神戸のマンションで24歳の女性が見知らぬ男に刺殺された事件は、都会で一人暮らしをしている女性にとって他人事とは思えないだろう。あの事件の6日後、東京でも類似の「未遂事件」が起きていた。緊迫のエレベーター内で女性が難を逃れるために取った「とっさの行動」とは――。
***
【実際の写真】”几帳面そうな文字”でキッチリ書かれた「神戸女性刺殺事件」容疑者の履歴書
8月26日夜10時30分過ぎ。中央区日本橋箱崎町に住む30代女性は、コンビニに寄ってから自宅マンションへと歩いて帰宅していた。しばらくすると、背後から聞きなれない音が追いかけてくることに気づいた。
ペタ、ペタ、ペタ…。
雪駄が地面を擦る音である。女性は警戒して歩を速めたり、緩めたりしてみたが、不気味な音は一定の距離を保ったまま追いかけてきた。
つけられているかもしれない――。
不安に怯える中、自宅マンションまで到着してしまった女性。女性が住んでいたマンションはオートロック式ではなかった。雪駄の男も何食わぬ顔でマンション内に入ってきて、背後でエレベーターの到着を待っている。女性にとって幸運だったのは、その時、偶然、別の階に住む男性が帰ってきたことだった。
3人でエレベーターに乗り込んだが、雪駄の男を不審者と確信した女性は、自分の部屋があるフロアのボタンを押さなかった。そして乗り合わせた男性が押した8階で一緒に降り、男性に「さっき一緒にエレベーターに乗っていた男につけられていた気がする」と助けを求めた。
無事、自分の部屋に帰宅できた女性は翌朝、久松警察署に相談しに行った。警察が捜査を開始すると、管内のコンビニから「不審な男からつけられていると助けを求めてきた女性がいる」と110番通報が入った。
この女性は男からいきなり「抱っこして」と声もかけられたという。警察は付近を捜索し、近隣の公園にいた男を確保した。すると防犯カメラ映像から、前夜、マンションまで付きまとった男だとわかったのである。
男の名前は、台湾籍の住所不詳、無職の頼軒辰容疑者(36)。「邸宅侵入」の容疑で逮捕された。8月中旬に観光目的で来日し、近隣のホテルに宿泊していたという。
男は「知り合いだと思ってついて行ったが、人違いだったので逃げた」などととぼけているというが、その後の調べで、コンビニ付近から女性を500メートルも追尾していたことが分かった。さらに女性が8階で降りた後、1階まで戻ってから再び8階まで上がり、女性の部屋を調べるような行動を取っていたことも判明している。
この「未遂事件」は神戸の刺殺事件が起きてからわずか6日後の出来事である。都会で女性が暮らしていると、このようにいつ何時、見知らぬ男から狙われるリスクがあるのだ。
警察OBは「とにかく不審な男と2人きりにならないこと」と注意喚起する。
「オートロック式でも住人のふりをされてしまうと、不審者が入り込んでくることは避けられません。そういう時は、勘違いだったら申し訳ないなどとは思わず、絶対に2人きりでは一緒にエレベーターに乗らないこと。忘れ物をしたふりをするなどして、外に出てしばらくコンビニで買い物するなどの慎重な行動を取る。そして一度難を逃れたからと言って安心せず、明らかに怪しいと思ったらすぐに警察に相談に行くことです」
確かに今回の場合、女性2人がすぐに通報したため早期の逮捕につながった。神戸のような惨劇を防ぐためには、変質者がどこかに潜んでいると警戒して暮らしていく必要がある。
デイリー新潮編集部