「家の中に他人がいるのが、どうしても苦手なんです」
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そう語る関川さん(仮名)は、恋人が家に泊まることすら苦痛に感じるタイプだった。そんな彼が唯一「一緒に暮らしても平気だ」と思えたのが、自分に対して何も要求してこない、何も聞いてこない女性だった。
居心地の良さから結婚を決め、穏やかな日々が続く……と思っていたが、10年後、妻は「もう我慢できない」と感情を爆発させた。
「放置してほしい男」と「察してほしい女」の間に何が起きていたのか? 『モテない中年 恋愛格差と孤独を超えて』(PHP新書)の一部を抜粋し、ある夫婦のリアルなすれ違いと破局の真相を紹介する。
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関川さんは20代の頃、大手の美容会社で働いていた。
「職場は女性ばかりだったので、恋愛の相手には不自由していなかったし、女性と話すことも得意でした。その頃の僕は『結婚しない自由』を満喫していたのだと思います。仕事も楽しかったし、女の子と過ごす時間も楽しかった。だから誰かと一緒に暮らす必要性を全く感じていませんでした」
写真はイメージ graphica/イメージマート
関川さんは、昔から「家の中に他人がいることが苦手」という意識があった。
「男性の中には数十人に1人くらい、僕と同じようなタイプがいると思うのですが、家の中に他人がいることが本当にダメなんです。仲が悪いとかではなく、単純に『同じ空間に誰かいる』という状態が苦手で。実家でもそうでした。親や兄弟と同じ空間にいるのが嫌で、高校を卒業したらすぐ家を出ました。
誰かがそばにいると、息が詰まるような感覚になるんです。恋人であってもそうで、付き合っても家に泊まられるのが苦手でした。例えば一緒に過ごしたあと、相手が着替えて寝る準備を始めると、『え、寝るの?』って思っちゃう。こっちはもうスイッチが切れているのに、相手がまだその場にいるのが耐えられない。そういうタイプなんです」
そんな関川さんの前に、1人だけ「この人となら一緒に暮らしても平気だ」と思える女性が現れた。
「彼女とは、一緒にいても全く苦しくなかった。2泊でも3泊でも大丈夫で、まるで自分の空間の一部のように感じられた。自分でも不思議でした。なんでこの人だけ大丈夫なんだろう? と。
彼女の大きな特徴は、『僕に何も求めてこない』ことでした。彼女は『結婚したい』と口にはしていましたが、僕に『結婚について、どう思う?』とか『いつ結婚するの?』とか聞いてこない。言いたいことだけ言って、それで満足してしまう。僕に答えを求めないんです。その距離感が、僕にはものすごく心地よかった。だから、自然と一緒にいる時間が増えていって、気づいたら彼女と結婚することになっていました」
当時、関川さんはサラリーマンだったが、将来的には自分で会社を興したいと考えていた。
「付き合っている男が『独立したい』と言い出したら、女性は心配するじゃないですか。特に結婚を考えている相手であれば。でも、彼女は何も言ってこなかった。
正直に言えば、結婚を決意するような明確な理由があったわけではありませんでした。彼女の家族ともよく食事に行くようになって、気づいたら周りの環境が全部整っていて、『ここから逃げるくらいなら、もう結婚しちゃおうかな』みたいな感じでした。
もし彼女が、ぐいぐい結婚を迫ってくるタイプだったら、僕は絶対にしていなかったと思います。でも彼女は、そういう圧を一切かけてこなかった。結果的に、それが僕を結婚へと動かしたんでしょうね。
今思えば、彼女はとても賢かったと思います。僕みたいなタイプと付き合うには、それが最適解だったのかもしれません」
結婚後も、お互いに干渉することはなく、穏やかな夫婦生活が続いた。いざ結婚をしてみると、妻と2人で過ごす時間は、とても幸せなものだった。結婚生活の素晴らしさを実感したことで、結婚を願う人のサポートを行う結婚相談業務に興味が湧いた。
「とても静かな家庭でした。ただ、彼女はずっと『子どもが欲しい』と思っていたみたいなんです。彼女なりに、それとなく伝えていたようなのですが、僕は気づかなかった。結婚してから2年くらい経って、彼女もいい加減はっきり言わないと伝わらないと思ったようで、初めて『子どもが欲しい』と言われました。僕は『そんなに欲しかったの?』って驚きました。上から目線のように聞こえてしまうかもしれませんが、そこまで言うなら応えてもいいのかなと思って、結果的に子どもを持つことになりました」
子どもが生まれた後も、関川さんにとっては居心地の良い関係のまま、結婚生活は続いた。しかし10年ほど経った頃、彼女が突然、感情を激しく表に出すようになった。
「もう我慢できない、と言われて、僕はびっくりしました。何をそんなに? って。でも彼女にとっては、結婚してから10年間、ずっと自分が言いたいことを我慢してきた生活だったそうです。僕は『何も言わない彼女』との関係が楽だったけれど、彼女にとっては、沈黙の積み重ねが大きなストレスになっていた。
一番大きかったのは、子どもが生まれたことで、彼女の中に『守るべき存在」ができたことだと思います。それまでは僕と一対一の生活だったので、『自分が折れないと』と思って、僕の性格に合わせて我慢していたけれど、子どもが生まれてからは、子どもを守るために『自分が変わらなきゃ』と思ったんでしょうね。僕に対しても『こいつを倒さないと』と思うようになったのかもしれません。
ずっと気持ちを溜め込んできた彼女が、勇気を出して僕に言いたいことを言うようになって、そこから夫婦関係のバランスが一気に崩れました。

それまでは2人で一緒に居られるだけでいい、という感じだったのですが、あれこれ求められ出すと、僕も『ああ、なんか面倒くさいな』という気持ちになっていきました」
男性の中には、女性に対して多くを望まない一方で、女性からあれこれ要求されたり、小言を言われることを嫌う人が一定数いる。そうした男性たちは、女性に対して「自分に対してあれこれ言わないでほしい」「そこにいてくれるだけでいいんだよ」という態度を取るが、女性から見れば、「それでは、一緒に暮らしている意味が分からない」となってしまう。
こうした「放置してほしい男性と、コミュニケーションを取りたい女性のすれ違い」「無自覚な男性と、察してほしい女性のすれ違い」は、あちこちの家庭で起こっている問題だろう。
「今考えれば、結婚した後、僕は何も変わらなくてよかったから楽ちんだったけれども、彼女にとっては、子どもが欲しいということを2年間も言えなかった。本当に我慢の生活だったと思います。
でも『初めからそう言ってくれれば良いのに』とは思わなくて。初めからそう言われていたら、そもそも僕は彼女と結婚していないから。その点は彼女もわかっていたので、言わなかったのだろうと思います」
離婚の際は、揉めるようなことはなく、穏やかに関係を解消することができた。
「僕に対して、何も言わず、何も求めず、静かに暮らしてきた。それが彼女なりの愛情の形だったと思います。今も普通に連絡を取っています。憎しみも恨みもありません。
夫婦の関係性が悪くなっている状態で、無理に結婚生活を続けたところで、子どもにとってプラスになることはありません。そのため、子どもにもちゃんと説明しました。『お父さんとお母さんは別々の場所に住むことになりました。もう1軒おうちができるので、どちらのおうちにも好きな時に遊びに来てください』という感じで。
全然ジメッとしていない説明のされ方をしたので、本人もジメッとしようがなかったと思います。『じゃあ、今日帰ってきたら、お父さん家にいないから』みたいな感じで家を出て、別居をスタートしました」
〈「苦労してまでやりたくない」30歳の時点で童貞である男性は全体の約3割!? 当事者たちが抱える“リアルな心情”に迫る〉へ続く
(坂爪 真吾/Webオリジナル(外部転載))