みんな、北海道に憧れている。どこまでも続く雄大な大地と広い空、草を食む牛や馬。そして何より、身も蓋もないことをいえば食べ物がウマい。海沿いならば魚介類はいわずもがな。ジンギスカンに豚丼にザンギ。
【画像】クルマ遠征の客が“爆買い”する商品も…「関東のセイコーマート」の店内を写真で一気に見る(全31枚)
東京に暮らしていたって、百貨店の北海道物産展にはつい立ち寄ってしまうし、「北海道産」のラベルを貼った食材をスーパーで見かけるとこれはウマいに違いないとカゴに入れてしまう。行ったことがあってもなくても、潜在的に北海道への憧憬を心の中にしまって生きているのだ。
かように魅力に溢れている北の大地。そんな中、個人的に北海道旅行の大きな楽しみにしているものがある。北海道内、人里離れた辺境の地であろうとくまなくネットワークを広げるコンビニチェーン・セイコーマートだ。
草加駅から徒歩10分弱「関東のセイコーマート」には何がある? 撮影=鼠入昌史
セイコーマート、知っている人には言うまでもないことだが、一見するとごく普通のコンビニだ。セブンやファミマ、ローソンと何が違うの? と思う向きもあるに違いない。
けれど、中に入ればまったく違う。いや、もちろん基本的な商品のラインナップはコンビニそのものなのだが、何が違うって店内調理のお弁当「ホットシェフ」。これがとてつもないのだ。

いつだったか、日高地方の新冠にある道の駅のセコマで食べた「ホットシェフ」のカツ丼におったまげたものだ。柔らかくジューシーなとんかつ、ふわふわの卵、そして炊きたてのご飯……。あれだけウマいカツ丼は、いまだ巡り会ったことがない。おかげでいまでは北海道旅行の楽しみのひとつがホットシェフのカツ丼になっているくらいだ。

そんな愛し恋しのセイコーマート。が、東京に住んでいるとそうそう簡単に行くことはできない。まず身近なところにはセコマがないし、ならば北海道に飛行機で、というほど身軽でも富豪でもないからだ。なんとかならないものですか……。
そう思って探してみました。グーグルマップを使って探しました。すると、見つかりました。関東地方にも、意外とたくさんセイコーマートがあった。東京都内にはないけれど、埼玉県には結構な範囲で店舗展開しているようだ。
そのひとつが、草加マルエー店だ。東武スカイツリーライン草加駅の西口から、男(お)女(め)土(ど)橋(ばし)通りという仰々しい名前の通りを北に歩いて10分弱。あのオレンジ色の看板が見えてくる。

草加は東京都にも隣接するほとんど隣町だ。東京土産に草加せんべいを、なんてこともあるくらいだから、ここはもう東京にセコマといっていい(草加のみなさま、ごめんなさい)。ああ、本当に関東地方にセイコーマートあるんですね……。
しかし、ここではたと気がついた。考えてみれば、看板はセコマでもここはゴリゴリ首都圏の住宅地のど真ん中。さすがに北海道のセコマとは違うのではないか。あまりにも“北海道のセコマ”を期待しすぎると、かえってガッカリするのではないか。
などとちょっとドキドキしながら、セイコーマート草加マルエー店のトビラを開く。北海道のコンビニは防寒のために二重扉になっているところも多いが、ここ草加のセコマはもちろん自動ドアのみである。
さて、埼玉のセコマ、いったいどんな店なのか–。
一歩中に入ってみると、そこはまるで北海道でした。
レジ前にあれこれひとくち系の甘味を並べる棚があるあたり、北海道のセコマそのものだ。さらに入口の脇にはセコマオリジナルグッズのTシャツがぶら下がる。ドリンク売り場に足を運べば、セコマオリジナルのコーヒーから水、北海道ではおなじみのガラナと勢ぞろい。

カップ麺コーナーにも、いまや“絶対にむせるカップ麺”として知名度を上げた「山わさび塩ラーメン(改)」をはじめとするセコマのプライベートブランド商品がずらりと並んでいる。お惣菜やソフトクリームなども言わずもがな。
さらに驚くべきことに、冷凍コーナーにはホッケやホタテ、ジンギスカンなどが揃っていた。目隠しをして連れてこられたら、ここは北海道だと信じ込んでしまうに違いない。

そして例のホットシェフ。もちろん埼玉県は草加マルエー店にもありました。赤い地紋の一角には、日本一ウマいカツ丼をはじめとするできたてのお弁当が良い匂いを漂わせている。
いやはや、まるで北海道のセコマがまるごとそのままやってきたようだ。というより、北海道だろうが埼玉だろうが、セコマは徹底的にセコマなのである。
「関東地方には埼玉県と茨城県に100店舗展開しています。商品のラインナップは、基本的に北海道と同じです。北海道産の食材を使った質の良い商品をお手頃な価格でお届けする。これは北海道でも関東でも変わりません」
こう話してくれたのは、セイコーマートの関東地区で営業を担当している西島千貴さん。
「たとえば、羊蹄山麓の『Secoma 京極の名水』。ミネラルウォーターとしても販売していますし、この水を使ったコーヒーも人気商品です。豊富町にある牧場でとれた牛乳は濃厚で美味しい。アイスにももちろん使っています。カップ麺では、やはり『Secoma 山わさび塩ラーメン(改)』、北海道でもこちらでも人気がありますね」(西島さん)

西島さんによると、セイコーマートのPB商品は北海道にあるグループ会社の工場で作られていることも特徴だとか。ずらりと並んだセコマオリジナルの牛乳も、北海道は豊富町にある牧場で生産され、同町内にあるグループ会社の工場から運ばれているものだ。

「セイコーマートでは、商品の配送もすべてグループ会社の配送センターから運んでいます。北海道内はもちろんですが、関東の店舗も同じです。
茨城県の大洗港と苫小牧港を結ぶフェリーを使い、北海道で作られたオリジナルの商品を各店舗に配送しています」(西島さん)
商品を届けたトラックを空で帰すのはもったいない。そのため、本州の食材を積んで帰っているという。
「冬は北海道で野菜が採れなくなるので、茨城県産などの野菜を積んで運んでいます。そのほか、本州のメーカーに委託している商品なども引き取り、帰りのトラックに載せることで、できるだけ空で戻さないように工夫しています」(西島さん)

セイコーマートのグループ会社には水産物関連の会社から農業法人、惣菜やパン、和菓子・洋菓子やアイスの製造メーカーまで、つまりコンビニで扱う商品をひととおり扱う会社が揃っている。配送も自らの手で。そして北海道内ならば、商品を配送した先がもうそのまま大生産地ばかりだ。
北海道ならではの原材料がグループ会社の工場に集められ、商品へと加工されたのち各店舗に配送されていく。店舗への配送を終えたトラックは近隣の工場へ向かい、再び商品を積んで戻っていく……こうした流通のループが、お手頃で高品質のプライベートブランドに繋がっているのだ。
そして、そのループの途中でちょっと(といってもだいぶ遠いけれど)寄り道して、関東地方にもやってきてくれている。
「生産地の会社だからできることですよね。北海道にいると、北海道産の食材が当たり前のようにあるし、みんな毎日食べているので特別に感じることはあまりないんです。
でもこっちに来ると、みなさん北海道産ということで喜んでいただける。私も北海道出身なのですが、改めて故郷を誇りに思えました」(西島さん)

西島さんがこう話すように、関東地方のセコマの店舗には日常的なコンビニ利用とは少し違う目的でやってくる人もいるのだとか。
特に週末などにはクルマでやってきて、じっくりと商品を選んでまとめ買い、といったケースも珍しくない。まるで北海道物産展のノリだが、確かにそうしたくなってしまうのがセイコーマートなのだ。

「北海道ではセイコーマートがいちばん店舗数が多いコンビニなんです。店によっては野菜や肉などの生鮮食品も多く取り扱っていますし、地域によってはセイコーマートしか食品を扱う店がないというところもあります。

逆に言うと、北海道の人にとってセイコーマートって特別な存在じゃないと思います。それがこちらに来ると、ありがたがっていただいてSNSなどでも発信してくれて。ありがたいと思っています」(西島さん)
そして聞かねばならないのが、ホットシェフ。お味はやっぱり北海道のセコマのホットシェフと同じなんですよね……。
「もちろんです。お米もお店で研ぐところからやっています。店内調理のこだわりも、味も、すべて北海道と変わりません。
味についてはこれまでの試行錯誤の中で、誰が作っても同じ美味しい味になるように、マニュアルや地道なトレーニングでスキルアップに努めています」(西島さん)

惜しむらくは、草加マルエー店にはイートインコーナーがないこと(北海道でもイートインを設けている店舗は少ないらしい)。
だから、いくらカツ丼が美味しそうでも自宅まで電車に乗って持ち帰るわけにもいかないし、住宅地の真ん中だけに近くの公園でむさぼるのもよろしくない。なので、日本一のカツ丼はまたの機会に……。
それか、どうせならば東京都内、家の近くにもセコマができれば毎日でも通うんですが。
「いまのところ、東京への出店予定はありません。出店計画については専門のチームが検討して展開していますので詳しいことは申し上げられません。が、草加の他にも八潮など、東京のすぐ近くにセイコーマートがありますので、ぜひ足を運んでいただければ」(西島さん)
ともあれ、埼玉県のセイコーマートは埼玉県なのにまるで北海道であった。徹頭徹尾、どこまでいっても北海道のセイコーマートと変わらない。突っ込んだ言い方をするならば、まるでちょっとした北海道旅行のようだ。
東京都民の筆者にすれば、少なくとも草加は北海道よりはるかに行きやすいことは間違いない。北海道旅行気分を気軽にひとつ。セコマPB商品でも買って誰かにあげたなら、それはもう立派な北海道土産といっていい。やっぱりセイコーマート、道内でも道外でもみんなの味方なのである。

写真=鼠入昌史
(鼠入 昌史)