元警視庁警部補の小比類巻文隆氏(52)は’93年に入庁。’23年に退官するまで、国際捜査官として30年のキャリアのほとんどを薬物対策、組織犯罪対策に費やしてきた。先週号の「芸能人篇」に続き、違法薬物の密輸など闇組織との攻防について聞いた。
日本で広がる違法薬物の密輸捜査には香港などの捜査機関と協力関係にあるという。そして、話は日本で活動する外国のスパイの捜査に移る。
「見たことねえ銃でな」
と首を傾(かし)げる親分さんに「ロシア生まれで、世界中で使われている自動小銃ですよ」と説明したらさらに「弾倉がバナナみたいに曲がってんだよ」と言うから「だから、バナナマガジンって言われているんですよ」と。
当時、「北朝鮮は不審船でドラッグを日本に密輸して、空いたスペースに拉致した日本人を乗せて帰った」と言われていました。
日本は「スパイ天国」と言われていますけど、確かに国内には北朝鮮のスパイが潜入していて、日本のヤクザと接触していました。薬物の密輸の算段をつけていたのでしょう。我々を撒くために特殊な動きをしていました。
例えば、銀座の百貨店に入ってエレベーターに乗る。で、乗ったまま降りずに何回も昇って降りてを繰り返す。そうやって、尾けている人間をチェックするわけです。
こちらも彼らの動きはわかっているので、ターゲットがエレベーターに乗ったら追わず、外に出て出入り口を押さえます。百貨店の警備員にも協力を要請しました。
スパイだとは言えないので、「この男は万引きの常習犯だから」と見つけたら連絡するよう言付けておく。そうしてスパイが中国経由で北朝鮮に帰国するまで確認していました。対応する法律がないから逮捕できなかっただけで、行動確認も捕捉もしていたのです。
東京・上野で今年1月に起きた4億円強盗事件の一報を聞き、小比類巻氏は「日本と香港の犯罪組織が絡んでいるな」とピンと来たという。
根拠は逃走に使われた車が暴力団員の家族名義だったこと。その3時間後に羽田空港で何者かに襲撃された男が、香港に渡ったその日に再び襲撃されて大金を奪われ、犯人グループと一緒に事件翌日に逮捕されていること……。
「予防拘束」と言って、容疑が固まらないうちに拘束する権限を持つ捜査機関が海外には存在するのですが、香港当局に予防拘束の権限はない。それでもスピード逮捕が実現した。これが何を意味するかというと「内通者の存在」です。
上野で4億円を奪われた男らは「香港に行って金を買うつもりだった」と話しています。巨額のカネが香港に持ち出される日時を日本の暴力団と、香港の警察に流した人間がいたということでしょう。
香港には「14K」と「新義安」という世界最大級の犯罪組織があります。香港マフィアと言えば「三合会」が有名ですが、これは「14K」や「新義安」が組織の名前が表に出ないようにするために作った連合チームのようなもの。「香港」と聞けば我々は国際犯罪を警戒します。
今回、金の売買を重ねて消費税分を儲けるというスキームばかりが報じられていますが、では最初に金を買った原資は何なのか。そこが問題です。私は特殊詐欺などで得た犯罪収益だと見ています。
犯罪収益で金を購入し、売買を重ねることで元が何のカネだったかが見えなくなる。これはマネーロンダリングの典型的な手法です。映画でマフィアがレストランを経営しているシーンが出てきますよね。あれも考え方は同じ。犯罪収益を店の売り上げにして、きちんと納税することで、元のカネが何なのかを見えづらくしているのです。
3月半ば、上野4億円事件をめぐり暴力団員ら7名が逮捕されました。実は日本の半グレ組織の関係者が、この事件の絵を描いていた可能性があると私は見ています。その男は暴力団とも付き合いがあり、すでに出国しています。
中国と香港に強いSに聞いたら、返事がありませんでした。「沈黙はイエス」と言いますから……興味深いですよね。
’02年9月、奄美大島沖で引き揚げられた北朝鮮の工作船。海上保安庁の巡視船との銃撃戦の末に沈没していた
『FRIDAY』2026年4月10日号より