コロナ禍の「三密回避」をきっかけに簡略化が進んだとされる葬儀。今や家族葬が増え、直葬なども珍しくなくなっているそうだが、どんな形であれ、日本人であれば避けられないのが火葬だ。遺族にとって、火葬場は故人に最後の別れを告げる場所でもある。
そんな哀悼の場である斎場(ここで言う斎場とは火葬場が併設されたセレモニーホールのこと)で働く人たちは「火葬の数だけドラマがある」と口を揃える。
前編記事『子供を失った母親が棺と一緒に火葬炉に入ろうとして…!火葬場職員が見た壮絶「遺族ドラマ」』につづき、職員たちにインタビューし、自身が見聞きした「忘れらない人間模様」について語ってもらった。
「私の場合、親子ではなく男女の別れにドラマを感じました」
そう話すのは7年前から斎場で働いている小関那智さん(仮名・40歳)だ。
「私がこの仕事を始めたばかりの頃のことです。50代の裕福そうな男性の火葬がありました。クモ膜下出血での急死ということで、参列されたすべての方が『あまりにも突然で気持ちが追い付かない』とおっしゃっていました」
喪主を務めたのは、故人と26年間連れ添った同世代の妻。遺影は「銀婚式を祝う食事会」で撮ったものだった。
「夫の急死は相当ショックだったはずなのに、参列者への対応や式の段取りなど、気丈に振舞っていたのが印象的でした。思わず、『しっかりしていらっしゃるんですね』と言ってしまったのですが、『夫をしっかり送るのが妻の務めですし、取り乱したりしてみっともない姿を夫や夫の関係者に見せるわけには行かないので』とおっしゃったときの毅然とした表情に気圧されそうになりました」
火葬が終わり、収骨のアナウンスが流れ、参列者が火葬炉のある部屋に移動すると、どこからともなく30歳前後と思われる若い女性が合流した。
「あんな人いたかな?」と不審に思った小関さんは女性をさりげなく監視していると、女性は隠れるようにして収骨を見守っていた。
ところが、遺骨がすべて骨壺に納められようとした瞬間、女性は走り出し、職員が掃き集めようとした遺骨の欠片を奪い取った。
「あっという間の出来事でした」
慌てて立ち去ろうとする女性を故人の妻が押さえつけ、「返しなさい!私の夫なのよ!アンタには渡さない!」と絶叫。
実はこの女性は故人の愛人だったのである。
「愛人の存在を知っていた奥様は『アンタはここに来られる立場じゃないでしょう!』とも言っていました」
遺骨を奪い返そうとする正妻と、意地でも渡すまいとする愛人のバトルは壮絶なものだった。
「どちらも一歩も引かなかったですからね。収拾がつかないとは、まさにこのことだと思いました」
ふたりがつかみ合いをして暴れたせいで骨壺は倒れ、キレイに納められたはずの遺骨が台車の上だけでなく、床にまで散乱。さらに灰が舞い上がって、その場にいた全員がむせて咳き込むという大惨事になった。
男性の遺族らが羽交い絞めにしてどうにかふたりを引き離したものの、言い合いは収まる気配がない。
「夫のものは灰の一粒だって私のもの!」と正妻が言えば、
「私にももらう権利がある!●●さん(故人の名前)だって、私に『俺が死んだらお前が骨を拾ってくれ』って言ったんだから!」
と愛人も言い返す。
「ドラマか映画でも観ているような、絵に描いたような修羅場でした」
そんなふたりの間に入ってその場を納めたのは、愛人と同世代と思われる、故人の娘だった。
「娘さんはまず、母親を落ち着かせ、それから愛人に対して『後程分骨に際してご相談させていただきますので』ときっぱりと伝えていました。その冷静過ぎる姿に愛人も圧倒されたようで、おとなしく引き下がりましたよ」
故人を巡る愛憎劇。その後どうなったのかはわかりかねるが、
「罪深い男性だとつくづく思いました」
小関さんはそう振り返った。
罪深いのは故人ばかりとは限らない。
小関さんはこんな光景も目にしていた。
「40代の男性の火葬の時です。最後の最後まで棺にしがみついていた奥様がいました」
夫の名を呼びながら泣き崩れる妻の姿は、その場にいた全員の涙を誘うものだった。
「その後、控室に移動になったのですが、簡単な挨拶を済ませた後、奥様の姿が見えなくなったんです。その頃はだいぶ奥様も落ち着いていましたし、参列の皆さんも『何か打ち合わせでもあるのだろう』とあまり気にしていない様子でしたが、私は心配だったので探しに行ったんです」
小関さんが妻の姿を見つけたのは斎場の敷地内の隅にある喫煙所だった。人目につきにくい場所にあるためか、妻の他に人影はなかった。
「奥様はタバコを吸いながら、スマホでしゃべっていました」
先ほどの「号泣」ぶりと、今の「紫煙をくゆらせつつも、時折笑顔を見せながら」会話を続けている妻の姿に、「強烈な違和感」を抱いた小関さんは気取られぬように妻に近づくと聞き耳を立てる。
「どうやら奥様が話していた相手は、自分の不倫相手のようでした。『○日までは忌引きで会社休むから昼間会えるよ!』とか『慰謝料請求される前に(夫が)死んでくれてホッとしたでしょ?』なんて会話が聞こえてきました。そのニコニコした顔を見て『さっきまでのアレは何だったんだ』と呆れ果てました。生前の故人との夫婦関係はわかりませんが、不謹慎にも程があるだろ、と」
小関さんは夫だけでなく参列者まで欺いていた妻の振舞いに、憤らずにはいられなかったという。
最後に登場するのは、昨年、30年間以上勤めた斎場を退職した小山内智子さん(仮名・58歳)だ。
「長いこと、さまざまな遺族の方と触れ合って来ましたが、あれほど醜いと思ったことはないですね」
それは長患いの末に亡くなったという70代男性の火葬だった。
「コロナ禍が収まっていないということで、直葬(通夜や告別式などを行わずに火葬すること)でした。立ち合われたのは故人の奥様と4人の子どもたちです。子どもと言っても皆さん40代~50代くらいで、故人の孫も何人かいらしてました」
長年連れ添った妻が泣き崩れる横で何の感情も見せずに立ち尽くす子どもたち……これだけなら「そう珍しいことではない」光景だそうだが、収骨を待つ間に異変は起きた。
「さっきまで黙り込んでいた子ども同士の揉める声が聞こえて来たんです」
心配になった小山内さんが、遺族が集まっている部屋を覗くと、骨肉の争いの真っ最中だったという。
「遺言がどうの、遺留分がどうのといった言葉を出しながら、遺産を誰がより多くもらうかについて争っていました。『介護をした』『介護費用を出した』といったことから、『大学まで行かせてもらったくせに』『家の頭金を出してもらったじゃないか』など、昔の話まで持ち出していましたね。
そのうち、取っ組み合いまで始まって、奥様が『兄弟同士がお金で揉めるなんてやめて!』と止めに入っても収まらない。それどころか『そもそも母さんが……』ととばっちりまで受けていて、それを孫が『おばあちゃんを責めることないでしょ!?』と止めに入り、別の孫が涙を浮かべながら『パパたち最低!』と非難。すると『子どもは黙ってろ!』と怒鳴り返される……まさに修羅場でしたね」
斎場には他に複数の遺族がいたこともあり、「周りの迷惑になりますので」と小山内さんが咎めると、彼らは外に出て行き、今度は駐車場で言い争いを続けていたらしい。
「控室に残っていた故人の奥様は『情けない……私も死んでしまいたい』と何度もおっしゃっていました」
その場に残された、婿、嫁は一様に苦い顔をし、孫たちは怯えていたように見えたという。
「揉めていた子どもたちは収骨になっても戻って来ませんでした。遺産の心配をする前にまずは弔いの気持ちを持って欲しかったですね」
数日後、故人の妻が「先日はお騒がせをしまして……」と菓子折りを持ってやって来たそうだが、あきらかにやつれていたという。
「心労なんだろうなと思いました。血は水よりも濃いと言いますが、その血もお金には勝てないのかとやるせなかったですね」
これでは故人が浮かばれない。
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