毎日新聞が過去のセクハラを追及したことを評価する。 若い世代は、年長の世代の逃げ切りは許せないですよ。 時代が違うとか、あなた方には言わせない!
Xにこういうポストがされたのは、2026年4月。4月3日に、毎日新聞社は男性の元役員が同社勤務の女性に、キスするなどのセクハラ行為をしていたことを公表。それらの報道に対してつけられたコメントだ。同社のHPに掲載された発表によると、セクハラは約10年前、懇親会後の帰路のタクシー内で行われたという。以下のように書かれている。
“当時、女性の上司らが被害の相談を受けていたものの、女性がハラスメントを相談窓口 に訴えるつもりはないと認識していたため、相談内容が人事部門などに共有されなかったなど、 会社として組織的な対応ができず、女性に寄り添った対応が不十分であったことを確認いたしました。なお、当該女性は相談窓口の案内を受けなかったという認識でいます。 当社として、女性に対し、深くお詫び申し上げます。”
この事例を多くのメディアが報じたが、メディアのみならず、どの企業も「自社はどうだろうか」と振り返る必要もあるだろう。この報道により毎日新聞社を非難する声も多くポストされたが、むしろ非難ばかりしていたら「非難されるから隠ぺいしよう」という方向にもなりかねない。刑事や民事の案件ではないにせよ公表したことは、メディアとしてハラスメントを許さないという姿勢を示したといえるのではないか。
また、この報道で「時効」という言葉もSNSで多く出ていた。ハラスメントの時効は3年や5年と言われている。厚生労働省が2024年1月に開催した「令和5年度 関東地区労使関係セミナー(第2回)」で成蹊大学法学部教授・中央労働委員会地方調整委員・原昌登氏による「ハラスメントと時効の問題について」というレポートに詳しい。それを見ると、権利を主張し、争うことが可能といえる状態になっている「主観的視点」と、被害者側が賠償請求できると知らず、結果として 賠償請求が行われないままという「客観的視点」や、内容によっても異なるが、最長20年だという。
それは、ハラスメントが与える心の傷がより明らかになってきたということも理由のひとつではないだろうか。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。「セクハラは心に大きな傷を残します。被害者の中には、自分が自分ではないような感覚に陥り、感情が乏しくなる場合も。また、現実感が希薄になり『ぼーっとしている』と思われることもあるのです。他にも多くの弊害が表出し、人間関係に影を落とすことがあります」という。
学生時代は警察官を希望していたが、当時は身長制限があり、受験資格はなかった。一般企業に勤務するが、目の前の人を助けたいという思いは強く、探偵の修行に入る。探偵は調査に入る前に、依頼者が抱えている困難やその背景を詳しく聞く。山村さんは相談から調査後に至るまで、依頼人が安心して生活し、救われるようにサポートをしている。
これまで「探偵が見た家族の肖像」に続く山村さんの連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにして行ったのかも含め、様々な事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮しながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回山村さんのところに相談に来たのは、65歳の会社経営者・寛治さん(仮名)だ。「娘の夫のことを調べてほしい」と連絡をしてきた。聞くと、娘は14年前に受けたセクハラがまだ大きな傷となっていて、それも夫との関係に影響しているというのだ。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWeb連載など様々なメディアで活躍している。
寛治さんから連絡があったのは朝8時でした。「娘の夫の様子がおかしい。大至急調べて欲しいのです」と言うので、1時間後にカウンセリングルームでお会いすることにしました。
寛治さんは、スラリと背が高く、英国ブランドのブルゾンがとても似合っています。ゆとりがある人独特の雰囲気を持っており、テーブルに置いた車のキーはドイツの高級車ブランドのもの。住まいは横浜の高級住宅街、職業は会社経営です。
「朝早くからごめんなさい。娘のことが心配なのです。娘は色々問題があり、アイツ(夫)と結婚させたのも、子供を作らせたのも私が干渉したからです」
端整な顔立ちを歪め、苦しそうに話す寛治さんに、まずは、背景から伺いました。
「5年前、いつまでも実家にいる娘に対して、『このままでは、この子が一人になってしまう』と思い、半ば強制的に見合い結婚させました。相手は知人から紹介された大手企業に勤務する男です。娘は“見てくれ”もいいし、性格が内向的だけれど、頭もいい。アイツが乗り気になっていることを察知し、娘を結婚させてしまったのです」
実は、寛治さんが慌てて結婚させた背景には、娘が受けた過去の性暴力がありました。
今、娘は40歳、夫は42歳で2人の間に4歳の娘がいます。娘は養護教諭の資格を持っており、近所の特別学級で臨時職員をしているとのこと。
「娘は26歳まで正規職員で働いていたんです。でも、児童の保護者から『相談がある』と言われ、2人で教室に入り話していたところ、終わり間際に強引に抱き寄せられて、体を触られた。無理やりキスもされたそうです。それ以来、出勤できなくなってしまいました」
娘は男性に対して臆病なところがあり、もちろんこの保護者と恋愛関係はありませんでした。つまり子供の相談を理由に、学校の中で無理やり性暴力を受けたのです。寛治さんが学校に責任を追及しにいくと、当時の校長から「犬に噛まれたようなもので、よくあることです」と軽く扱われた。加害者のところに行くと、「向こうから誘ってきた」と開き直られる。警察沙汰にすることも考えましたが、娘から「やめてほしい」と言われ、泣き寝入りをすることに。
「娘はこの一件で深く傷ついて、学校にもいづらくなり、辞めてしまいました。『私にも隙があった』と自分を責めているのです。私も『もっと別の対応ができたのではないか』と夜中に跳び起きることがあります。今でもあの加害者と校長の浅ましく下卑た顔を忘れられません」
14年前は、今よりもさらにセクハラが社会で軽く扱われていました。娘は学校に訴えただけなのに、加害者から、娘から誘われたかのようなうわさを流されたのです。ひどい二次被害にさらされ、孤立無援になりました。まるで加害者側しかし、加害者の吹聴行為自体が加害者側の名誉毀損だなと感じました。なにより娘はそれで大きな心の傷を負い、仕事をすることもできなくなったのです。
「娘はそのせいで、引きこもるようになりました。当時、私の妻ががんの闘病中で娘がいたから自宅で緩和ケアを受けることができた。妻が亡くなってからも、娘は仕事もせずに家にいる。一人娘なので、私がいずれ死んだら、この子は一人になってしまうと思い、結婚させてしまったのです」
35歳で結婚した娘は、すぐに妊娠し、穏やかな生活を送っているかのように見えました。
「今思うと、アイツはいい会社に勤めていて、顔がいい。それなのに37歳まで独身だってことは事故物件なんですよ。まず、おかしかったのは、娘が産後ウチに来るというのでOKしたところ、半年近く帰らなかったんです。理由を聞くと『泣き声がうるさいからと、夫に怒られる』と言う。娘がウチに来ている間、2回ほどしか顔を見せに来ませんでした。我が子なのに信じられないと言ったところ、『僕の遺伝子で生まれた子供だと認識していますよ』と言う。娘に対しても愛情が希薄で、単なる家事要員と捉えている節がありました」
寛治さんは心配しつつも、父親不在のまま孫が成長するのはよくないと思い、娘と孫を自宅に帰します。
「娘は事件以来、感情が希薄になり、ぼんやりしていることが増えたので、何を考えているかわからないのです。それから約3年、車で30分の距離に住んでいることもあり、時々私の家に帰ってきては、その度に10万円、20万円と渡していました。娘は専業主婦なのに、生活費を7万円しかもらっていないからです。この生活費の交渉も私がしたんですよ」
おそらく、娘はセクハラの被害により、自分が自分ではないような感覚に陥っている。さらに、他人への不信感を経験したので、素直に要望を口に出せない。心の傷はまだ深く、カウンセリングや精神科の診察が必要だと感じました。
ちなみに、娘夫婦が住んでいる家は、寛治さんの会社の持ち物で、駅から近いオートロックの3LDK物件。通常の家賃相場は20万円をゆうに超えるものです。それを破格の10万円で貸しており、この家賃と光熱費は夫が払っているそうです。
「去年から娘が働き始めてからは、光熱費の半額を出せと言っているらしい。それを聞いて離婚させようと思っていたら、先ほど娘から連絡があり、アイツが家を出たと言うのです」
そのまま離婚できるなら好都合ではないかと思っていましたが、寛治さんは黙っている。何か言いたいことがあるのではないかと、沈黙に寄り添っていたら「娘が特殊詐欺に引っかかり、200万円を振り込んだのです」と言ってきました。このお金は、家族のもしものためにと、寛治さんが夫に言い、それぞれ100万円ずつ出し、プールしていたお金です。
「1ヵ月前、娘が勤務中に神奈川県警を名乗る男から電話があり、『ご主人が痴漢で現行犯逮捕された』と言われます。これを信じ込んでしまった娘は、相手の言うままにお金を払ってしまった。夜、帰ってきた夫に『そんなの詐欺に決まっているだろう!』と激しく罵られ、叩かれたそうです」
セクハラやパワハラの被害者は、相手から強く言われたり急かされたりすると、相手の言う通りに動いてしまう傾向があります。これは身を守るための反応です。それに、詐欺に騙されてもっとも悪いのは詐欺師であり、夫のフォローをしたつもりでやったことでもあります。夫はエリートとして成功してきました。もしかしたら誰かの心に寄り添う経験をしてこなかったのかもしれません。
「それ以降、ずっと娘は夫に責められていたそうです。『もう限界だ』と娘が言うと、『俺も限界だ』と出ていった。そしてLINEで『もう一緒に暮らせない。離婚しよう。俺を探すな』と来たのです」
寛治さんは娘から送られてきたスクリーンショット画面を見せてくれました。LINEですがゾッとするほど冷たい言葉が続いていて、娘や我が子である孫に対して、ひとかけらの愛情も感じません。
「そういう奴だったんですよ。僕は娘に申し訳ない気持ちでいっぱいですし、アイツを許せない。どうせ離婚するなら、こちらの優位に進めたい。そこで知人の弁護士に相談したところ、『そんなに早く家を出るっておかしい。きっと女がいる』と調査を勧められたのです。彼から山村さんを教えていただき、連絡しました」
寛治さんは「ヤツは冷血人間で、変わり者なので決してモテるタイプではないです」と言いますが、男女のことはわかりません。寛治さんは婿の写真を持っていないので、娘に提供いただくようにお願いすると、プライベートなものは1枚もないとわかりました。
「もともと、噛み合っていない夫婦だったんですよね。娘はワンオペで育児をしていましたし。休みの日も一緒に出かけなかったのでしょう。写真といえば、この結婚式のものだけですが。これでアイツの足取りを追ってください」
少し気になるのは、娘はセクハラ被害のあと、きちんとメンタルケアがされていたのだろうかということ。調査をしながらも、彼女が心のケアをすることは必須ではないかと感じます。
まずは現状を知る必要があります。寛治さんの切実な思いを受け、調査に入ることにしました。
◇14年前の性暴力をきっかけに仕事をやめざるを得なかった。まずはそれを加害者はどう思っているのかと感じてしまう。相手にとってはちょっとしたお遊び、おふざけなのかもしれないが、された側に大きな傷になることがあるのだ。
せめて寛治さんの娘が怒鳴られたり叩かれたりせず、お子さんと笑顔で安心して暮らせる環境を作ってほしい。
そのためにもまずは現状を知ることが大切だ。調査の結果は後編「結婚5年で家族写真ナシ。14年前の性暴力被害をひきずる40歳妻がモラハラ夫の浮気で決断したこと」で詳しくお伝えする。
【後編】結婚5年で家族写真ナシ。14年前の性暴力被害をひきずる40歳妻がモラハラ夫の浮気で決断したこと