〈結婚条件の一つは「婚外パートナーもOK」なこと…“友情結婚”をしたゲイ男性とアセクシャル女性が送る夫婦生活のリアル〉から続く
一般的な夫婦と異なり、恋愛感情や性行為のない「友情結婚」を選んだ男性のカイトさん(40代)と女性のメイコさん(30代、ともに仮名)。それぞれ、カイトさんがゲイ、メイコさんは他人に対して性的欲求を持ちにくいアセクシャルという性的マイノリティだ。
【画像】「性行為なし」の“恋愛結婚”で長女を授かった夫婦、カイトさんとメイコさん
そんな2人は、性行為を行わずに子を授かり、現在は2歳となる娘を育てている。一般的な結婚とは大きく異なる価値観で暮らし始めた2人は、どのように子育てを分担し、家族を形成しているのか。子どもが成長した後は、どんな未来を描いているのか。(全3回の3回目/最初から読む)
長女と昼寝するカイトさん(写真提供=本人、以下同)
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――お2人は、注射器具(シリンジ)を用いて、採取した精液を膣内に注入する「シリンジ法」で妊娠されました。妊活での苦労はありましたか。
カイト 妊活の苦労は、メイコさんがほとんど引き受けてくれました。
メイコ うーん、私としては大きな苦労はありませんでした。お互いブライダルチェックで問題がなかったので、性行為を伴わない最も手軽なシリンジ法を試して。もし難しければ、また違う方法を試そうと思っていたんですが、半年ほどであっさり妊娠したというのが、正直なところです。
――お子さんが誕生した時はどうでした?
カイト いやぁ、よく「感動して泣いた」とか聞きますが、本当に何も感じなくて(笑)。僕自身がどうしても子どもがほしいというより、両親を安心、納得させるためという打算的な考えが強かったので、実感が湧かなかったのかもしれません。「本当に生まれたんだ。これから大丈夫かな」という感じで。
メイコ あはは。私は初めてのことでいっぱいいっぱいでしたね。妊娠中は「これを2回やるのは無理だわ」と。精神的にも体力的にもキツくて。「とにかく無事に生まれてくれ」と願うばかりで、生まれたときは心底ホッとしました。

カイト つわりがしんどいって言ってたもんね。僕は、実際に育てるなかで親としての実感が湧いてきている感じがします。今となっては、とてもかわいいです。
メイコ それまで子どもと接する機会がなかったので未知の存在でしたが、生まれてみたらかわいいですね。
――お子さんが生まれると、生活は一変しますよね。
カイト 出産後は、1カ月の育児休暇を取得したんです。その間は、夜中に3時間おきに起きて授乳をしたり、オムツを変えたりしていました。メイコさんは生まれてしばらくは育児に専念していましたが、あれは1人じゃキツかったよね。
メイコ 私は妊娠中に退職して、生後8カ月までは専業主婦でした。カイトさんが育休を取得してくれて、ありがたかったです。夜に睡眠を取ることができたので。カイトさんが仕事に復帰した後は、しばらくカイトさんのお母さんが手伝いに来てくれていました。保育園に預けるようになってからは、再就職してパートで働いています。

――子育てを通じて、お2人の関係性にも変化がありましたか。
メイコ 過ごし方の変化としては、それまでは自室にこもることも多かったのですが、リビングで家族で過ごす時間が圧倒的に長くなりました。
カイト 結果的に会話も増えたのかなぁと。あと、「お互いが協力して子育てをがんばっていこう」という感じで信頼関係が育まれ、絆が深まった感覚はありますね。
メイコ 対外的には、家族という一つの単位として「お父さん」「お母さん」と見られるじゃないですか。そういう機会が増えたので、「確かにそうだよね」という感じで、家族である認識が深まったかなぁと。
カイト 子どもの急な体調不良など突発的なトラブルが増えますが、その対処は子どもが生まれる以前と変わりません。お互いの仕事の状況を踏まえながら相談し、「お互いができることをそれぞれやる」という。
――すれ違いや衝突が増えた、なんてことは?
カイト 問題があってもなんとかしないといけないので、衝突している場合じゃないよねって。
メイコ 衝突していても問題は解決しないからね。
――むしろ、関係性は前よりも良くなった?
カイト うん、良くなったと思いますよ。両親を安心させることもできましたし、総じて結婚生活には満足しています。
メイコ 私も同じ感想です。満足しています。

――ご両親との関係性はどうですか。
カイト 良好かなぁと。お互いの両親が遊びに来る機会は、頻繁にあります。
我が家からそれぞれの実家まで車で3時間ほどかかるので、子どもにとって長距離移動はキツいだろうと、こちらからはあまり訪問していなかったんです。でも、娘の成長を機に長距離も耐えられるようになったので、これからは1年に1~2回ぐらいは顔を見せに行こうかなと思います。
メイコ 以前は両親とぶつかることが多かったのですが、結婚して子どもが生まれてからは、以前より関係性が良くなりました。私の人生に口うるさく言わなくなったので。両親とは、適度な距離感で付き合っていけたらいいなと思います。
――以前、「友情結婚のことは子どもには話さない」とお話しされていましたね。
カイト 毎回聞かれるのですが、そもそも話すタイミングがないと思うんです。もし、「どうやって出会ったの?」と聞かれたら、「インターネットでママがパパを見つけてくれたんだよ」とは話すかもしれませんが、そこに恋愛・性的指向の話題が絡むことはないんじゃないかなって。もし、子どもにそこまで聞かれることがあれば考えますが、想定しづらい気がします。
――両親の関係が良好であれば、特に話す必要性はないのかもしれませんね。
カイト うん、そうですね。そんな機会がなさそうだし、あえて話す必要もないと思っていますね。インタビュー記事のコメントだと、ネガティブな意見もありますけど。
メイコ 両親が恋愛結婚か友情結婚かは、子どもの成長にあまり関係ないのではないかなと私たちは思います。

――子どもに関して、2人目は考えていないのですよね。
メイコ はい、子育てをしながら妊娠・出産をもう一度しようとは、とても思えず……。加えて、経済的にも難しいと考えています。それは、1人目の妊活のときから話し合っていました。
カイト 長女にしっかりお金をかけてあげたいなと。あとは、子どもが生まれる前、本当に子どもを愛せるのかという不安がお互いにありました。もし、生まれてきて愛情が育たなかったら、もう1人作るのは我々がキツいだろうなって。
でも、実際はそんなことなくて、子どもを幸せにしたい思いも芽生えました。一方で、僕らそれぞれの幸せも大事にしたい。そのためには経済的な基盤が大事なので、子どもは1人で十分かなと思っています。
――まだ先の話ですが、お子さんが大人になって家を出ていくとしたら、離婚もあり得るのでしょうか。
メイコ まだ考えていないですね。
カイト 本音を言うと、離婚するのは書類上めんどくさいかな。今、建売を買って一軒家に住んでいるんです。明確に決めてはいないけど、離婚はしないんじゃないかなと思います。
メイコ カイトさんのご両親みたいに、お互い自由に過ごすのもいいかなって。ご両親は時々好きな場所で別々に過ごしたりしていて、そういうのも楽しいと思います。旅行に行きたければ、1人で行ってもいいし。
カイト 父親が離島出身で、2カ月に1度、10~15日ぐらい地元に帰る生活をしているんです。子どもが巣立てば、それぞれの人生ではあるから、「好きなことをしたらいいよね」とは思っています。
――昨今はさまざまな媒体で友情結婚のことが紹介され始めています。目にした人から何か声をもらうことは?
カイト ポジティブな声では、「レズビアンやゲイで結婚について悩んでいたけれど、こういう結婚のスタイルがあるのだと初めて知りました」といった内容が多いですね。僕ら自身も性的マイノリティだけれど結婚せざるを得ない状況があったので、そういった人たちに一つの選択肢として友情結婚の実例を伝えていけたらいいなと思います。
ネガティブな声では「子どもに悪影響があるんじゃないか」とか。
メイコ 「両親に恋愛感情がなくて、性行為をしていないのに、子どもが健全に育つのか」みたいなね。紹介されている内容はほぼ同じでも、媒体によってコメントの内容が変わるから不思議だなと思っています。ヤフコメは割とポジティブな意見が多かったんですが、ABEMAの生放送は「子どもがかわいそう」みたいなネガティブな声が目立っていたり。見ている層が違うのかもしれないですね。

――コメント数が数千に及ぶこともあって、毎回すごい反響ですよね。友情結婚の認知や理解が広がっている感覚はありますか。
カイト 何かに出るたびに「知らなかった」というコメントが多くあるので、徐々に認知が広がっているのかもしれません。ネガティブな意見もあるので理解が広がっているかは分かりませんが……。
メイコ この前、芸人の「エレガント人生」さんが親友同士で結婚(※)をして話題になりましたよね。その投稿にたくさんの祝福コメントが付いていたので、また認知が広がった気はしますね。私たちとはまた異なる形だとは思いますが、いろんな形の結婚があることへの理解が広がったのは良かったなあと思います。
※編集部追記:吉本興業所属の男女コンビ「エレガント人生」は、2025年9月に交際関係なしでの結婚を発表。コンビ内での結婚とともに、友情結婚や交際0日婚として話題を呼んだ。
――友情結婚を考えている人から質問されることもあるのでは?
カイト Xアカウントのコメント欄やWeb上のコミュニケーション窓口に、ちょいちょい質問がきますね。「結婚生活の役割分担はどうしていますか?」とか。
メイコ 「話し合いの進め方」や「結婚までのなれそめ」とかもありますね。都度、お返事はしています。今のところ友情結婚のコミュニティはなくて、ゆるく当事者がつながっている感じなので、当事者の話が聞ける場がないんですよね。noteは、文章を書くのが好きだから続けているだけなんですが、結果的にこういう選択肢があることを知ってもらえたらいいのかなと思います。
(小林 香織)