。
「SNS映えしない、焼けるまでに時間がかかってタイパが悪い。加えて実際は栄養バランスがいいのにカロリーが高いイメージがあることで若者の″粉もん離れ″が進んでいるのも、閉店が増加している要因です。道頓堀などインバウンド客が訪れる場所はまだいいものの、地元客がメインの地域密着型の店は限界を迎えつつあります」
関西のソウルフードに、いったい何が起こっているのか。FRIDAY記者は粉もん屋店主たちの本音を聞いた。
大阪市大正区にある『ダックス』は’85年に開店した老舗お好み焼き店だ。縦20僉濂30僉⊇鼎2.5圓粒柱入り「ウルトラジャンボ」(2500円)が名物だったが、昨年1月にメニューから消えた。
店主の平尾克昌(かつまさ)さん(80)が窮状を明かす。
「原材料の高騰が原因ですわ。『ウルトラジャンボ』には帆立ての貝柱を6個に、海老とイカをそれぞれ10個ずつ、豚肉や卵を4人分入れていました。しかし、近年の物価高騰で、以前は一個100円やった貝柱が倍の200円になってしもうた……。キャベツも安いときは一玉100円やったのが、最近は800円近く値上がりすることも。海老やイカ、豚肉も昨年から値段が上がり続けとります。原価が定価を超えてもうて、焼いても焼いても損するだけ。せやから泣く泣くメニューから外したんです」
粉もんに必要不可欠な小麦粉も、’16年1月時点で1袋233円だったのに対し、’26年1月では343円と、この10年間で約1.5倍に値上がりしている。
店の今後について聞くと、平尾さんは表情を曇らせた。
「子どもらに継がせることも考えとったけど、継いだところでやっていかれへんのは目に見えてます。子どもらも子どもらでようわかっとるから、別の仕事に就いて独立しとります。もういつやめてもエエと思っとります」
「後継者がいない」というより、「後を継がせたくない」というのが現実なのだ。
たこ焼きの価格もこの15年間で倍になっているが、「そうやすやすと商品を値上げできない」と嘆く店もある。30年近くにわたってたこ焼き店を営む70代の女性もその一人だ。
「物価が上がっても、ウチは『6個150円』でやらせてもろてます。お客さんは、この値段やから来てくれる馴染みの人ばかりやから……。その人たちが離れてまうと思ったら、怖くて値上げできません。たこ焼きだけやと大赤字です。せやから、おでんや惣菜、炊き込みご飯とか、たこ焼き以外のメニューの売り上げで補って、なんとかトントンにしとります」
東大阪市にあるお好み焼き店『かめや』は、店主の竹内好菊(こぎく)さん(85)が’69年に開店。およそ57年にわたって営業を続けてきたが、今年の2月いっぱいで閉店を決意した。
「昔と違い、お好み焼きは利益の出る商売ではなくなってしもてます。もう体力も限界やし、ここが潮時やと思いました」(好菊さん)
苦境のなか、なんとか『かめや』を立て直そうとする動きがある。孫の麗乃(れいな)さん(26)が店を継いで再オープンするというのだ。
それでも、好菊さんは「粉もん屋を経営するには厳しい時代だから、素直に喜ばれへんのです」と悲観的だが、前出の熊谷氏は麗乃さんのケースに希望を持っている。
「最近は新しく粉もん屋をオープンする20~30代の若者が出てきています。粉もん屋の倒産が相次ぐなか、新しい世代の店主たちが、若者の心を掴むような商品を生み出せるかどうかがカギになるでしょうね」
安くて美味しい庶民の味が、消滅の危機に直面している。
『FRIDAY』2026年4月10日号より