大阪府の介護事業者(以下・K社)が運営する高齢者施設で起きた「入居者連れ去りトラブル」。前編記事『老人ホームで「入居者連れ去り事件」が発生…!大阪の介護事業者が明かす「恐怖の一部始終」』に続き、その内容を詳報する
だが、事はそれで終わらなかった。その後、K社が運営するグループホームから、次々と入居者がいなくなるという事案が発生したのだ。
K社のオーナーを務める橋本裕子さん(仮名)が言う。
「少なくとも5人の入居者さんがいなくなっています。本人から何の相談もなく、ある日突然、部屋から入居者さんがいなくなっているというケースもありました。
事情も行き先もわからないので、こちらとしてはどうしたらいいのかわからない。ただ、調べてみると、グループホームの関係者が私たちには知らせず、兄と連絡を取り合っていたことが判明しています」
一体どういう理由や経緯で「連れ去り」が行われたのか。本誌記者が橋本さんの兄の携帯に連絡。事情を聞くと、兄はこう主張した。
「ホテルの件は入居者の親族から『建物から出たい』という連絡があったので、弁護士作成の委任状を持って、当日引き取りに行きました。入居者を囲い込んで離さないのはK社です。
(グループホームから入居者がいなくなることに)私は関わっていませんが、入居者が出ていっているというのは事後に聞いています」
一方、入居者がいなくなった側の橋本さんは、兄の主張に対し、こう憤慨する。
「うちは入居者を閉じ込めていませんし、行政からの指導も受けたことは一度もありません。嘘を言っているのは兄のほうです」
K社の入居者が次々といなくなっている事案の真相は、現時点で詳らかにはなっていない。だがすでに、高齢者施設における「入居者の奪い合い」とも言える状況は各地で起きているという。
強引な「奪い合い」が発生している背景について、関東近郊の老人ホーム経営者はこう説明する。
「超高齢化社会の備えとして、政府は老人ホームをはじめとした介護・福祉事業に多くの補助金を出してきました。その結果、民間業者も多数参入するようになり、特に関西圏では高齢者施設が供給過多となっています」
高齢者施設のなかで最も多い「有料老人ホーム」は全国に約1万6000施設、認知症の人を対象とする「グループホーム」が約1万4000施設、費用が安い公的施設の「特別養護老人ホーム」も約1万1000施設ある。
そうなれば当然、入居者獲得競争は過熱する。東京商工リサーチによれば、’24年の1年間で倒産・休廃業した老人福祉・介護事業者は過去最多の784件にのぼる。
「施設としてはとにかく利用者をたくさん入れて、介護報酬を得たい。理想は満床。なかでも重宝されるのが要介護度の高い高齢者です。要介護度が高ければ、それだけ報酬が高くなりますから。たとえば、要介護5の方を一人入れれば、施設側は最大で月36万円の介護報酬を受けられる。
最近では、そんな高齢者施設のために、『入居者紹介ビジネス』も活発化しています。高齢者を一人紹介すれば、施設からまとまったカネをもらえる。要介護度の高い高齢者だと紹介料100万~150万円を取る業者まで出てきている。『高額な紹介料を払う』と記載したチラシを配って入居者を集めている施設もあります」(同前)
なかには、どこから入居者を集めてきているかわからない、ブローカーのような悪質な業者がおり、業界内では、「まるで人身売買だ」という声もあがっているという。
ある介護事業関係者は、「その最たる例が連れ去りだ」と証言する。
「滅多にないケースではありますが、施設の元職員などが入居者に接触し、『ここは危ない』などと唆して同意書を書かせてしまうのです。認知症によって判断力が低下している方や、身寄りのない方が狙われやすいと聞きます。同意書がある以上、連れ去られた施設側も被害は訴えづらいですし、警察もなかなか介入しづらい」
「入居者紹介ビジネス」の横行については厚労省も問題視しており、今年4月に有識者による検討会を立ち上げるなど対応を行っている。
在宅介護エキスパート協会代表の渋澤和世氏は、介護業界の現状についてこう語る。
「介護業界は犯罪にならないギリギリの不正の温床であると言えるかもしれません。家族のいないところで、判断能力の低下している利用者に対して宗教や新聞の購読、特定の政党の支持などを勧誘するケースも多いです。
サービス付き高齢者向け住宅などは他業種からも入り放題で、反社のような組織が入り込みやすい業態であることは間違いない」
高齢者ビジネスで横行し始めている「人身売買」を止める手立てはあるのか。K社では現在、次の事案が起きぬよう、見守りなどの警戒を強めている。
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「週刊現代」2025年09月29日号より
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